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~野良猫~小太郎日記 第四話 「友達」

第四話 「友達」


私のいきつけの蕎麦屋の近くには雑居ビルが建っている。


その一階には初老の男性が経営する一軒の古本屋がある。


その男性の名はガンじい。


「頑固なじじい」という意味である。


近所のガキどもが付けたあだ名だが、なかなかどうして的を獲たネーミングである。


ガンじいはその風貌もさることながらぶっきらぼうな物言いで人からは敬遠されていた。


が、私には愛想よく接してくれるので個人的には結構気に入っている人間の一人だ。


この日も蕎麦屋の帰りがけに顔を出してみた。


ガンじいは私を見つけるといつものように愛想よく手招きをしていた。


近くに寄っていくと私を膝に乗せた。


「また来たな?」


基本的に暇ですから・・・


「お前は数少ない常連様やな。本は買わんけどな?がははは!!」


猫に経常利益を求めるな。


「そや、まぁだお前に紹介してなかったな?」


紹介?


「ようし、客もおらんことやし丁度ええ。」


いいのか?


「よっこらしょ。」


ガンじいは私を抱え上げると店の奥に連れて行った。


「お前・・・重いな?」


噛むぞ?


ガンじいは奥の座敷に上がると自慢げに一つのカゴを見せた。


「どや!俺の友達や!!」


中には一匹の鼠がいた。


私に鼠を見せるとは・・・


喰えとでもいうのか?


「こいつはな花子っちゅうんや。」


はな・・・すごいネーミングセンスだな・・・


「こいつは喰えんぞ?なんといってもハムスターじゃからな。」


私には単なる鼠です。


「こら、花子!挨拶せなあかんやろ!?」


ガンじいが語りかけると花子と呼ばれた鼠(餌)は鼻をヒクヒクさせながら近づいてきた。


・・・射程圏内だ。


「こいつはな・・・俺にとって大切な友達なんや・・・」


その言葉に攻撃衝動が止まった。


「俺はな、こんな風貌でこんな性格やからな・・・この年になって天涯孤独になってもうた。」


花子はきょとんとした顔でガンじいを見つめている。


そんな花子の鼻先に指をもって行くと花子はうれしそうに甘噛みしていた。


「そんな俺でもこいつだけはいっつも近寄ってくれよるんや。」


確かに・・・花子はガンじいを見かけると嬉しそうにしていた。


「花子、こいつはな小太郎っちゅう猫や。心配せんでもえぇ、こいつはお前を喰うようなことはせんて。」


買い被りです。


花子は警戒しながらも私に顔を寄せてきていた。


仕方ない・・・私もにおいを嗅いでやるか。


私も同じように顔を近づけてやった。


「ええ友達になれそうやの?」


ガンじいはとても楽しそうに笑っている。


「こいつはな、言葉ではしゃべらんが態度でいろんな事を伝えてきよるんや。」


見ていると花子が動くたびにガンじいはにこやかに頷いている。


「そうか・・・腹へったか?」


「そうか・・・たのしいか?」


「そうか・・・そうか・・・」


そんなガンじいはとても優しそうに見えた。


そして花子もガンじいに何かを語りかけるように様々な仕草を見せていた。


「ガンじい・・・もっと餌くれよ?」


「ガンじい・・・もっと遊んでくれよ?」


「ガンじい・・・ガンじい・・・」


ガンじいには花子のそんな声が聞こえているに違いない。


「どうや、ええ友達やろ?」


私は自慢げに、そしてうれしそうにするガンじいが幸せそうに見えた。


「俺はな、こいつがいるから・・・生きていけるんや。」


花子という友達は人間ではない。


しかし、そこには目に見えない意思の疎通が確かに存在していた。


それを友情と呼ぶのかどうかはわからない。


ただ、現実としてガンじいは「生きていける」と言った。


そんな花子の存在は単に「友達」という言葉で片付けられない存在であることは間違いない。


・・・・ガンじい、ありがとう。


いい友達を紹介してもらったよ。


私は幸せそうなガンじいの店を後にした。







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