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2.神の溢れ話

こちらは1話に投稿した本編の補足的な内容になります。童話的完結は1話になります。そこを踏まえてご理解のある方はお進みください。





ソレアはこの世界を作りし神の末子だった。


神は数多いるも、この世界を作りし父なる神と母なる神の子ども達はほんの一握りだ。神の大部分は創世神となりし父なる神と母なる神の子ども達が生み出した神々となる。ソレアは創世神の直系であり、あまり力は強く無いが、他の神々とは一線を画していた。


神の子達は皆、それぞれの役目を持ち、それを全うする。ソレアは歌を司る神の一柱だ。けれど、芸事を司る姉が歌も司り、時に人々に加護を与える。なので神としての仕事をすることはほとんどなかった。だから動植物に囲まれて毎日歌を唄う日々を過ごしていた。


この世界に生み出されし神はほぼ悠久と言える生の中で一度人のいる地に降りる必要があった。この世界では人という生き物が最も野蛮であり、同時に賢い生き物だ。この世界を生かすも殺すも彼ら次第だろう。そんな彼らを知る為なのか、それとも何か特別な理由があるかはわからない。だが、地に一度降りる事は神がこれからの未来を選択する大事な時間だった。


神の選択は二つだ。このまま悠久の時を神として過ごすか、それともその身に宿る力を理に刻み無に戻るか。


後者はいつでもいいのだ。そう思えた時にそうしたらいい。神として自身に宿る力には役割がある。ゆえに理にそれを刻み込むのは最期の役目と言えた。ソレアはその役目に対して恐怖はない。けれど、まだ必要性も感じないのも事実。かといって悠久の時を神として過ごしたいかと問われれば甚だ疑問が残った。


何百年、幾千年と数多の神々が無に帰した。けれど、いつまで経ってもソレアの番は回ってこなかった。ソレアは女神の中でもとても幼い容姿をしている。神力である一定の年齢まで成長できるはずなのに、周囲よりもそれが早くに止まってしまった。高く見積もっても人間で言えば十代半ばくらいの容姿でしかない。それでも何も困らないのでそのままでもいいと思っていた。きっとソレアには何かが欠如している。それだけは理解しながら神々のみに流れるゆったりとした時間に身を任せていた。


生み出されたから一体どれほどの時間にただ身を任せていたのだろう。ある時、時を司る兄と芸事を司る姉がソレアの元にやってきた。兄はこの世界からもう離れてしまった創世神の代わりを務める存在だった。そして、姉はそんな兄に寄り添い支えている。所謂彼らは番だ。ソレアと彼らは兄妹だけれど、厳密にいえば少しそれは違う。創世神が生み出した子ども達はそれぞれの個があり、全て別物だ。ゆえに地上の人間のように血が近い、遠いを考える必要もないのだ。


兄は告げた。地上に降りよ、と。


姉は言った。貴女の心のままに、と。


地上に降りるには幾つか制約がある。身体能力は著しく劣る人間に近い身体を与えられる。そして神の力が最も強く宿す物を持って降りる事は出来ない。ソレアの場合、それは"声"だった。





地上に降ろされるとき、ソレアは眠りについていた。目を開ければ目の前には少し次元のズレた神々の世界から見ていた地上の人々の営みの中にいた。感じた事のない身体の重み、持ってくる事が叶わなかった声。言葉や字は理解できるも、様々な制約からそれを書く事は出来ない。人間とのやり取りは声が主流だ。声を出せない不便さの壁にすぐに当たってしまうとは先が思いやられた。


少なからずこの状況に困難を感じ、打ちひしがれるソレアに添う者がいた。ソレアを見つけ、村の責任者と思しき人物まで届けた少年だった。人間の男は少し怖い。女の形を取る物に対して見境のない行為を強いる者がいる。少しばかり警戒をしていたが、それもすぐに必要無いことがわかった。


少年はノーマといった。穏やかな性格をしており、神々が降ろされることの多いこの土地で神の世話役を任じられた者だった。


彼との日々はとてもゆっくりとしていた。少しでも生活に慣れる事が出来るようにと婆様と呼ばれ尊ばれる高齢女性の家で勉強をし終えると、ノーマのいる家に戻り食事をする。そして流星の丘と呼ばれる丘の上で星を見ながら他愛のない話を聞かせてくれる。


真綿に包むように大事にしてくれる彼との日々は心穏やかでとても温かい。これがもっと続くといいのに。そう思えてしまうほど、ソレアはどんどんノーマに惹かれていた。


ある雨の日の事だ。少し前にソレアは婆様からリラを譲り受けており、ノーマの隣に寄り添い爪弾いていた。奏でる旋律に合わせて彼が唄う。そんな時間に身を任せていると、曲の終わりとともに沈黙が訪れた。引き寄せられたのか、それとも求めてしまったのかは分からない。まるでそれが当たり前のように唇を重ねていた。


