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苦労するサンタと赤鼻のトナカイ

作者: 江ノ木右座

 人気女優ファービラ・サンドリッチの一人息子パパタは、欲しいものを求めていた。それは、何か欲しいものがあるけれど、手に入らないという意味ではなく、欲しいものが見つからないという意味であった。


 母親の成功によって、パパタは欲しいものが全て手に入るという、いい身分にあった。パパタは極度な人嫌いで、誰とも付き合いがなかった。そして、その状況も彼が求めて手に入れたものの一つだった。


 誰にも会わない生活が、彼にとっては必要だった。しかし、それは本来人間のあるべき姿ではなかった。彼も心の奥では、人との関わりを求めていた。そして、その欲求の穴埋めとして、彼は浪費を重ねるのであった。簡単に言えば、心の寂しさをもので埋めていたのだ。


 全てを手に入れ(しかし、それはくだらないものばかりであったが)、欲しいものに囲まれて、彼はひととき幸福感を得るのだが、気が付くと、彼はまた飢えていた。そして、その飢えを満たすために、また買い物をするのだ。


 そうしていくうちに、彼にとっては、欲しいものを見つけることが、困難になってきた。彼の興味のあるもので、彼がまだ持っていないものは、もうあまり無かった。仮にあったとしても、それは彼がすでに入手したものの類似品で、そういったものには、もう彼はときめかないのだ。


 そんな時、彼はあるニュースに興味を持った。そのニュースの主人公を、世間の人は「苦労するサンタ」と呼んでいた。この「苦労するサンタ」という名前は、その「苦労するサンタ」本人が名乗っているもので、「サンタクロース」をもじった名前の様であった。


 「苦労するサンタ」という人は、その性別すら不明だが、サンタクロースのように子供たちにプレゼントを与える人物で、特に不幸な境遇にある子どもたちに、正体を伏せてプレゼントを送っていた。そして、そのプレゼントには、必ずカードが付いていて、そこに「苦労するサンタより」といつも書かれていた。


 パパタはこのニュースを見て、自分も真似したくなった。喜びのない生活にある彼にとって、この様な行為は、大変な魅力があった。恵まれない子どもたちにプレゼントを与える謎の男。しかしてその正体は、女優ファービラ・サンドリッチの息子だった。彼の中で、このストーリーは、とても格好良かった。


 彼はさっそく実行に移した。彼は自らを「ルドルフ」と名乗り、先輩の「苦労するサンタ」と同じく、子どもたちにプレゼントを贈る活動に勤しんだ。金に困らない彼にとって、この「ルドルフ」としての活動には、限界が無かった。


 彼は「得る」ことの喜びには限界があっても、「与える」ことの喜びには、限界が無いことを知った。「ルドルフ」の行為に賞賛を与えていた世間の人たちは、やがてそのニュースに飽きて、彼のことを忘れていったが、その事実は、パパタにとっては活動の障害にはならず、むしろ喜びだった。


 これで、彼は何も得ずして人に与えることが、出来るようになったからだ。こうして彼は、久しぶりに満たされた生活を手に入れたのであった。

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