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プリン+醤油=ウニ(食譜)

作者: 望月笑子

三陸は、新鮮な魚介類の宝庫だ。岩牡蠣にフレッシュレモンを絞り、醤油を垂らしても、美味い。あったかご飯の上に、醤油漬けのイクラをかけ、すりおろしたワサビをのせても、美味い。大きめのホタテ貝も、美味い。でも、一番美味いのは、ウニに醤油を垂らして食べることだ…。

お盆を過ぎた8月下旬に、友人と宮古の浄土が浜の海へ遊びに行った時のことである。

『お盆過ぎの波は高くて危険』とは聞いていたが、20代前半だった若い私には、関係ないことだと甘くナメていた(3.11以前の話である)。

早速、水着に着替え、膨らませたドーナツ浮き輪の穴に体を入れると、張り切って海に飛び込んだ。

快晴だった。浄土が浜の砂は白い。白い砂浜を眺めながら、プカプカと海を漂う。

ウトウトしながらしばらく海に浮かんでいたが、気が付くと、いつの間にか、赤い旗が立っている『進入禁止区域』より遠くまで流されていた。

この赤い旗が、『遊泳禁止』を意味するとは、当時は知らなかった。


砂浜には、海岸沿いで遊ぶ何組かの家族連れはいるが、他に泳いでいる人は誰もいない。一緒に来た友人は、ビニール・シートの上で昼寝をしている。何を叫んでも、波と風が、全てをかき消した。

寄せては返す波が、浮き輪の私の体力を徐々に奪っていく。

両足には、ヌルヌルとした生ぬるい感触のワカメがまとわりつき、今にも海中へ引きずり込まれそうだった。

慌てれば慌てるほど、塩っ辛い海水が、目や口や鼻の穴に入り込んだ。


岩の上に立つ無数のウミネコ鳥が、目を丸くして私を見ている。

ふと、意識が遠のいた…。このまま、太平洋にまで流され、サメの餌食になってしまうのか、と思うと、とてつもない恐怖心に襲われた。

「人間って、こうやって死んでいくのかな…」

そんな心境の中、生まれて初めて、死を意識した。

バカな人生だった。いや、まだ若い人生だった。お盆過ぎの海は波が高いから危険だ、と警告されていたが、友達とのスケジュールが合わなかった。誰にも罪はない。これは、運命だったんだ。

海面を漂いながら、「あまりにも、マヌケな死に方だな」と自分を蔑んだ。

時間だけが過ぎていく…。砂場が遠のいていく…。


「もうこうなったら、運を天に任せるしかない!」流れに身を任せながら、ひたすら泳ぎ続けよう。そう思った。浜辺に戻れる自信はなかったが、ただひたすら手足を動かした。

海に浮かぶ無謀な生き物。サメの餌にだけはなりたくなかった。それだけが、私を突き動かしていた。

どうやって岸に辿り着いたかは、具体的には覚えていない。岸辺が近付くと、波に戻され、体を休ませる、という繰り返しだった。

再び、ワカメがまとわりつく地点にまで流され、その気持ち悪さから、必死に泳ぐ、その繰り返しだった。



3キロは痩せた気がする。友達にそのことを話すと、「そんな事あったなんて知らなかった。」と笑われた。

浄土が浜の名物は、ウニ丼。ちょっぴり塩辛いウニを頬張りながら、海の恐ろしさをしみじみと噛み締めた1日だった。

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― 新着の感想 ―
[一言] ジャンルが『コメディ』でこのタイトル…。 読んでみたら、「怖っ!」ある意味ホラー。 これからの時期、海の事故には気を付けなくてはなりませんね。 ボクは泳げないので、こう言うシチュエーション…
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