少女邂逅
軍に入隊してからの成長もすさまじかった。もともとのポテンシャルに、軍で叩き込まれた剣技が加わり、3年もすると剣術師範でさえ少女に勝つことはできなくなった。彼女はいまや千の騎兵を束ねる立派な一軍の将である。
「明日・・・か。」
と、少女は独り言を零す。
明日は少女の初陣である。少女が保護されてから敵国との戦争は一時休戦となり、少女がいっぱしの兵士になってからは戦闘行為が全く行われていなかった。だが、敵国からの一方的な侵攻が起こり戦争が再開となったのである。
彼女は確かに強い。だがまだ本気の殺し合いをしたことはないのだ。
そして思い返す。3年前のあの光景を。敵国の兵士をこの手で殺したのは知っている。が、覚えていない。
彼女の記憶に残っているのは、かすかな快感だけだ。
「レリア」
そう声をかけるのは、豪奢な鎧にたくましい髭を蓄えた初老の男だ。此度の戦の総大将を務める男である。
また、レリアに剣を教えた師範でもある。
「いよいよお前の初陣だ。無理はするな。戦場は過酷だ。初めてのお前に期待はしていない。無理をせず生きて帰ってこい。」
少女はこくりと頷くと、馬を駆り自分の軍へと帰っていった。
その後、少女の軍隊は敵に侵攻された城の付近まで歩をすすめた。
もう敵陣は目と鼻の先だ。
「此度の戦は協定を破りし敵国を誅する戦である!正義は我にあり!進め!彼の地を我が主の下へ!」
響き渡る総大将の檄に軍の士気は大いに上がった。
「全軍進め!」
「応!」
少女も愛馬を駆り、千の騎馬隊とともに駆ける。
程なくして正面から敵騎兵の姿が見える。
少女は初陣の兵だ。本来ならばその殺気、熱気にのまれ全身が縮まっているだろう。
その時少女はただ笑っていた。
自分に向けられる殺意に身は昂り、普段あまり感情に起伏のない彼女の心は天に昇るほど猛っていた。
もう、我慢できない。
「殺せっ!!」
彼女はとても号令とは思えないその叫びと共に、敵の中に消えていった。