表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
本の主人公になる能力  作者: 昔のアカウント
少年ヴェルムは本を読む。
9/14

本好きの少年は冒険者になる。(1)

次の週です

月曜日





 太陽が昇ってくると同時に俺はぱっちりと目が覚めた。

 


「いい朝だ~!」



 最高に気持ちがいい!

 まるで生まれ変わったかのような気分だ。

 まあ生まれ変わったようなのもんだな!

 なんてったって今日は俺の10歳になる誕生日だ。


 10歳!

 10歳になると、あるとてもすごいものになる資格が得られるのだ。


 それは冒険者。

 世のため人のためになる様なことをしたり、前人未到の未知を探求したりする、すごい職業なのだ。

 一言で言い表すなら、男のロマンってとこかな。

 めちゃめちゃかっこよくて、めちゃめちゃ痺れるような、超憧れの仕事なのだ!


 その冒険には危険がつきものなので、10歳にならないと子供は冒険者登録すらできないのだ。

 まあ、登録できたとしてもある程度実力があることを認められるまでは薬草採取や町の人の手助けなど、簡単な仕事しかやらせてもらえないらしいんだけどね。

 冒険者では大きなけがをしている人もたくさんいるし、死んでしまった人もたくさんいるらしい。

 だから最初に危険な仕事をやらせてもらえないのは初心者のことを心配してのことだとは思うから納得はしている。


 不満がないわけではないけどな!

 危険な仕事をこなして強くなっていくことに憧れてるんだから、早く闘ってみたいとは思う。


 というわけで早く飯を食って冒険者ギルドに行こう。

 


「母ちゃんおはよー」


「あらあらヴェルム、今日は早いのね。今週は優しそうで安心したわ」


「今週は?どういうことだ?」


「あなたがわからないんだったらいいのよ」


「うーん……」



 なんかよくわからないけど、母ちゃんが悲しそうな顔をしている。

 誰が母ちゃんを悲しませてるんだ!

 見つけたらこっぴどく懲らしめてやる!



「さ、朝ごはんも用意できてるわよ」


「そうか、いっただっきまーす!」


 

 今日のご飯はハムエッグのようだ。

 もちもちの小麦パンが、塩漬けのハムの塩味とちょうどよく合っていてとってもおいしい。

 目玉焼きは黄身が半熟で、とろとろしてておいしい。

 目玉焼きの味付けは塩だけど、母ちゃんの故郷に伝わるショウユとかいう調味料だともっとおいしくなるらしい。

 まあ港町であるこの町は塩が割と簡単に手に入る。



「ごちそうさまでしたー!」


「はいお粗末様。今日はどこかへ行くの?」


「ああ!冒険者ギルドに登録しに行くんだ!なんてったって俺はもう10歳、大人みたいなもんだからな」


「冒険者…ね。いつかは来ると思っていたけどまさか今日になってしまうなんて…」


「ん?今なんていったんだ?」



 なんか母ちゃんがごにょごにょ言ってる。

 声が小さくってなんていってたか聞き取れなかった。



「いいえ、なんでもないのよ。それよりも、冒険者は本当に危険だからいつも以上に気を付けてね。本当に、本当に心配してるのよ。私もお父さんも、あなたのことが大好きなんだから」


「大丈夫だって!怪我したりしないさ。じゃっ行ってきまーす!」



 飯も食い終わったし、早速冒険者ギルドへ向かおう。

 海から少し離れ、内陸にある森に少し近づいたところが冒険者ギルドだ。

 なんでも、海でなにか起きた時でも森で何かが起きた時でも速く駆けつけられるような場所に建てたらしい。


 港に近いところに家があるから、冒険者ギルドまでは少し距離がある。

 早く行きたいから小走りで行くことにした。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 ふう。

 やっと冒険者ギルドに着いた。


 別にすごく遠かったというわけではないが、少し迷ってしまった。

 なんでかわからないけど、走っている最中に「冒険者ギルドはこっちだ!」みたいなことが頭に出てきて、そのたびに間違えそうになっちゃうんだ。

 まるで俺の中に俺じゃない人がいるみたいだ。というか、なんか知らない街に来ちゃったみたいだ。

 なんでだろう。俺は生まれてからずっとこの町にいるはずなのにな。


 

