第十話「最弱少女とレベリングをします」
その日の夕方、俺の家にその少女――新城ユイを招待してハンバーグを作って貰った。
「あー、美味かったなハンバーグ」
「そうね。ユイは料理が上手なのね」
俺たちがそう言うと彼女は照れたように頭を搔いて言った。
「あ、ありがとうございます。……お金がなくて工夫しながら料理してたら、いつの間にか上手くなってたんですよ」
まああの初級ダンジョンでの日給は間違いなくそこらのアルバイトより少ない。
スライム一体で百円くらいか。
で、一体倒すのに大体十分だとすると、時給六百円。
重たい武器を振り回すから体力も必要だし、間違いなく割に合わないだろう。
「でも何で探索者に拘るんだ? 五年もあの初級ダンジョンに通ってるんだろ?」
「……笑わないで聞いてくれますか?」
俺が尋ねると彼女は頬を赤らめ俯きながら言った。
ユイの言葉に頷くと、彼女はポツポツと話し始めた。
「私、昔から弱虫で泣き虫だったんです。だから強くなりたかったんです。みんなが憧れるような強い人になりたかった」
その思いは切実で純粋だった。
俺は彼女に微笑みかけると言った。
「じゃあ、俺がユイを強くさせてあげるよ。……と言っても俺の力じゃないんだけどね」
「そ、そうです! 強さの秘訣を教えてくれるんですよね!」
食い気味にそう言った彼女に俺は頷くと、エレナも連れて庭に出た。
「……ここに何かあるんですか?」
不思議そうに首を傾げる彼女に、俺は被せておいたブルーシートを剥がす。
出てきた小さなダンジョンの入り口に、再び彼女は不思議そうに言った。
「ダンジョンですか? ……このダンジョンに何か秘密が?」
そんな彼女に俺は説明をしていく。
このダンジョンでは時間が進まないこと。
そして体力も魔力も減らないこと。
それを聞いたユイは目を輝かせてピョンピョンと嬉しそうに跳ねた。
「それは凄いです! ずっと潜っていられて、敵も確実に倒せるということですよね!?」
「ああ、そうなるな。ここでレベリングをすれば、ユイだってすぐに強くなれるさ」
ユイは俺たちにキリッとした表情を向けて言った。
「さあ、早く潜りましょう」
「……切り替えが早いな。まあいいけど」
そしてエレナはダイアモンドソードを、ユイは安物のレイピアを持ってダンジョンに入った。
ダンジョンの入り口には新しく第十五層に繋がる転移ゲートが設置されていた。
俺たちはそのゲートに入り、第十五層のボス部屋まで移動する。
「おお……ボス部屋なんて初めて見ました」
ユイがボス部屋の様子を見て感激している。
あの初級ダンジョンのボス部屋にも入ったことがないらしい。
ヒュドラが復活していることもなく、俺たちは第十六層へと足を踏み入れる。
第十六層は一面氷の世界で、キラキラと輝いていてとても綺麗だった。
その感想は少女二人も抱いたのか、うっとりするような声で言った。
「うわぁ……綺麗です」
「そうね。これは壮観だわ」
しかしそんな綺麗な風景に似合わず、魔物はとんでもなく強いらしい。
出てきたのはエンシェントウルフ。
Sランクとさえ言われる魔物だった。
「え、え、え、エンシェントウルフですよ、レンさん! ど、ど、どうしましょう!」
慌てたように逃げようとするユイの手を握って俺は言った。
「大丈夫だって。俺たちには攻撃が効かないから」
「そ、そんなこと言っても!」
そう言っても逃げようとするので、俺はあえてエンシェントウルフの攻撃を受けることにした。
そいつは前足を振りかざし、俺たちに向かって振り下ろしてくる。
「い、いやぁあああああ! 助けて! まだ死にたくな……って、あれ? 痛くない?」
攻撃が一切効いてないことに気が付いたユイはキョトンとする。
そんな彼女に俺はドヤ顔で言った。
「ふふふっ、どうだ! これがこのダンジョンの力なのさ!」
どうドヤっている俺にエレナが呆れたようにこう言った。
「あなた……《青のダンジョン》でビビッてたのは誰でしたっけ?」
「……うっせ、あれはビビッてたんじゃない、武者震いだ」
「はいはいそうですね。――ユイ、とりあえず私たちがこのエンシェントウルフを弱らせるから、最後のとどめをお願い」
エレナの言葉にユイは慌てたように両手を目の前でブンブンと振った。
「だ、ダメですよ! そんなことしたら私に経験値が全部入っちゃうじゃないですか!」
「それが目的なのよ。これはパワーレベリングってやつなのだから」
そう言うエレナの隣で俺は腕を組み、うんうんと頷いておく。
どうやって彼女をレベリングするかとか全く考えてなかったけど、その方法がいいだろう。
流石はエレナだ、凄く賢い。
「……いいんですか?」
不安そうに尋ねてくるユイに、俺はしっかりともう一度頷く。
「ああ、もちろんだとも。そのためにユイをここまで連れてきたんだから」
「でも……」
「強くなりたいんだろ? だったらこれが一番いいと思うんだ」
俺の言葉に彼女は泣きそうになりながら俺の手を握ってきた。
「ありがとうございます! レンさん! 本当にありがとうございます!」
そこまで真剣に人から感謝されたことがない俺は、照れて頭を掻きながら言うのだった。
「まあ、ハンバーグのお礼だからさ。これくらいは構わないってことよ」




