ボッチ学生のボッチ活動
他にもやっていますが、作中で行われるボッチ活動は、盗み聞きと覗き見だけとなります。
他人の楽しそうな会話を聞いているだけで、案外楽しいものです。
思いがけない情報が得られたりしますが、実際は別。
自分も会話の輪に入れた気でいられて、ボッチには充実感があったりするんです。
高校の教室。
「うわぁ、雪が降ってきた」
「えっ!? ……ホントだ! ここら辺じゃ珍しいねー!」
今日の日程が全部終わり、放課後になった直後。
僕が帰り支度を進めていると、雪が降り始めているらしい。
やだなぁ、最近寒さに少し弱くなっちゃって、大変なんだよ。
「雪かぁ。 でもそっちより大きなニュースが流れたのを知ってる?」
「え、なになにー? どんなの?」
でもそんなのはお構い無しに、近くの女子が騒いでいる。
……寒いだろうに、どれだけ元気があれば、あーなれるんだろうか。
「秋頃に、勝手に性別が変わっちゃったヒトが出たんだって」
「んー? でもそれは世界中で起きてたよね? 今更の話じゃない?」
愛用のカバンへ持ち帰るものを全部詰めて……あ、宿題に使う物を忘れてた。
「いやいや、日本で初めて出たんだって」
「へー」
「それでね、そのヒトはウチの市なんだって」
「うそー!?」
………………。
「ホントホント。 私のお父さんが市役所で働いてて、それで秋は忙しいって家でグチっててさぁ」
「えー、秋の話を今してるの? あやしー」
「なんだっけ。 し、ししし……ひし麦? てのがあってさ、発表されるまで秘密だからな? ってお父さんに言われてたのよ」
守秘義務かな?
でも守秘義務があったのに、子供に言っちゃったんだね。
これが知られたら、この子の親父さんはどうなるだろうね?
「はー。 もしかしたらこの学校に、その子が居るかもしれないのかな?」
………………。
「いないでしょ。 そんな都合良くいる方がビックリだって」
「だよねー」
うん。 いたらビックリだよねー。
まあ居るんだけどねー。
それが誰かは絶対に教えないけどねー。
「それでさ、もし私が男の子になったらどうよ?」
「格好いい! 付き合ってー、ぎゅーー!」
うほっ! 新鮮な百合っ。
抱き合うあの光景の間に挟まってみたい!
……とか思ってるけど、そんな度胸があったらボッチをやってないよな。 はぁ……。
あり得ない妄想はしてないで、帰り支度の続きをしないと。
「うおお、ミキサキちゃん達は今日も仲が良いねえ。 今どんな話をしてたのかな?」
……うわ来た。 あのふたりにまとわりつく、悪い虫の仲屋。
この野郎はチャラくて気持ち悪いセリフを吐くクセに、何故かあんまり嫌われないんだよなぁ。
やっぱりコミュ力があるからかなぁ?
「えー? 市内で性別が変わっちゃったヒトが居るかもしれないって話をしてたんだよー」
「そうなんだ? もしこのクラスで、そいつが居るかもしれないねえ?」
ほら。 あんなヒトを選ぶ外見しといて、さらっとあのふたりに挟まりやがった。
女子ふたりに挟まろうとする様な野郎は○んじまえ。
「そうなの。 それで、確認されたのが秋頃らしいんだ。 それと一緒に考えると、面白いかもね」
「んん……。 秋頃に何かがあったと言えば、河谷君がひどい風邪をひいて休んでいた位かな?」
うーん、支度が完全に終わってしまった。
とりあえず席に着いて、スマホをいじってるふりをしておこう。
それと河谷は僕だ。
「河谷ー?」
僕だ。
「ほら、えぇと……あの子だよサキ。 ほら、あの子」
あの子とか言っといて、指がふらふらしてて分かってないじゃん。
僕だよ。
「仕方無いかな? 河谷君はいつも一人でいるし、誰も近寄るなオーラをいつも出してるし、休み時間はいつの間にか居なくなってるし。 名前を聞く機会は少ないかもねえ」
「あー、河谷クンってあのボッ――――もがもが」
「こら、しぃ! しぃだよ、サキ……!」
うん。 ボッチって言い切る前に口をふさいでも、分かるから。
気を使ってくれてちょっと嬉しいけど、僕は望んでボッチになってるから、気にしてないから。
……いや、それ以前だわ。 あのチャラ男はよく僕の名字を覚えてたな。 そっちの方がショックだわ。
もしかしてそれがあの仲屋が嫌われない理由とか?
いや、それよりもヤベーこと言ったな。
なんであいつは僕の行動を把握してるんだ?
