silky
「ちょーっと仕事行ってくるー」
アドルフがそう言って家を出てから早1時間。
はっきり言おう、暇だ。
カタカタ、カタカタ。
小刻みに窓が揺れる。大方風のせいだろう。
特に何の理由もなく、窓の外を見た。
白い髪、白い肌、白い目、そして白いワンピース。
そこに居たのは、真っ白な少女だった。
儚く消えてしまいそうな少女。
思わず窓を開け放つ。
「どう、したの?」
自分より年下だろうと踏み、問い掛ける。
「わかんないの」
幼い幼い声。
真っ直ぐにこちらを見てくる。
「えっと、どうしてここに居るの?」
少女は横に首を振る。
「わかんないの」
先程と同じ返答。
「お名前は?」
少女は少し考えてから、口を開いた。
「ブランシュ」
「そっか。私は、フェリスっていうの」
ニコリと愛想笑い。
ブランシュという女の子も、同じように笑った。
「ふぇりしゅおねぇちゃん?」
あざとい。可愛い。
「えっと、種族は?」
「わかんないの。名前しか、わかんないの」
ブランシュの瞳は潤んでいた。
姿形は私と同じ人類族にしか見えない。
「中へ入って?」
こくん、と頷いたので、私は急いで外に出て、ブランシュを中に入れた。
確かココアがあったはず。
ソファに座らせ、キッチンを漁る。
「ふぇりしゅおねぇちゃんは、人類族なの?」
「ええ、そうよ」
ココアを入れ、運ぶ。
「はい、ココア」
美味しいよ、と笑いかける。
ブランシュは、マグカップを両手で持って一気に飲んだ。
「おい、しい…」
よかった。
微笑んで自分も飲む。
勝手に飲んで良かったのだろうか。
「帰ったよー、フェリス」
アドルフが帰ってきた。
おかえり、と言おうとしたが、凄い勢いで私の前に立ちふさがる彼を見て何も言えなかった。
「何で亡霊種がここにいるのかなー?」
その視線の先には、ブランシュ。
ブランシュが…亡霊種?
亡霊種は、実態が掴めていないことで有名だ。
何処かの国に集まって暮らしているということもなく、何処にいけば会えるのかすら不明。
そんな種族が、どうしてここに?
「おにぃちゃん、すごいね。わたしが亡霊種だって気付くなんて」
ソファに座ったまま足をぷらぷらさせ、ココアを見つめながらそう言った。
「この国でちょっと指名手配されてるよ?“魂喰らい”のブランシュちゃん」
ブランシュちゃんは、敵…なの?
マグカップを机に置き、ふわりと浮かぶ。
「ふぇりしゅおねぇちゃん、またね」
そう言って、消えた。
「…はぁ」
アドルフは力を抜いて、ぽすん、とソファに座った。
「あの子は、“魂喰らい”のブランシュ。最近巷で噂の亡霊種だよー。その名の通り、魂を喰らうんだ。気を付けなよー?」
そうは見えないけど、とささやかな反論をすると、フェリスは騙されやすいね、と笑われた。
「んー、そうだ。獣人族の仕組みを話しておくよ。フェリス、ビーストに変装したら?」
「それは置いといて、その仕組みとやらを聞かせて」
私のココアを何のためらいもなく飲み干し、アドルフは口を開いた。
「獣人族にも色々いるんだ。まず俺は猫型だよ。他にも、犬型、鳥型、狼型、兎型、鼠型とか…これ以上いたっけ?あんま覚えてないなー」
適当か、と突っ込みたくなるのは抑えよう。
「たまにその型の違う獣人族同士でケンカしてるから、ある程度住み分けられてるねー。あ、この辺は中立区域だよ。俺平和主義だし。あ、フェリスの変装は猫型でよろしく。その方が行動しやすいからね」
「型ってあるのね」
「んー、人類族は型ないから知らないかもだけど、他にも結構型で分かれてる種族いるよ?」
初耳だ。全然知らなかった。
「例えば妖精族だって、巨型、地型、風型、水型、火型の大きく分けて5つに分かれてるし」
一拍おいて言う。
「知らなかったわ」
「人類族は鎖国気味だったしね」
アドルフは苦笑する。
私は少し、この世界を知りたくなった。それこそ、隅々まで。




