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~野良猫~小太郎日記 第三話 「価値観」

第三話 「価値観」


私の住む街には一件のペットショップなるものがある。


そこには我々の仲間や犬、小魚や鳥など様々な生き物が売られている。


ケージというらしいの中にいる商品と化した仲間たちを見るといささか腹立たしくなる。


まぁそれは私の個人的な感情だから置いておくとして・・・


この時間(大体3時くらいか・・・)になると決まって一人の少女が店から出てくる。


今日も出てきた。


なにやらにこやかに店内に向けて手を振ると小走りで帰っていった。


こうも毎度毎度出てくるということはよほど動物が好きなのだろう。


この店は子供にとっては身近な動物園なのかもしれない。


私はそう思うと妙にこの店が大切なものに見えてきた。



夕方になりねぐらに向かう途中、私は先の少女を見かけた。


市営マンションの入り口の階段に座り込み、頬杖をつきながら誰やらを待っているようだった。


しばらくして一人の女性が来ると少女の表情はぱぁっと明るくなった。


「ママ~!!」


「あら?さゆり、待っててくれたの?」


さゆりというのか・・・あの少女は。


「うん。ねぇママ・・・お願いがあるんだけど・・・」


「お願い?」


「うん、さゆり欲しいものがあるの・・・」


もじもじしながら母親のスカートを引っ張っている。


「めずらしいわね?さゆりが欲しいものをおねだりするなんて・・・」


母親はしゃがみこむとさゆりちゃんの頭を撫でながら聞いた。


「なにが欲しいのかな?」


「あのね・・・・ペットが欲しいの。」


母親は優しい笑みを浮かべると諭すように言った。


「ごめんね、このお家はペットを飼っちゃだめなのよ・・・」


「犬とか猫じゃなくても?」


「どんな生き物なの?」


「・・・・金魚」


それを聞いた母親は頭を撫でながら言った。


「さゆり、確かに金魚なら黙って飼っても大丈夫だと思うけど・・・世話が大変よ?」


「さゆりできるもん!!」


強情なガキだな。


母親はため息を一つ付くと微笑ながら言った。


「わかった。さゆり、いつも一人でおりこうさんにしてるからご褒美で飼ってあげる。」


「本当!?」


「うん。」


「わーい!!」


「ごめんね、さゆり。いつもひとりで寂しかったんだね?」


さゆりちゃんは首を横に振ると満面の笑みで答えた。


「パパいなくなったのは寂しいけど、ママがいるもん。」


母子家庭なのか・・・・


私は少しだけ少女に同情した。


「じゃぁ明日、母さん仕事お休みだから一緒に買いにいきましょうか?」


「うん!!」


親子は手をつなぎながらマンションに入っていった。




翌日・・・


私は少女がどんな金魚を飼うのか気になって後をつけてみた。


ペットショップに入ると、少女は一目散にとある水槽に向かった。


「ママ!!この子!!」


少女が指差した先には小さな赤い金魚がいた。


<コアカ 1匹 25円>


水槽にはそう書かれていた。


母親は怪訝な顔をして少女に言った。


「さゆり、もっと高い金魚でもいいのよ?」


「さゆり、この子がいいの!!」


やはり強情なガキだ。


「さゆり・・・」


母親が説得しようとした時だった。


「その子、毎日きてるんですよ?」


店員の女性が母親に声をかけた。


「そうなんですか?」


「ええ、その金魚がとっても気に入ったみたいで・・・」


「ねぇ、ママみて!この子、私が来ると近寄ってくるんだよ!?」


小さな赤い金魚はさゆりちゃんの前で口をパクパクしている。


はたからみていると会話をしているようにも見えた。


「さゆりちゃん・・・でしたか?彼女、ああやって毎日金魚に話しかけてるんです。でも・・・」


店員の女性は少し寂しそうな顔付きになった。


「その金魚たち、大型魚の餌用、つまり餌金なんです・・・」


「餌・・・ですか?」


さすがの母親もこれには驚いたようだ。


私も驚いた。


店員は頷くとさらに話を続けた。


「私、毎日楽しそうに語りかけてるさゆちゃんに餌金のことが言えなくて・・・」


そりゃ言えんわな・・・


「そしたら昨日、お得意様がまとめて買われたんです。」


大人買いってやつか・・・


「その時お客様が”うちの魚は大食いでな・・・”って言ったのを聞いていたみたいなんです。」


「この子、ここにいたら食べられちゃうの。だからお母さんに買ってもらうからってとっておいてもらったの・・・」


さゆりちゃんは俯きながら半泣きになっていた。


「さゆり・・・」


母親は優しく頭をなでて慰めていた。


「お母さん・・・私、さゆりちゃんに教わったんですよ?」


「え?」


店員は周りを見渡しながら続けた。


「ここには多くの生き物が売られています。高いものや安いもの、大きいものや小さいもの・・・」


確かに多種多様だ。


「でも、みんな生きているんです。かけがえのない命なんですよね・・・」


そう、さゆりちゃんにとって餌金はかけがえのない存在だったのだ。


母親は満足そうに頷いた。


「さゆり・・・大切に育てようね?」


さゆりちゃんは大きく頷いた。


「うん!!いっぱい大きくしてお風呂で飼うんだ!!」


・・・それはやめておけ。


私は幸せな笑みがこぼれる店を後にした。


命・・・


その価値は普遍であるべきものである。


しかし実生活において、いや自然の摂理からして優劣がついていると思われがちなものでもある。


弱肉強食という言葉が示すように・・・


だが、その価値観は視点を変えるだけで大きく変わるものなのだ。


私はまたひとつ人間から教わった。


ありがとう・・・さゆりちゃん。






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