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Bad feeling

「じゃあこの弓、君は使えるのかい!?」

興奮を隠しきれないまま、イアは私に問う。

「…さあ、どうでしょう」

使い方なんて知らないし、初めて見たものだ。

使えないとも言い切れないが、使えるとは言えない。

「賭けようよ」

アルは何か企んでいるような顔で、イアに持ちかけた。

「使えるか、使えないか。勝った方は何でもひとつ聞くってことで」

私は賭けの対象にされるのか、と少し呆れる。

「乗った!」

キラキラとした瞳でイアに言われては、やめろと言えない。

そもそもこれ、どうやって使うの?

木製の弓を見る。

一見何の変哲もない。

「よし。じゃあ《使える》方で」

「んー。その逆でいーよ」

アルは《使える》に賭けて、ケースから“弦のない弓”を取り出す。

アルの手つきは慎重で、ちゃんと高価なものだと(わきま)えているようだ。

はい、と手渡される。

触れた瞬間、だった。

パチッと静電気が来たような感覚。

思わず手を引っ込めた。

「どうしたの?フィー」

私は平然を装う。

「何でもないわ」

そっと、弓を受け取る。

初めて見、初めて触る物。

なのに、大昔から知っていたような感覚。

いや、そんな程度じゃない。

手に馴染む。ずっと使い続けていたかのように。

本能のままに、弓を構える。

見えない弦が、矢が、あるかのように。

念のために窓の外を狙った。

弓を逃げる手に力を入れると、光で出来た弦と矢が現れる。

驚きはしなかった。

さも当然のように、矢を放つ。

ドゴォォォオンッ

破壊音がして、放った先を見る。

嫌な予感。

森だった窓の外は、今や焼け野原。

ああ、どうしよう。

気付くと、弓は元の変哲のない物に戻っていた。

「すごー…」

アルは目を丸くしている。

「はあ…」

これからのことを考え、ため息を吐いた。

「はっ…ま、負けた…」

我に返ったイアは、賭けに負けたことに対して落ち込んでいた。

「んー、賭けの賞品は保留にしとくよ」

アルも通常運転に戻ったようだ。

私はそっと“弦のない弓”を、ケースに入れた。

「外の森は俺の私有地だから、心配しないでいーよ」

私の心配は見越されていたらしい。

にしてもまさか使えるとは。

反動は無かったけど、あの威力を見たあとでは、また使おうという気はしない。

木を消すのは環境によくない。

「すごいよ!吾輩(わがはい)ちゃんにも見せてやりたいくらいだ」

吾輩ちゃん?

それはどちら様だろうか。

イアの言葉にアルも頷いている。二人の知り合いだろう。

「あの、吾輩ちゃんって?」

「ああ、そのうち紹介するよ。なんなら今連れてこよっかー?」

吾輩ちゃんなる人物がとても気になったが、断っておいた。

いきなり連れてこられるのは、向こうとしても迷惑だろう。

「この、弓」

言いかけて、やめた。

貰っていいですか?なんて、言えない。

「あー、それ。あげるよ。ていうか返す。もともとフィーの先祖のでしょー?」

正論。

でも。

「本当にいいの?大切なものなんじゃ」

二人の出会いのきっかけとなったものだ。

簡単に貰い受けるなんて、いいのか?

「別に、今の今まで忘れてたくらいだしー」

忘れてたのか、おい。

ツッコミを抑え、弓を握りしめた。

「ありがと。護身用に、貰っておくわ」

少し照れながらも、礼はちゃんと言った。

「元の持ち主に返した方が、(それ)も喜ぶでしょー?」

正確な持ち主は私の先祖、なのだが。

アルの中では大した問題ではないようだ。

彼が何故怪盗なんてしているのか。

疑問が深まった。

必要なものを盗んでいる、と言うわけでも無さそうだ。

「なんか不思議な巡り合わせだね!」

イアが無邪気に言い、私はちょっと嬉しくなった。

願わくば、この幸せが続きますように。

この優しい光が、消えてしまいませんように。

そっと目をつむり、願う。

目を開けると、二人が笑っている。

私も、笑った。

「そうね。運命かも、なんてね」

「いーや、案外そうかもよ?」

「絶対そう!僕はそう思うよ!」

───(ワタシ)は、この光を切り裂きたい───

微かにそう、聞こえた。

心の中で、耳を塞ぐ。

「ヤッホゥーーー!」

元気な大声とともに、扉が盛大に開けはなたれる。

蝶番(ちょうつがい)が、ミシリと嫌な音を立てた。

「あ、吾輩ちゃん!」

イアが扉の方を見て言う。

私もそちらを見た。

真っ白い、短髪。

黄金色に爛々と輝く瞳。

髪と同色の、獣耳と尻尾。

見た目人ではありながら、鋭そうな牙を持っている。

少年か、少女か。

「あ、そこの女の子初めましてだ。こんにちは!吾輩は白虎。出来れば吾輩ちゃんはやめて欲しい。因みに男ー」

相手に気圧されながらも、私も自己紹介をする。

「フェリス・エイミスよ。フィーって呼んで」

「りょーかい!」

なんと笑顔の可愛らしいことか。

「フィーには説明してなかったね、四神のこと。」

アルは少し説明をした。

「一応、獣人族(ビースト)ではあるけど、厳密にはちょっと違うんだ。どっちかっていうと、天神族(ジャッジ)に近い。守護神みたいな感じかな?東の青龍(せいりゅう)、西の白虎(びゃっこ)、南の朱雀(すざく)、北の玄武(げんぶ)。それらの中心が、黄龍」

じゃあこの白虎は偉いのか。

「この外の焼け野原はね、フィーが弓でバーンってやったんだよ!」

イアは興奮した様子で話している。

「ごめん、今はそれどころじゃないんだ」

その言葉に、アルが表情を引き締めた。

黄龍(こうりゅう)様が、帰ってくる。今日はそれを知らせにきたんだ」

「とうとう、集まるのか。四神が」

その顔に、いつものヘラヘラとしたものはない。

「他種族が狙ってくるだろうね。だから君に、祭典の警護を頼みたい」

「んー、いいよ」

また笑顔にもどる。

「フィーも変装して、連れてくけど」

よくわからないが、私も行くらしい。

…どこに?

「うん、よろしく。祭典は明日だよ」

白虎は何かの紙を置いて、去っていった。

嫌な予感は、当たる気がしてならない。

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