第87.5話 番外編 夢への第一歩 後編
「さ、流石『神の手ブランド』やな。……そこまでの技術力があるんやったら、いっそのこと『神の手ブランド』は全部オーダーメイド制にしたらどないや?」
「オ、オーダーメイドですか?」
「せや。最低限の火力は確保しつつ、そこからは客の要望通りに作ればエエんや。これやったら最小限の人数で作れるし、材料費、人件費も無駄がなくなるし……何よりぼったくれるで」
「本当ですか? 良い事教えて頂きました! ありがとうございます!」
そうか……オーダーメイドっていう考えもあったのね。
ウフフ、これは良い事教えて貰っちゃったわね。
「火力が出てるんやったら、ワシはクラシック銃が好みやねんけど、今日は持って来てるんか?」
「はい。丁度いいのがあります。ちょっと待って下さいね」
慎重にバックパックを降ろして、小さな段ボール箱を取り出す。
今回は箱にまでこだわっている時間がなかったのよね……。
蓋をパカリと開けるとおっちゃんが大きく目を見開いた。
「ぅをを……ぅをを……」
おっちゃんは声にならない声を出しながら、食い入るようにウォーターウェポンを眺めている。
手は触れないようにしながらも、どんどん顔とウォーターウェポンとの距離が近くなっていく。
その後箱の中に入れておいた手書きの品質保証書を手に取り、隅々にまで目を通している。
「あの、どうですか?」
「……最高や、最高やで! このアンティークの艶の出し方も、グリップ部分の『神の手』のエンブレムも。男心が分かってるわ!」
「エンブレムは入れるかどうしようか迷っていたんですよ」
「絶対に入れた方がエエ。みんなに『神の手ブランド』を自慢出来るからな」
おっちゃんがニヤッと笑った。
おぉ……歯も金色だよ。
「……他の銃も見せてみ?」
「うーん、本当は一人一つまでしか見せちゃ駄目って言われているんだけど。色々教えてくれたからお客さんだけ特別だよ?」
「クックック、商売上手の入れ知恵やな」
ウフフと笑って誤魔化し、ちょっと変わり種のウォーターウェポンを取り出す。
「なんや、近未来型かいな」
「そう。こういう変わったのはどうかなって」
「変わったの? 何かが違うんか?」
「このウォーターウェポンは威力の調整が可能で、しかも着弾後に電気を流せるのよ。ここのダイアルで電流の量も調整出来るし、MAXにすればバベルタイプでも動きを止められるんじゃないかな?」
「かな? って何や。試してへんのかいな」
「無理だよ。そんな時間なかったもん。そもそもアタシじゃ娯楽のゾンビハントに参加出来ないよ」
あんな馬鹿高い参加料、払えるわけないでしょ。
「クックック、分かった。今見せてもろた二つ、ワシが買うたる。んで、こっちの近未来型の方を使てみて、実際に効くかどうか試して来たるわ」
「本当ですか! ありがとうございます!」
「その代わり、今回の代金は勉強してくれるか?」
「アレ? ぼったくっても良いんじゃなかったかしら?」
「コラ、ワシからぼったくってどないするんじゃ。しかもそれはオーダーメイドやったら、って話やったやろ? ホンマ怖いわー」
そうだったかしら? なんて惚けながら、どうしたものかと考えを巡らせる。
霧ちゃんからは強気の値段設定で攻めろと言われている。
お客さんは『神の手ブランド』の一番最初のモデルだという事を、そして後々上昇するプレミア価格を、必ず理解しているからだって。
強気か……幾らくらいなんだろう。
携帯電話を取り出し、画面に電卓機能を表示させる。
「……これくらいでどう……ですか?」
恐る恐る打ち込んだ金額は、お父さんの月給の約二倍。
つまり一丁につきお父さんの月給ひと月分。
電卓を覗き込んだおっちゃんの視線が、鋭く尖ってアタシに突き刺さる。
「……ワレ、商売舐めとんか」
ひぇぇぇ、ご、ゴメンナサイ!
流石に強気過ぎましたー!
慌てて数字を打ち直そうとしたら、おっちゃんがアタシの携帯を鷲掴みにした。
アハハって笑って誤魔化してみても、もう遅い……よね。
「このド阿呆! 今誰もが欲しがっとる『神の手ブランド』やぞ! こんな恥ずかしい値段で買えるか!」
おっちゃんが携帯電話を返してくれたら、アタシが打ち込んだ金額にゼロが一つ付け加えられていた。
ア、アレ? 怒っていたのって……安過ぎたから?
「あのな神の手、もうちょっと相場っちゅうモンを勉強せなあかん」
「……はい」
「ワシらみたいな者はな、ゾンビハントに出掛けた時、こんなエエウォーターウェポンを持っとるんやで! って、仲間内で自慢し合っとるんや。こんな恥ずかしい値段、みんなの前でよう言われへんわ」
「……はい。すいません」
「世界の金持ち連中は、金払う事もステータスやと思っとる。その辺の自尊心みたいなモンも、これからは上手にくすぐったらなアカンで?」
「……ありがとうございます。よく覚えておきます」
「それで……どうや? ホンマにワシが打ったこの値段でエエんか?」
コクコクと頷くと、おっちゃんは自分の電話で何処かに連絡を取り始めた。
「今何処に居る? 一本持って来て。……ド阿呆! そんなモン、今どうでもエエんじゃ! ……おう、急げよ? ほな――」
おっちゃんが電話を切って間もなく、一人の男性が息を切らして走って駆け寄って来た。
普通のサラリーマンみたいに見えるけど、本当は違うの……かな?
「ほなコレ、お金な」
おっちゃんから受け取ったのは、手さげの紙袋に入った現金。
ちょっと重くない? って思ったから中身を確認してみたら……多い! 多いよコレ!
「おっちゃん、多いよ!」
「手付金や」
「へ? 手付金?」
「せや、オーダーメイドで注文頼むさかい、このウォーターウェポン使こた感想教える時に、細かい注文するわ。ここに連絡先書いて」
おっちゃんが名刺を二枚渡してくれたので、言われるがままに片方の名刺の裏側にアタシの連絡先を書いた。
「ほなワシはこれで。まだウォーターウェポン残ってるんやろ? さっき言うた事もよう考えて売らなアカンで?」
「はい。本当に色々とありがとうございました。お世話になりました」
深々と頭を下げていると、おっちゃんはそのままスタジアムの奥へと消えて行った。
売れた。売れたよ、みんな。
凄い金額で売れたよ!
しかも大切な事も沢山教えて貰えたよ。
ウォーターウェポンが売れたっていう清々しい気持ちと、勉強不足で迷惑を掛けてしまったというモヤモヤした気持ち。
半分半分を胸に抱いたまま、下げていた頭をガバッと上げると――
「スイマセン! 他にもウォーターウェポンがあるって本当ですか!」
「ワシじゃ! ワシが先じゃ!」
「もう注文出来るのか? してもエエのんか?」
アタシの周りに人だかりが出来ていた。
ウフフ、おっちゃんが怖くて今まで近寄れなかったみたいね。
……でも、流石にこの人数はアタシじゃ捌けないよ。
「霧ちゃん! 助けてー!」
アタシの大切な一歩目、踏み出せた……かな。
おっちゃんは凄く良い人でした。
泉さんは凄い金額で売れた! と思っていますが、おっちゃん自身は凄く勉強してもらった金額だと思っています。
しかも手付金を払う事で、初のオーダーメイド注文も優先的に作らせようとする、頭の回転が速いおっちゃんでした。




