翼屋
とある町の街はずれ。そこには町では唯一の今はもう、廃れてしまった商店街がある。
商店街の中心地から少し奥へと足を踏み込むと、そこには静かな商店がひっそりと立ち並んでいる。
静かに、でも確かに温かな命が感じられる。心から落ち着ける。そんな場所だった。
ガチャッ
ドアを押し開ける音とともに微かに鈴の音が静かな店内に鳴り響く。
それと同時に店内にいた髪の長い一人の女性がゆっくり振り向く。
「いらっしゃいませ。」
ここは翼屋。翼を売っている。
と言っても、空を飛ぶための翼ではない。「心の翼」を売っているのだ。
「これは梟の翼。知的で物静かな翼です。こちらは烏の翼。何にも囚われない、自由な翼です。これは隼の翼。工夫が上手な翼です。こちらは燕の翼。人懐っこい翼です。」
いろいろ紹介された。どれも魅力的である。
「また、翼という名前に様々な翼をかけあわせることもできますよ?? まぁ、それを買われていくお客様は今までに見たこともありませんが。」
首をかしげて少し残念そうにほほ笑む店員さん。それにつられて僕もほほ笑んだ。
春の朝日が二階の天窓から優しく降り注いでいる。
「じゃあ僕は、烏の翼をもらっていきます。」
「わかりました。自由の翼。素敵なチョイスですね。」
そういって店員さんはキーホルダーにしてくれた。翼と言っても五百円玉より一回り大きいサイズなのだ。
こんなに小さいもの、何か意味があるのかは分からない。
でも、まぁ、どん底にずっといるよりはましなのかな?? 聞いてる限り悪い物じゃないみたいだし。
「ありがとうございました。」
優しい声を背に、僕は店を後にした。