第十二話「中級ダンジョンに出向きます」
一晩ぐっすり寝て次の日、俺たちは中級ダンジョンに向かうべく旅行の準備をしていた。
日本には二十五個の中級ダンジョンがあるが、何故か都心には一つもないので、山梨まで行かなければならないのだ。
「エレナ、準備できたか?」
俺は貸してあるエレナの部屋の扉をノックしながら尋ねる。
ユイは旅行ということでいったん自分の住むアパートに帰っていた。
「うん、バッチリよ。今すぐにでも行けるわ」
「了解。それじゃあユイを待つか」
それから二十分ほどでユイが帰ってきて、俺たちは自前の軽自動車に乗り込む。
「すまんな、狭くて」
武器とかも乗せると、流石に軽自動車だと手狭だ。
しかしユイは首を横に振って言った。
「いえ、全然大丈夫ですよ。田舎に住んでる実家の軽トラのほうが狭いので」
「そ、そうか。それじゃあ、さっそく出発するぞー!」
俺はやすっちいブルートゥーススピーカーで音楽を鳴らすと走り出した。
するとその音楽を聴いたエレナが感心の声を上げた。
「へえ……今の音楽って凄いのね。いろんな音がたくさん鳴っているわ」
「ああ、エレナの時代は聖歌隊とかが音楽の最先端だったのか?」
「一応管楽器とかはあったけど、田舎では聞けなかったわね。小さい頃に一度聞いたきりよ」
十七、十八世紀の音楽事情とか少し気になるな。
しかし聞いたところで音楽知識とか皆無なので、分からないだろうが。
「しかしエレナさんが1698年生まれなんてビックリですね」
「そうだなぁ。ジェネギャってレベルじゃねぇからな」
ユイの言葉に俺は頷きながら言う。
そして俺たちは東名高速道路に乗り込み、ひた走る。
軽自動車だから全然速度は出ないけどな!
ベタ踏みでもドンドン追い抜かされていく……悲しい。
いつの間にか後部座席の二人は眠ってしまったようだ。
まああのダンジョンも、肉体的な疲労は無いが精神的な疲労はもちろん溜まる。
眠ってしまっても仕方がないだろうな。
暫く走っていると、富士山がひょこっと顔を出した。
今は夏だからあまり雪をかぶっておらず、綺麗な青色をしていた。
「おい、お二人さん。富士山が見えてきたぞ」
一応二人にもそう声をかけてみた。
するとむにゃむにゃと眠気眼を擦りながら目を覚ました。
「富士山ですか……?」
「ああ、そうだ。ほら見ろ、今日はくそ晴れてるから良く見えるぞ」
ユイの言葉に俺が言うと二人は窓の外を眺めた。
そして二人して感嘆の声を上げる。
「おお、本当ですね! 凄く綺麗に見えます!」
「……へえ、日本にはあんな綺麗な山があるのね。凄いわ」
富士山は周りに高い山がないから、形がメチャクチャ綺麗なんだよな。
あんな山は世界中どこを探しても日本にしかないだろう。
「……って、私たち、結構寝ちゃいましたね」
「そうね。運転とやらが出来ないのが申し訳ないわ」
申し訳なさそうにしている彼女たちに俺は片手をヒラヒラさせながら言った。
「こんくらい大丈夫さ。そもそも俺、運転は好きなほうだし」
「そう、それなら良かったわ」
それから四十分ほど走り、富士山の麓までやってくる。
中級ダンジョンは河口湖の近くの樹海の中にあるらしい。
「とりあえず予約していたペンションに今日は泊まって、それから明日にダンジョンに行こう」
「お泊り会なんて久しぶりでなんだかワクワクしますね」
「そうだな。今日は一日フリーだから、ちょっと観光とかしてもいいかもな」
ここら辺は富士山と中級ダンジョンのおかげで相当賑わっている。
観光客や探索者で人がいっぱいだった。
俺たちは小さなペンションまで行くと、車を停めて扉を開けた。
「いらっしゃいませ、お客様!」
中から出てきたのは10歳くらいの小さな女の子だった。
家族経営なので、彼女はオーナーの娘さんとかなのだろう。
「ええと、予約していた斉藤ですけど」
「はい、斉藤さんですね! こちらへどうぞ!」
そして彼女に案内されて、リビングまで通される。
キッチンが併用してあって、そこで奥さんらしき人が料理をしていた。
「あ、いらっしゃい。今、フレンチトーストを焼いているから、待っててちょうだい」
確かにキッチンからはバターのいい香りが漂ってきていた。
その匂いにエレナがぐぅっと腹を鳴らした。
それを聞いた奥さんはふふっと笑い、さらに言う。
「もう少しで出来るわよ。あ、そうだ。アカリ、それまでにお客さんを部屋まで案内してあげて」
「はーい! お客さん、こっちです!」
そう言ってアカリと呼ばれた少女は俺たちを二階まで案内した。
「この部屋とこの部屋を使ってください! こっちが二人部屋になります!」
「ああ、ありがとうな、アカリちゃん」
俺がお礼を言うと、彼女は嬉しそうに笑いタッタと一階まで降りていった。
「じゃあ二人はそっちで、俺はこっちだな」
そう言うと部屋に入って荷解きを始める。
かなり綺麗に整えられていて、いい感じの雰囲気だった。
暫くすると一階から奥さんの声がかかる。
「お客さぁん! フレンチトーストが焼けたから一緒に食べましょう!」
そして俺たちは一階に降り、食卓に座った。
フレンチトーストは本格的なスキレットで焼かれていて、とても美味しそうだ。
生クリームとかフルーツとかがたくさん乗っていて豪華だし。
「じゃあ、いただきます!」
俺たちはそう言ってパクリと食べる。
うん、美味い!
エレナもユイも同じことを思ったのか、目を輝かせていた。
「美味しいです、奥さん!」
「ええ、本当に美味しいわね」
その感想に奥さんはふふっと笑って言った。
「それなら良かったわ。――それで、お三方はダンジョン目的? それとも富士山?」
「ええと、ダンジョンですね」
俺が言うとアカリちゃんは目を輝かせてこちらを見る。
「みんなは探索者さんなの!?」
「ああ、そうだよ」
「凄い凄い! いいなぁ、かっこいい!」
純粋に褒めてくれるアカリちゃんに俺は思わず照れる。
そんな彼女の頭を撫でながら、エレナは言った。
「ふふっ、アカリちゃんは探索者に憧れてるの?」
「うん! だってかっこいいじゃん!」
「でも、危険がいっぱいよ? こわぁい魔物とかも出てくるのよ?」
どうやらエレナは小さな子供の扱いに慣れているらしい。
構ってくれるエレナにアカリちゃんは嬉しそうに話している。
「大丈夫! 全部私が倒しちゃうんだから!」
「そう。じゃあもっと強くならないとね」
そんな風に俺たちは昼下がりの午後を過ごし、明日のダンジョン探索に備えるのだった。