「よしっ!なめられないように、堂々と入るんだ。たのもーう、はちょっと違うな。ちーっすは調子に乗り過ぎかな?」



 普通におはようございまーすでいっか。

 冒険者は朝早くから仕事をする人も多いし、夜中に何かが起きることもあるので基本は24時間誰かがいるらしい。

 日が昇って少し時間がたった今ならたくさん人がいるかもしれない。


 俺は質素だけど堅実そうなそのドアを開けて、冒険者ギルドの中に入る。



「おはようございまーす!」



 ギロッと中にいる人の視線が集まった。

 うわすごい、実際にいるのは10人くらいなのに迫力のせいで20人くらい居そうに感じる。

 というかみんなムキムキで、なんか強そうな武器を持ってる。

 さすが冒険者だ!わくわくするぜー!


 

「なんだ坊主!依頼か?登録か?」


「登録じゃねえか?10歳くらいだし」


「懐かしいなあ。俺も初めて登録したときはあんな感じになよなよしてたな」


「俺は最初から強かったけどな!」


「何言ってんだ!てめえはここに来たとき俺らの迫力にビビッて固まってたじゃねえか!」


「「「がははははははは」」」



 うわっすごい。

 なんかすごい。



「おいおいお前ら静かにしろって。坊主が固まってるぞ。おい君、受け付けはこっちだよ。おいで」


「は、はい」



 なんか優しそうな、でもめちゃくちゃ強そうな兄ちゃんが声をかけてきた。

 まあみんな荒っぽいけど悪い人ではなさそうだ。



「君、名前は?依頼に来たの?登録に来たの?」


「俺はヴェルムだ。冒険者登録に来た!」



 こういうときは威勢よく、だ。

 なめられちゃだめだからな。



「ヴェルム君、ね。いくつか書くことがあるけど、自分で文字は書ける?かけなければこっちで代筆するから」


「大丈夫だ。字は書けるぞ」



 その言葉が聞こえたのか、周りにいた冒険者ががやがやしてる。



「おおあのガキ、ヴェルムだっけ?字が書けるらしいぜ。俺は最初の頃かけなかったけどな」


「読み書きができないと依頼とかで騙される可能性があるからってことで、俺も最初は先輩に教わって必死に覚えたなあ」


「俺は最初から読み書きはできたぞ!」


「いやいや、お前今でも字間違えることあるだろうが」


「「「がははははははは」」」



 なんかさっきと同じ感じだ…。



「お前ら少しは黙ってろよ!この子の声が聞こえないだろうが!」


「声も聞こえねえようなガキなら見込みはねえな」


「違ぇねえ」


「俺だって声ぐらい張れるぞ!」


「おおおおすごいすごい」



 なんだよあいつら!

 今に見てろ、すぐに追い抜いてやる!

 でもまあ、こんなやり取りこそ冒険者っぽくて楽しいんだけどね。


 

「じゃあこの用紙を埋めてくれ」


「わかった」



 用紙には、名前を書く欄や名字を書く欄、年齢や職業を書く欄のほかに、得意武器や戦闘スタイルなどといったものがあった。

 


「名前とかは書けたけど、この得意武器とかがない場合はどうすればいいんだ?」


「ああ、そこは参考までに書くってだけだから書かなくても平気だよ」


「参考?」


「ああ。そういうのが分かっていた方がお互いパーティを組みやすいだろ?けどまあ最初はみんな空欄なんだけどね。それに、戦闘スタイルだって変えることが結構あるからそんなに重要視しなくてもいいよ」


「ふーん」



 まあなんかいろいろ理由があるということはわかった。

 パーティか……。

 お互いに信頼し合って、背中を預けられる存在。

 憧れるなあ!



