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Festival in the first time

「おぉ…」

人の賑わいに気圧される。

兎の耳と尻尾を付けて青いワンピースを着た私は今、アルに手を引かれていた。

この祭典はとても大きな祭りらしい。

会場の真ん中はステージのようになっているようだ。

沢山の出店があり、どれも行列が出来ている。

すれ違うのは全て獣人族(ビースト)で、そこに少し違和感があった。

楽しそうに歩くカップルを見て、自分たちもそう見えているのだろうかと考える。

羞恥のあまり思考はすぐに断念した。

アルと私が恋仲?

なれたらいいな、なんて思ってみたり。

いやいやいや。

これじゃあまるで恋する乙女じゃないか。

「何か食べる?」

ぐるぐると思考を巡らせる私に、アルは笑顔で問いかけた。

辺りを見渡し、りんご飴のある店を見つけると、頷いた。

りんご飴は私の好物だ。

「りんご飴」

そう言って店を指差した。

店はそこそこ並んでいたので、手を握られたまま二人で列の後ろに立った。

「りんご飴、好きなのー?」

「悪い?」

ニヤニヤとした顔にからかわれたような気分になって、若干不貞腐れた。

「意外、かな」

いいじゃないか、りんご飴。

しかし、私の知るりんご飴とは、やはり違うのだろうか?

種族が違うだけでそこまで変わるとは思えないが、多少の差はあるだろう。

順番が来て、買ったりんご飴。

形は特に変わらない。

しかし、赤色ではなく白かった。

「ねえ、どうして白いの?」

小さく舌を出して、ぺろりと舐めてみた。

甘い。

「幽霊りんごっていう品種でねー。獣人族(ビースト)の住むこの辺でしか採れない希少なりんごだよ。実と枝が離れて浮いてるから、幽霊りんごー。普通のりんごより甘…」

不自然に、言葉が途切れた。

見上げると、少し遠いところを睨んでいた。

つられて見てみると、ダボっとした明らかにサイズの大きなローブで全身を包んだ少女がいた。

無機質な瞳でこちらを見返していたが、やがてふいと目を背けて歩き去った。

「あー、ごめんごめん。そのりんごね、普通のりんごより甘くて美味しいんだよ」

甘くて、という部分に反応した私は、思い切ってりんご飴にかぶり付く。

酸味はない。甘味だけが、口内に広がった。

「美味しい…!」

さっきの少女は気になるが、今はりんご飴が優先だ。

思わず頬を緩ませながら、一口、また一口と食べ進める。

「一口ちょーだい!」

聞かなかったことにする。

「やあ、アルにフィー!!」

尻尾をぴょこぴょこ振りながら、此方に駆けてきたのは白虎だった。

その隣には、見慣れない女性がいる。

髪の色は青みがかったエメラルドグリーン、俗に言うシーグリーンだった。

そこからベージュの龍の角が生えていた。

青いチャイナ服が描く体の(ライン)は実に女性的で、メリハリがある。

「白虎、此方の方々は?」

少し低めの落ち着いた声が凛と響く。

綺麗な人だな、なんて考えて(ほう)けているだけでは駄目だ。

自己紹介しないと。

「フェリス、です。良ければフィーと呼んでください。…貴女は?」

「フィーか。兎型(アルミラージ)なんだな。私は青龍、白虎と同じ四神だ」

よろしく、と微笑む表情のなんと美しいことか。

差し出された手を握るべきなんだろうが、ちょっと躊躇ってしまう。

しかし変に遠慮して勘違いされるのはもっと困る。

そっと手を握った。

「そんなに恐縮しなくてもいいぞ、フィー。堅苦しいのは苦手なんだ。敬語もやめてくれ。友達、だろう?」

まさか友達などと言って貰えるとは思っていなかった。

「友達…」

確かめるように言葉にした。

「嫌か?」

残念そうな顔で問う青龍に、私はハッとして笑顔を見せた。

「嬉しいわ。友達が少ないから」

ならよかった、と笑う青龍に嬉しさが込み上げてきた。

そしてふと気付く。

あれ、今の私の女友達って、青龍だけ?

「朱雀と玄武はどーしたの?」

そんな私の思考を遮るように、アルは不思議そうな顔で問いかけた。

「四神だからといって何も全員で行動するとは限らん。顔を合わせるのももう数百年ぶりだ。さっき会って話してきた。…会いたかったのか?」

いーや、と言って肩をすくめるアルは、青龍に名乗らなくていいのだろうか?

「ところで名は?」

とうとう青龍が名前を訊いた。

やはり名乗らないといけないだろう。

「んー、アドルフ・コーエン。一応アルって呼ばれてるよ」

何処か一線を引いているように見える。

違和感を感じたが、仲良くしようがしまいが個人の自由だ。

あまり首を突っ込むような真似はしない。

「私は青龍だ。堅苦しくなくても…と言いたいところだが、その心配は無さそうだな」

逆にアルが誰かに敬意を払うところを見てみたいくらいだ。

しかしまあ、彼の雰囲気が軽く気さくなのは、長所といえる。

私とも比較的すぐに打ち解けられた訳だし。

「あれが朱雀?」

人目をひく赤髪の青年。背はあまり高くない。

仏頂面で背から生える真紅の羽を揺らしながら、悠々と歩いている。

正直言って楽しんでるようには思えない。

「ああ、そうだ。目立つだろう?玄武はそうでも無いんだがな」

ふっと口元を緩めながら、青龍は紹介してくれた。

「黄龍様は?」

辺りを見回し、所在を聞く。

「まだおいでなさってない。儀式が始まってから来られると思うのだが」

僅かに目が細められた。

優しそうな眼差し。きっと彼女は、黄龍様を慕っているのだろう。

容易に想像できた。

「ん?お、あれが玄武だ。ほら、あの難しい顔で焼きそばを見てる」

見るとそこにいたのは、見目麗しい青年。

黒髪の頭には、小さな緑色の亀の甲羅が乗っている。

首をぐるりと一周し、左目を飲み込まんとする蛇の刺青(タトゥー)でさえも様になっている。

全体的に緑や黒の暗い色の和服を身にまとっている。

確かに焼きそばと睨めっこしている。

あ、2パック買った。嬉しそうに眺めている。

もしかして、焼きそばを何パック買うか迷っていたのだろうか。

クールな見た目とは裏腹に、意外と可愛い一面もあるらしい。

私も後で焼きそば買おう。

「黄龍様って、どんな…感じなの?」

どんな人なの?と聞きかけて思いとどまる。

人では無いんだった。

「その髪はまるで十五夜の月光の如く煌めいていて大きく、私とは比べ物にならないくらい立派で、形も色も良い文句のつけようがない竜角を持ったお方だ。星々を写した瞳、それを引き立てる白い肌は透き通るように瑞々(みずみず)しく、加えて目鼻立ちも整っている。その憂いを帯びた表情は儚く、そして美しい。まさに“立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花”を体現している。さらに黄龍様はとても優しく、私が」

「ストップ」

長くなりそうだったので切り上げた。

とにかくとても愛されているということは分かった。

「懸命だと思うよー、フィー」

苦笑しながら、アルが私に話しかけた。

さっきの話で、黄龍様に俄然興味がわいた。

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