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少年ヴェルムは本を読む。
7/14

本好きの少年は釣りをする。(5)

またもや遅れました

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 夢を見た。



 俺がいつものように釣りをするために海岸に来ていた。

 するとそこにはいつもと違って数人の子供の人だかりができていた。



 場面がとぶ。


 俺は何かに乗って海の底を目指していた。

 息ができないはずなのに苦しくはない。



 また場面が飛んだ。

 

 目の前には色とりどりの魚がたくさんいて、奇妙な動きをしていた。

 不思議な女の人が俺に箱を渡してきた。

 持って帰るのも大変そうだし小さいほうの箱を受け取った。



 気づいたら地上に戻っていた。


 しかしそこは俺が知っている海岸ではなくなっていた。

 やはり俺は騙されていたらしい。

 全く違う場所に連れてこられたのだろうか。

 

 寂しい。怖い。

 俺はだれのことも知らず、誰も僕のことを知らない。

 どうして?僕が一体何をしたというの?




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





土曜日




 別に何か用事があったわけではないが、その日も朝早くに目が覚めた。

 なんだかどうしても海に行かなければいけない気がした。焦燥感すら感じた。


 ちょうど昨日ダンに小舟を借りておいたし、釣りをするでもなくただ波に揺られてのんびりしたい。

 

 何はともあれ俺は海に向かうことにした。




 海に向かう最中も俺の胸にこびりついたような焦燥感がなくなることはなく、むしろ募っていく一方だった。

 知らず知らずのうちに早足になってしまう。

 そのせいか普段の半分くらいの時間で海岸までたどり着いてしまった。

 おかしい。

 いくら早足だったとしても早すぎるのではないだろうか。

 まるで何かに急かせれているみたいだ。


 海岸に着き、小舟を沖に出しても焦燥感は収まらなかった。

 仕方がないから当初の目的通り波に揺られて休むことにする。

 そうしていると段々と心が落ち着いていくような気がした。


 やはり俺の居場所は海なのか。

 海にいるのが一番心地よく、海にいる時が一番心休まるときだ。

 陸にいると不安感というか寂寥感というか、そんなものがこみ上げてくることがあるのだ。


 そんなとりとめのないことを考えていると、急にとても大きな波がきた。

 いや、大きい波が沸き上がってきた、というのが正確だろう。

 俺の乗っている小舟の下からとてつもなく大きな影が迫ってきていて、波というのはその生物の動きによって生まれているものだったようだ。



「っ…………」



 俺の口はパクパクと動くだけで音を発することができていなかった。

 人間というものは本気で驚いたときは声が出ないらしい。いらない知識が増えてしまった。


 その影は段々と上昇してきて、ついには俺の船はその影に乗り上げてしまった。

 直径にして15mほどあるだろうか。その生物はとても硬質で、まるで亀の甲羅のようだった。

 というか、巨大な亀だった。

 その亀は口を開く。



「私の名はシルトグレーテ。この水域一体を収める海の支配者にして姫様の勅令を受けて生態系の維持も務める聖亀だ」



 ちょっと何言ってるのかわかんなかった。

 さっきから頭が回っていない気がする。状況についていけてないし情報を整理できていない。


 俺が混乱しているうちに亀はなにやら語りだした。



「私がここに来たのはほかでもない。昔恩を感じた御仁と似通った魂の波動を持った人間を感知したからだ。さらにどうやらその人間は最近粋がっていた鮫野郎を殺した奴と同一人物と見受けられる。これはもう訊ねるしかないだろう?」

「は、はあ…」


 相変わらずよくわからないけど、まあ鮫野郎っていうのは昨日釣り上げた鮫のことを言っているんだと思う。魂の波動がどうとかいうのは正直理解できないが、多分俺が誰かと似ているっていうことだろう。

 つまり人違いだ。



「確かに昨日鮫は釣り上げたのは俺だ。だがお前にあったのは今日が初めてで、恩を売るような行為をしたこともない。だから人違いじゃあないか?」


「ああ、確かに人違いだったようだ。魂の色形がかなり似通っているが、少しばかり不純物が混ざっているな。輪廻の際にトラブルがあったのかそれとも……」



 後半はぶつぶつ言ってて何を言っているのか聞き取れなかった。

 というか何者なのだろうかこの亀は。

 海の支配者だとか聖亀だとか言ってるが、それがなんなのか理解できない。

 まあ海に悪い奴はいない。何者なのか直球で聞いてみよう。


「シルトグレーテ様でしたか?あなたは何者なんですか?」


「様付けなどしなくて良い。なんというか、むず痒くなるな。シルトと呼んでくれ。そなたの魂は本当にあのお方に似ておる。それでいて本質は全く異なるものというか、とにかく歪なのだなそなたの魂は」



 そう言ったあと、シルトグレーテは自分が何者なのかということを話し出した。



「私は先ほど言ったように、この水域一体を収める海の支配者であり、姫様の勅令を受けて生態系の維持も務める聖亀だ。8000年以上前にこの海に生まれ落ち、紆余曲折があった結果周辺の海の統治をすることになっている」



 どうやら、あの鮫のように生態系を乱すような魚を少しずつ間引いたり、人間が魚を乱獲するのを防いだりしているようだ。

 どうやって防ぐのかは教えてくれなかったが、おそらくはそういうことだろう。推して知るべし。

 これだけの巨体を持っていれば一隻の船を沈めるくらい容易いのだろう。

 別にそれが悪いことだとは言わない。海は弱肉強食で、それは圧倒的強者であっても当てはまるだろう。



「その姫様というのは誰のことなんだ?」


「そうか…今の人間はそれすらも伝わっていないのか。姫様というのはな、大昔から海のバランスを調整されているお方の一人だ。詳しいことは教えられんが、生態系や四方の海の魔力量など様々な事柄を操っていらっしゃるのだ」