「じゃああとは任意で潜在能力を測ったりできるけど、どうする?測る?」


「それは測るとどんなことがあるんだ?」


「一番は自分の身の丈を知れるってことかな。あらかじめ力があることが分かっていればその分挑戦することができるし、弱いことが分かっていれば慎重に戦う相手を選ぶことができる」


「ほかには理由があるのか?」


「ここで先輩冒険者に実力を知ってもらうことでパーティに誘われることがあったりするなあ。でもまあ、潜在能力ってだけで実際にそれが当てになるかって言うとそういうわけじゃあないんだけどね」


「どういうことだ?」


「努力次第でなんとかなるってことだよ。それに、その力を生かすも殺すも自分次第だしね。まあ、実力を隠しておきたいっていう人は測らなかったりするんだけどね。で、結局どうする?測る?}


「ああ、お願いする」



 ということでその潜在能力とやらを測定することになった。

 どうやら測定用の魔道具があるらしく、受付の兄ちゃんが奥の方から水晶みたいなものを取り出してきた。



「ここは田舎の港町のギルドだから、細かく数値は出せなくて大中小で表せるだけなんだ。もっと細かく知りたい場合は王都とかのギルドに行くぐらいしかないよ」


「ああわかった。じゃあ早速測ってみようぜ」



 俺がどの程度強いのか楽しみだ。

 ここにいるみんなをあっと驚かせるような潜在能力が眠っているに違いない。

 ニシシシシシシ!


 冒険者も俺に注目しているのがわかった。

 未来のパーティに入る可能性があるからそれもうなずける。



「おいヴェルム!お前がどんなに弱っちくても俺たちは見捨てねえぞ!」


「ああそうさ、見向きもしないだけだ!」


「「がはははは」」


「まあ強かったら将来俺らのパーティに入っていいぜ!」


「いやいや、俺のパーティにするべきだ。まあ強かったらだけどな」



 強ければ今後の冒険者ライフは保証されそうだな。

 でも、弱かったらどうしよう……。



「うじうじしても仕方ないな。お願いします」


「じゃあこの水晶に手を当ててくれ」


 言われたとおりに水晶に手を当てた。

 すると、水晶が急に曇ったかと思うとその曇りがいくつかの文字を映し出した。

 受付の兄ちゃんはそれを手元の紙に書き写した。



「うん……?まあとりあえず書けたのでこれを見ろ」



 差し出された紙にはいくつかの項目とそれの大中小が書かれていた。


 __________

 |近接適正値:小 |

 |中距離適正値:小|

 |遠距離適正値:小|

 |魔法適正値:小 |

 |戦闘センス:極大|

 ――――――――――


「え……?」



 なんだよこの小ばかりならんだ適正は……?

 それなのに戦闘センスとやらだけは極大と書かれている。

 大中小だけじゃなかったのか?



「これは…一体どういうことだ?」



 受付の兄ちゃんもいぶかしんでいる。

 本当にどういうことなんだろう。

 

 二人して首をかしげていたら他の冒険者たちが近寄ってきて、この用紙をのぞき込んできた。



「なんだ…これ?」


「適正値が軒並み小っていうのもまず珍しいが……」


「なのに一つだけ、戦闘センスだけ極大っていうのは…」


「ってか極大ってなんだよ!大中小しか無いんじゃないのかよ」


「おいガイン!これはどういうことだ!」


「いやいや俺に聞かれても…。長年受付やってて初めてのことだし」



 どうやら受付の兄ちゃんはガインっていうらしい。

 っていうかやっぱり俺のこの適正値はおかしいってことなのか?

 測る前に冒険者達が、弱かったらとか強かったらとか色々言ったけど、これは弱いのか?それとも強いのか?

 やっぱ全然わかんねえ。



「マスターはいるのか?マスターに聞くしかないんじゃねえの?」


「いや、マスターは丁度今中央で開かれる定例報告会に行ってるせいでここにいないんだ」


「じゃあどうするんだよ、強いか弱いかわかんねえじゃねえか」



 ほんとにそうだよ。

 俺強いのか?

