Relief
「おい、クラン」
名前を呼ばれ、振り返る少年が一人。
「人類族が、たった一人を残して消えた」
クランは、驚きよりも先に、情報を疑った。
「どんな奴?あの戦火を生き延びるなんて」
何処までも無表情な上司、エドウィン・マギルは、淡々と答える。
「それが…少女、だそうだ。今は獣人族のところに住み込んでるらしい。そこで…だ。お前に調査してきてほしい。これ、地図」
少し口角を吊り上げる。
「りょーかい!」
早速少年は、獣人族の国に向かった。
・・・・・・・
ドンドンドンドンと扉を叩く音で目を覚ます。
「いるんでしょ?おーい!」
危険な感じがする。
「ねえ、アドルフ。誰か来たわよ」
「うるっさいなぁ、だぁれ?」
ドアを開けると、居たのは私よりも小さな黒髪の少年がいた。背には身長の倍はあろうかという鎌が。
「おはよー!ボクはクラン・レアリー、見ての通り死仕族だよ!」
…閉じてやろうかと思った。本気で。
「何の用?」
「その子を調査しにきたのさ!エイミス嬢だっけ?」
ドキリとする。
別に心当たりがある、という訳ではない。
死仕族の調査は、何が基準で行われているのかハッキリしていない。
唯の興味本位でゴシップまで調べることもあるものだから、たまったものじゃない。
「…何故?」
「たった一人の生き残りだからだよ、君が」
めずらしい、ということなんだろうか。
「その情報さぁ、何処で聞いたの?」
普段より一オクターブ低いアドルフの声。
顔では笑ってるけど目は笑ってない。
「さあ、何処だろうね。分かんないよ、上司に聞かなきゃ」
つまらなそうな顔で、大きな鎌をくるくると回しながら答えるクラン。
「エイミス嬢、君さ、本当にただの人間?」
冷たく鋭い視線を浴びる。
私はそれでも冷静に答えた。
「ええ、多分」
私はただの人間だ。
特別頭が良い訳でもなく、運動神経が良い訳でもない。
ごくごく普通の、平凡な人間。
どうして私だけが生き延びたのか、何故私だけ…
考えても仕方のないことだ。
「はい、調査しゅーりょー。帰ってよ、死神」
死仕族は別名死神。
死に仕えると書いて、死仕族。
彼らは死神と呼ばれるに相応しい存在だ。
「終わってないよ?ケダモノ」
死仕族は好戦的な種族としても有名だったりする。
一触即発のムードを止めたいが、これはどうすればいいんだろうか。
「ん?…っと、上司から通話だ」
そういってクランは、くるりと後ろを向いた。
「何ー?……って、盗聴でもしてた訳?……はぁ、できるだけ頑張るけど保証はしない。…え!?やめてよそれだけは!………分かったよ、んじゃ」
そうしてまたこちらを向く。
「ケンカはするなってさぁ。上司から。ボクとしてはそこのケダモノと一戦交えたかったんだけど」
さらりとおぞましいことを言うな、コイツ。
「俺はー、平和主義だから無駄なケンカは避けたいかなー?」
無駄をやけに強調するアドルフ。
本当に平和主義なのか疑うくらい挑発的だ。
力の強い獣人族と大鎌を振り回す死仕族。
下手したらこの二人のケンカだけで街一つ潰れるんじゃないか?なんて思った。
「気を付けなよ?フェリスのこと、大分広まってるから。ボク以外にも血の気の多い奴ら、例えば妖魔族なんかが狙ってくるかもしれない」
ま、せいぜい守ってやることだね、とクランはアドルフの肩をたたいた。
「ボクも出来れば力を貸すよ。エイミス嬢のことはちょっと気に入ったからね」
なんだかんだで良い奴なのかもしれない。
「そうそう、喧嘩した二種族の代表、天神族に裁かれたみたいだよ?」
「どうも、情報提供感謝するわ」
人類族の皆を殺した二種族を、私はあまり恨んでなかったりする。
何故か、それは分からない。
でも多少は嫌悪するだろう。
結局、無関心だったんだろうか、私は。
「今日の所はこれで。また会いに来るよ、エイミス嬢」
そう言って、クランは何処かへ行ってしまった。
「何があっても守るよ、フェリス」
その言葉に、ひどく安堵した。




