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都心部から少し離れた街の入り組んだ道の片隅に随分と年月を思わせる大きな骨董品店があった。
開いているのか閉まっているのかすら、初めて見る人はわからないほど店内は不気味なほど薄暗い。
店内には唯一そこ主である朝比奈薫が煙管の掃除をしていた。
骨董品店の裏には彼一人が住むには広すぎる家があり、つい先月リフォームをして店と家を直接出入りできるように改装し、家の方は随分と新しくなった。
店の奥にある6畳間にて長着姿の男はさぞ退屈そうに欠伸をひとつ、掃除し終えた煙管に煙草葉を丸めて詰め、火をつけた。
ゆっくり吸っては紫煙を吐き出す。
一応朝の11時から開けている店は勿論、見た目も寂れているし、この辺りの人通りも住人以外は少ないため来客は滅多にない。
親族が彼を変わり者だと敬遠する中、唯一よく遊びにきていた従姉妹がこの春、大学進学と同時に都心部へと出て行ったため、数少ない暇潰し(といってもいとこをからかいいびるだけなのだが)が更に少なくなり、どうやって暇を潰したものかと悩ましい日々を過ごしていた。
新聞の類は一応取ってはいるものの10分読めば飽きる。
テレビもさほど興味がない。出掛ける時は店を閉めるのが面倒で開けっ放しで出かけることが常である。
とにかく何をするにも面倒が先立ち、ほとんど何事にも興味を持たない男であった。
少し店を片付けてスーパーにでも買い出しにいくか。
そう口の中で呟いた男は煙管を吸い終わり、灰殻を落とすと丁寧に包みへとそれを包んだ。
気怠そうに立ち上がり、帯を締め直していざ仕事(といっても片づけであるが)と意気込んだところにまさかの来客を知らせるドアベルがなった。
古い扉の軋む音で大体の来客は察知するものの、時々はあまりに暇すぎてうたた寝している時の為のドアベルである。
6畳間と店を仕切る暖簾を手で押して店内を見渡すと、入口には目深に帽子を被りサングラスをかけ、マスクまでしているといういかにも「私は不審者です」という挙動不審の怪しそうな男が来店していた。
否、この店に来店してくる客はどこかおかしい客ばかりであったがこうも一目で怪しいという客はそうそういない。
180の背丈ある朝比奈からすると随分小さく見える男が立夏にさしかかろうとしている今にそんな暑苦しい恰好をしてきたと思うだけでこっちまで暑苦しくなった。
客が店内を見渡すと朝比奈を視界内に捉えたのか、まずマスクをとって次にサングラス、帽子を外すと大きなため息をついた。
顔が見えて初めて中年程度の年であることがわかり、その表情はとてもやつれていた。
それもまたこの店に来店する客には珍しくないことであった。
朝比奈は目を細めて男性をまじまじと見ると、男は小さく会釈する。
「いらっしゃいませ。どうぞごゆっくり」
見場だけは恵まれた朝比奈がそうほほ笑むと大体の女性は落とせるといとこに言われたくらいだ(従姉妹はきっともてないだろうから、その言葉には説得力がなかったが)。男もそんな朝比奈を見て、すこしホッとしたようであった。
6畳間へと戻り再び煙管を吹かし始める。
ぼーっと頬杖をついて天井を眺めたり、部屋の壁を眺めたりしたあとそれにも飽きたのか、煙管を吸い、吐きを3度繰り返し、煙草葉を捨て、新しいものを詰め、を3度ほど繰り返しながら手持無沙汰に新聞を広げていた。
大して興味のないニュースがズラリと並ぶ紙をパラパラと全部適当に目を通した頃に中年男の遠慮気に朝比奈を呼ぶ声が聞こえた。
新聞を茶舞台に置き、嘆息と共に立ち上がり6畳間を出るとレジに中年男はいた。
やつれた顔で朝比奈を見上げ、猫背なせいで本来の背よりもっと低く、そして老けて見えた。
「何かいいものでもありましたか?」
不愛想な声色でそう尋ねると中年男はそっと卵ほどの玉を見せて、怖いものでも見るような目で朝比奈を上目で盗み見た。
目を細めて中年男の手にある玉を見るとその玉を渡すように促す。
男には朝比奈の手に渡った透明な玉の中心でなにかが蠢いたように見えた。
しかし目を擦り再び玉をまじまじとみやるとそれは何ら変わりない普通の玉であった。
小首を傾げる男に「誰から聞きました?」と尋ねると彼は頭を振った。
「わかりません。知らない誰かが教えてくれたんです。この骨董品店のとある壺の中で赤子の手ほどの玉を探して店主に差し出せば望みを叶えてくれると」
「この玉はどこに?」
朝比奈の不愛想かつ、偉そうな声色に相変わらず中年男は遠慮気に店の奥の棚に並べられていた大きな壺を指した。
「わかった。話は奥で聞く。ついてきてください」
顎で奥の部屋を示して踵を返し、暖簾の奥に消えた朝比奈に急いで中年男はついていく。
6畳間に上がり、ふすまを開けた更に奥の部屋へと案内された中年男が6畳間でピタリと足を止めた。
中々来ない中年男に振り返った朝比奈が「こちらです」と催促すると、我に返ったように「あ、はい」と奥の部屋へと入った。