 まあでもこんなに小が並んでいたらあんまり強くなさそうだけど……。

 なんか急に自信がなくなってきたな。

 俺の冒険者ライフに早くも暗雲が立ち込めてきたようだ。


 そんなことを考えていると、一人の冒険者が声をかけてきた。



「いいじゃねえか面白い。戦闘センスなんてそれこそ実践に出さなきゃわかんねえが、そこがまた面白いじゃねえか」


「お前は……!Aランク冒険者のデュシス!」


「じゃあなんだってんだ?デュシスがヴェルムの教育係をやるのか?」


「まあデュシスだったら万が一はないだろうけど、大丈夫なのか?」


「ああ、こんなに面白そうな適正値の奴は初めてだ。おいガイン、こいつのこと俺に任せてみないか?」


「まあいいけど」


「じゃあ決まりだな。おいヴェルム!それでいいな?」


「あ、ああ。よろしく…?」



 なんかあっという間に話が決まってしまったようだ。

 どうやら俺はこのデュシスという人に教育係?をやってもらえるらしい。

 このおっさん、かなり強そうだ。


 年齢は40歳くらいか?かなりベテランっていう雰囲気が漂っている。

 からだは細身だが、それは決して痩せているという感じではなく、無駄な筋肉すら絞っているような感じだ。

 なんか眼光なんて何もかもを見透かしてそうな知性が宿ってるし、さっきの様子を見る限りだと信頼も厚そうだ。

 つまり!めっちゃかっけえ!!

 なんかこれぞ冒険者って感じ?

 超憧れる!



「おいヴェルム!よろしくお願いします、だ!」


「痛ってえ!なんで殴んだ!?」


 

 デュシス急に殴ってきた!? 

 なんだよ!



「いいかヴェルム、冒険者っていうのは信用が一番なんだ。だから上の人への礼儀っていうのは最低限きちんとしてないと依頼すらしてもらえなかったりする。わかるか?」


「お、おう…」


「違う!はい、だ!」


「はい!」


「俺は礼儀についてもかなり厳しく言うからな。覚悟しておけ」


「は、はい……」



 デュシスはどうやらかなり厳しいやつみたいだ。

 会話を聞いてた冒険者達も心なしか引いてる気がする。



「おいデュシス、その辺にしてやれよ。そいつもまだガキだぜ?」


「だからやってるに決まってんだろ。冒険者ってのはなりたてのこの時期に一番よく死ぬもんだ。ここがもっと冒険者数が多いギルドだったらいいが、今はここが拠点の奴なんて30人くらいだろ?だったら人員を無駄に減らすのは得策じゃあない」



 そういうもんなのか。

 まあでもデュシスがこんなに厳しいのは俺が死なないようにってことか。

 それは単純にうれしいな。

 

 でも、俺の中にふと一つの疑問が浮かんだ。



「なあデュシス」


「デュシスさんと呼べ!…で、なんだ?」


「冒険者ってこんなにかっこいいのになんで人数が少ないんだ…ですか?」


「それはいくつか理由があるが…まず一つはここが港町だってことだな。港町なら安定した仕事なんて割とすぐに見つかるもんだ。それでも冒険者になるのはよっぽど商才のないやつか安全より危険を求めるバカだけだからな」


「そうそう。俺らはみんなそういうバカなんだよ」


「それであわよくば一攫千金なんて夢見ちゃったりな」


「これぞ、男の浪漫ってやつよ!」


「か、かっこいい……!」



 すごい!

 これが冒険者って人たちなんだ!

 なんて痺れる人たちだ!



「おお、坊主もわかるのか?この浪漫ってやつを」


「坊主もそのバカってことかね」


「「ハハハハハ」」



 と、みんなが落ち着いたのを待ってからまたデュシスが話し出した。



「あとはまあ、ここが平和だってことだな。もっと田舎に行くとたくさん魔物がいたりするから依頼は豊富にあるし、都会だったら治安が悪かったりしてこれまた依頼がたくさんある。それに港町だと行商人の護衛依頼とかで長距離を移動することが多いからな。拠点にする奴はそんなにいないんだよ」


「ふーん、そうなのか。まあでも平和ってのはいいことなんじゃねえのかデュシス」


「おいヴェルム!礼儀がなってないって何度も言えばわかるんだこの野郎!」


「痛たたたたたた!は、離せーーー!頭ぐりぐりすんなーー!」


「離してくださいだろうが!」


「離して!離してくださいぃぃぃ」


「おいおいデュシス、その辺にしてやれって」


「「「ガハハハハハ」」」



 かなり厳しい人だけど、この人に教えてもらえるのは案外恵まれてるのかもしれないな。


 頭をぐりぐりされる痛みの中で俺はそう思った。

「いやー俺は釣りなんてしたことねえから書くの大変だったぜ」

「じゃあ冒険者はしたことあんのかよ?」

「いや、それもないけどな!」


「「「ガハハハハハ」」」



っていう独り言。


登場キャラが明るいと書きやすいですね!



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

名前をデュシスに変更しました

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