これは禁忌だ。いや、禁忌に触れるギリギリだろう。本来は時の流れが違う人間を求める事を神はしてはならない。それが創世神が生み出した直系の子であれば尚更だ。


それでも、その熱を交わしたかった。互いに許されない一線を感じていた。だから、許される範囲を勝手に決めて、それを交わす事は許して欲しい。抱きしめ合い、口付け、触れ合った。求め、求められる関係が心地よく、いつまでもそうしていられたらいいのにと願ってしまった。


だから、終わりは突然訪れた。





気がつけばまた元の場所にいた。緑溢れ、動植物に囲まれた空間。いつも身につけている服装で手には自分が長年使い続けていたリラが握られている。少し違うのは手足の長さが異なった。心なしか視界も僅かに高く感じる。幼い人間の少女のような容姿をしていたソレアは大人の女性へと変化していた。


ずっと長年身を置いていた場所に戻ってきたことは喜ばしいはずなのだ。なのにもうあの穏やかだけれど、内に秘めた狂おしいほどの想いに身を任せることは叶わない。


涙が一粒流れ落ちた。一つ流れれば次々に頬を伝って地面を濡らしていく。


なんで、どうして。そう思うもその答えをソレアはしっている。時を司る兄がその時がきたからとソレアを元の場所に戻したのだ。いつかそうなることは分かっていた。けれど、突然こんなことになるなんて思ってもいなかったから、ノーマと別れもしていなければ、彼を最後に己の中に刻みつけることもしていない。


こんなのってないよ。


戻ってきた声にのせてそう呟きソレアは泣き続けた。





どれくらい泣いていたのかはわからない。下手をすれば何年も泣き続けたのかもしれない。


芸事を司る姉がやってきた。泣き続けるソレアに干渉はせず、少し離れた場所からただ見守っていたのをソレアはしっていた。それが突然目の前に現れたのだ。神としての身の振りについて答えを出せということだろう。


そう思っていたソレアは一瞬姉の存在を認めた後はすぐに目を逸らしてまた泣き続けた。けれど、次の姉の言葉に耳を疑ったのは仕方ないことだと思う。


貴女を人間にしてあげましょうか。


何を言い出したのか理解できず、二度三度と姉を探るように見た。美しい微笑みを一層深めるとソレアを抱き寄せる。


姉は昔から優しかった。時を司る兄は自分にも他者にも厳しくなければならない。それを補うように姉は慈愛の女神の如く愛と優しさに溢れていた。


貴女の力は理に刻み、無に帰す魂の欠片を人へと転化させましょう。制約は大分解除できる。ただ、貴女の美しい声はあげられないけれど。


歌を司るソレアが歌を歌えなくなれば価値はない。けれど、それは神としての価値であり、人であれば問題はないだろう。


それでいい。だから彼の元に返して欲しい。彼とともに生き、彼とともに朽ちていく。それを心が欲しているからそれに従いたい。


是と答えれば兄が現れた。少し難しい顔をして、頭を一つ撫ぜるとそのまま頭に手を置いて光が溢れた。


ありがとう、兄様、姉様。


最後になるであろう、己の声を振り絞る。


一つだけ加護をあげましょう。愛しい者の前だけではその想いを伝えられるように。


光の奔流がソレアを包み込んだ。





瞼を開けばそこは流星の丘だった。リラが爪弾かれる音色が聴こえてくる。それに引き寄せられるように歩を進めれば、以前より大きくなった背中が見えた。


ゆっくりとゆっくりと近づいていく。声は出ないけれど、想いはきっと伝えられる。


「ノーマ」


思わず呼んだ己の声音に驚いた。何故声が出るのだろう。そんな事よりも瞼を閉じていた彼と目が合った事に思わず笑みが溢れる。


「ソレア!」


広げられた腕の中に飛び込んだ。以前よりも硬く、太く、逞しくなった腕の中で抱きしめられれば涙が溢れて止まらない。


引き寄せられるように何度も何度も口付けた。目と目が合えば微笑み合う。


「ノーマ、愛してる」


「ソレア、愛してるよ」


どちらからともなく溢れ落ちた愛の言葉。


きっと姉様と兄様は想いを伝える加護をくれたのだ。恐らく彼の前以外で声は出ないだろう。多分沢山の困難はある。けれど、彼は私と乗り越えてくれると信じている。


少しズレた次元から今日も彼らは見ているだろう。流星は彼らの涙であったり、笑いであったり、様々な感情の欠片だ。だから星空を見上げればそれを感じられる。


きっといつまでも私達を見守ってくれることだろう。







…fin.






御読了ありがとうございます。


愛とは視点を変えれば様々です。きっと女神の真意に彼らが気がついた時、もっと2人には幸せな未来が訪れるでしょう。


ではお付き合い頂きありがとうございました。

また他作品でお会いできる事を願います。

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