「そうか…よくわからん」


「はっはっはっ。まあいいだろう。そなたは私の恩人のお方ではないのだし、人間に理解を求めるのなんてとうの昔にやらなくなったな」



 昔の人間は海を守ってくれている姫様とやらにお供え物をしたり祈りをささげたりしていたらしい。

 しかしそれも今は昔のこと。

 そうやって感謝の念を形にしているのは一部の人間だけらしい。

 話を聞いてて少し悲しくなった。



「そんなことよりだな、そなたの魂……そういえばまだ名前を聞いていなかったな。なんという名前なのだ?」


「ああ、俺の名前はヴェルムだ」


「そうかヴェルム。それでヴェルムは気づいていないのか?自分の魂の歪みに」


「魂の歪み?」



 そういえばシルトはずっと魂がどうとか言っていたけど、あれはどういう意味なんだろうか。

 魂が見えるということなのだろうか。



「そなたの魂は歪んでおる。歪み、というか色々と混ざり過ぎているようだな。様々な魂が一つの依代に集まってしまい、しかもその依代となった本来の魂ができそこないとなると、魂がおかしくなってしまうのも納得できるな」


「ちょっと待ってくれ。俺の魂がなんだって?」


「ヴェルムの本当の魂はできそこないである。何しろ、自我というものを、魂そのものの色というものを失っておるからな」


「本当の魂?じゃあ今の俺は偽物だとでも言うのかよ。意味わかんねえよ」


「ヴェルム。今のそなたは本物のそなたではないし、かといって本物がどこかにいるのかといったらそれも存在しない。言ったであろう?ヴェルムは歪んでおるのだ」



 意味が分からない。

 俺が本物じゃないってどういうことだよ。

 俺はずっと前から俺で、これからもずっと俺だろう?

 それがなんだよ、俺が本物ではないって。しかも本物なんていないって。

 どういうことだよ。



「理解できないのも無理はない。理解したくないというのはある意味正常な反応だ。この世に同じ魂は二つとてなく、だからこそ魂は唯一無二なはずだ」


「どういうことだよ…何言ってるんだよ」


「そうだな……じゃあ今から一年前に何をしていたか覚えているか?」


「何してたかって、そりゃあ釣りだよ」



 俺は生まれてからずっと釣りをしていた。

 釣りだけやって生きてきた。

 ということは一年前の今頃だって釣りをしていたはずだ。

 そんなのいちいち考えるまでもない。



「本当か?本当に釣りをやっていたのか?それはどこで、なにをつかって、どんな魚を釣っていた?」


「どこってそりゃあ……」



 あれ?

 俺は一年前どこで釣りをしていたのだろう。

 何で釣りをしていたのだろう。

 どんな魚を釣っていたのだろう。

 

 思い出せない…。



「そりゃあ……だって……」


「思い出せないであろう?それはなぜだかわかるか?」


「し、知らねえよ。わかんねえよそんなこと」


「それはな、それはなヴェルム。今のお前が、一年前には存在していなかったからだ」


「な…何を……。お前は何を言って…………」


「ヴェルム、今のお前は本物ではない。ヴェルムではない何かの魂が乗り移っているだけだ。そして今のお前の魂は、今のお前は、私や姫様の恩人である方のそれだ。どうしてそうなっていうのかはわからん。が、今のお前はほうっておくと魂が自壊してしまう」


「…………」


「すまないが私はこれ以上のことはできないのだ。海の者は陸の者に過度に干渉してはいけない規則になっているのだ。今のそなたの魂が海の者に近しいからこうしてそなたと話せているが、本来はそれすら叶わないのだ」



 意識がもうろうとしてくる。

 俺は誰だ?

 誰が俺だ?

 俺は…なんなんだ?



「力及ばず申し訳ない。そなたの魂には恩がある故どうにかしてやりたかったのだが……。せめてそなたの、ヴェルムの今後を占うことくらいしかできぬな。知っておるか?古来では亀は亀甲占いという占いに使われていたのだ。生後数年の亀でさえその(むくろ)と引き換えに直近の未来を占えるのだ。8000年以上生きた私であれば代償なしでも占いくらいはできるということなのだ」



 ……俺は…俺で……俺が…………。



「ふむ、聞こえておらぬようだな。だがまあいい。ヴェルムの魂に直接伝えよう。ひと月と半分が経つころに大いなる災いあり。しかしそれはそなたにとって転機となりうるものだろう。心を保ち、魂を正せばそなたには救済が訪れるだろう。すべてを見通す悪魔の子に、魂さえも見透かされるがいい」



 悪魔が…女神が……。

 


「いかんな。ガス抜きのつもりがショックが大きすぎたか。魂の自壊が始まっておる」



「運び手と呼ばれし私の力の本領、見せるとするか」



 シルトグレーテはヴェルムを甲羅に乗せ、海面を泳ぎだした。

 そして段々と浮上していき、最終的には海から全身が出てしまう。

 まるで空中を泳ぐかのように、シルトグレーテは進んでいく。

 ヴェルムの住んでいる家まで。


 その巨体は町に入るとなぜか人や建物などの障害物を通り抜け、何物にも邪魔されずに進んでいく。

 その巨体はなぜか誰にも認識されることなく進んでいく。


 そしてある家の前に到着すると、その体を1mほどまで縮めてヴェルムの部屋に入っていく。



「しっかり休めよヴェルム。一月半後、お前自身がどうするかによって未来は変わるぞ。だから今は、しっかり休め」



 ベッドに寝かされた少年は、その年相応のあどけなさが残った表情で寝息を立てていた。

期末テストもなんとか乗り切りました。

あと数日後に林間学校があるので、それまで毎日投稿できたらいいなとおもっています。

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