休み時間はテキトーにぶらつくか、ほとんど使われない遠いトイレへ行くことまで知ってそうで怖いんだけど。
いやさ、近いトイレだとウェーイ系の悪ガキ共が、トイレをよく遊び場にしてるんだよね。
そんな所のトイレなんて使いたくないだろ? だから遠いトイレを使っているんだよ。
「あはは。 でも、ちょっと河谷君は本当に怪しいんだよね」
怪しい? 僕はこの学校生活様式を一度も変えてないから、怪しまれるような事はしてないはずだけど。
「なになにー?」
「どうしたの?」
「河谷君の風邪が治ってから、河谷君から女の子みたいなニオイがするようになったんだよ」
「うわー、キモーい!」
「さすがに引く……かなぁ?」
「ええ? 女の子って良いニオイがして、好きなんだけど? 良くない? 落ち着くんだよねえ」
うん。 これは冗談抜きで気持ち悪い。
僕は本気でそう思うけど、女子ふたりはあまり嫌がってない。
何でだろうか? 普段から仲屋はセクハラ紛いの事を言っているから、慣れなのだろうか?
「ねーミキ、思い切って訊いてみようか?」
「止めなさい! この学校に、本当に居るかも分かってないんだから。 そもそも男子用のブレザーを着てるんだから、女の子な訳ないでしょ」
「はーい……」
「ん。 よろしい」
「やったー、ミキが許してくれたー!」
「ははは。 じゃあねえ、ふたりとも」
「ばいばーい!」
「じゃあね」
うむ。 立ち去る野郎への返事はおざなりにして、抱き合い続ける女子は実に素晴らしい。
「さて。 そろそろ帰ろっか」
「そうだねー、帰ろー」
今日は見納めか。 僕も帰ろ。
「う~ん、やっぱり女子っぽいニオイが河谷君からするよなあ……」
うをっ!? 立ち上がったら、仲屋がすぐ後ろにいた!!!
おいやめろ、マジで気持ち悪いから!
僕のそばで鼻を鳴らすな!
本当に気持ち悪いからっ!
「ねえ河谷君。 実は女の子だったりしない?」
うるさいよ! 近くに寄るなよ! どっか行けよ!
「う~ん、しゃべってくれないかな? 学校の教科書音読はタブレット教材の読み上げ機能だから、生徒が音読しなくて声を聞けないし。 河谷君とは普段からしゃべらなくて、どんな声かも知らないし」
しゃべらないよ!
しゃべりたくないから、ボッチを貫いてるんだよ! みんなと距離をとってるんだよ!
「…………睨まれるだけだね、残念。 じゃあその内、またしゃべろうねえ?」
絶 対 に い や だ よ !
蛇足
河谷
主人公。 かわたにえん。
ボッチを極めんとする、ボッチ気質のボッチ。
……だったのだが、秋頃にトランスセクシャルしちゃった元男子。
身長は160前半で、細い体格。 TSしてもそれは変わらない。
髪は黒のベリーショート(男子の短髪のまま)で、薄い顔。 喉仏がなくなり、まつげが少し伸びた。
胸は膨らんでおらず、腰まわりが女子っぽくなった。
この程度の変化なので、ボッチには支障が無いと意地で男子のままバレずに学校へ通おうとして、男装をしている。
現在の変化は以上だが、実は変化はまだ終わっていない。
時間経過でより女子らしい体つきになる未来が待っていて、次の夏の体育でプール授業を始める頃には男子水着姿で、男だとごまかせるレベルではなくなる。
どうなる河谷。
今河谷がTSしたと知っているのは、家族と教師達と診断した病院と国の関係部署だけだぞ!
どうやって隠し通そうとしているのだろうか?
ミキサキ
ちょっと控えめな口調がミキ。
ちょっとアレめで語尾をのばしがちな口調がサキ。
ショートヘアがミキ。
肩甲骨より下に伸ばしているのがサキ。
可愛い顔立ちがミキ。
どちらかと言えばキレイ系のサキ。
友達なのに抱きつくのは過剰なスキンシップだと思っているミキ。
親友なんだから抱きつくのは普通だと思っているサキ。
親友って存在に憧れがあるミキ。
このまま親友として仲良しでいたいなと願うサキ。
このふたりはどう考えても、デキてるだろと思っている周囲。
仲屋
気配りとか出来るチャラ男。 百合の中に挟まろうとする男はやられてしまえ。
妙に勘が鋭いチャラ男。
男女問わず気遣いが出来るチャラ男。
だからなのか、問題になりそうな発言でも理解を示されて多少は見逃される、特殊なチャラ男。
ボッチを気取り陰にひそむ河谷を認識し、名字まで覚えているのが少し怖いチャラ男。
もしこの後の話まで書いちゃったとしても、コイツと主人公がくっつくなど絶対に有り得ないので、心配ご無用。
教室近くのトイレに屯する男子
実話。
中学でも高校でも、オラオラ系統のウェイウェイ男子達が休み時間中の棲み処としていた。
あいつら、トイレは臭いだろうに何でそんなに好んで集まっていたのか、本当に分からん。
勝手に性別が変わっちゃう現象
願いの有無に関わらず、ある日突然無作為に人物の肉体の性別が変わってしまう現象。
通称はTS病。 実際に病気なのかは不明。
異性の性別になるだけでなく、男性であり女性でもある、本物の第三の性別になる者も出てきたらしい。
が、別にそれを掘り下げてどうなるって話題なので、この項目は以上。




