Persuasion game
「く、ふふ…ふふ」
いきなり、ブランシュはお腹を抱えて笑い出した。
「次弾装填完了。発射準備」
「ふぇりしゅおねぇちゃんは、この機械のおともだち、なんだよね?」
嫌な予感がした。
ふわふわと、浮くような足取りでブランシュが近付いてくる。
その間も、セクターは彼女に銃口を向けたままだ。
逃げなければいけないと、わかってはいる。
でも、柔らかく笑うブランシュが怖くて、動けない。
ブランシュは、私に後ろから抱きついた。
「発射準備、強制キャンセルを実行!直ちに砲台を分解、収納!キャンセルの拒否を拒否!砲台の破壊を申請、装填解除!」
セクターは、目に見えて焦りながら何かを叫び続ける。
こちらに向けられた砲台は、ぴくりとも動かずに私を見据えている。
集まりきった光が、私に放たれるとどうなるのか。
未知ゆえに恐怖。
「発射まであと5秒、発射キャンセルを申請!拒否を拒否を拒否を拒否…!」
セクターの焦りの表情を、自分に向けられた銃口を、どこか他人事のように見つめていた。
ブランシュの、愛らしい笑い声が耳元で聞こえた。
次の瞬間。
音もなく、球状の光が発射される。
「まったく、エイミス嬢の騎士は何処へ消えたのかな?」
身長の倍はあろうかという大きな鎌。
そんな物騒なものを携えた、黒髪の少年は。
「覚えてる?エイミス嬢。死仕族のクラン・レアリーだよ」
ニコリと量産用の笑みを浮かべ、クランは私の前に立ちはだかった。
「まあ、ボクの目的はそこの亡霊種の殺害なんだけどね。エイミス嬢はお気に入りだから、殺されるとそこの機械を壊しちゃうかも」
味方か敵かの判別がつかないが、とりあえず私の命は守ってくれるらしい。
でも、ブランシュが殺されるのが、正しいのだろうか。
私はそれで、本当に良いんだろうか。
魂喰らいのブランシュは、救いようの無い悪。
本当に?
「この場を、誰も傷付かずに収めることはできるの?」
クランは目を見開いて私を見て、困ったように苦笑した。
「残念ながら任務放棄は不可能かな、エイミス嬢を守るので精一杯。だから…そんな顔されても、ね」
鋼鉄の壁に映った私の表情は、ひどく不安げで頼りなかった。
「キレイゴト言ってるうちは、まだお子様だよ?エイミス嬢」
子供の幻想かも知れない。
ただのキレイゴトかも知れない。
それでも、私は。
譲れないんだ、これだけは。
もう、誰の死も見たくない。
────ホントウニ?
心の内から湧き上がった言葉に蓋をして、私は言葉を選んでいく。
「セクター、その武装を解除して。あなたとお話しがしたいの」
安心させるために微笑む。
綺麗に笑えているだろうか。
「武装解除を申請。────承認」
あっさりと、仰々しい砲台はセクターの内へと仕舞われた。
「ブランシュも、もう離れて大丈夫だから」
優しい声を意識する。
上手く出来ているだろうか。
「…ふぇりしゅおねぇちゃん」
あっさりと、私に回していた手はブランシュ自身が解いた。
「クランは、その鎌を仕舞って」
母が子を諭すように言う。
あの暖かさが表せているだろうか。
「はぁい…」
あっさりと、手で弄んでいた鎌をクランは背負った。
あとは何を言えばいいだろう。
この場全員の目的を、真っ向から否定するだけでは駄目だ。
…言葉は武器だ。
それ一つで人を生かすことも、殺すこともできる。
…言葉は危険だ。
それ一つで戦争を始めることも、終わらせることもできる。
…言葉は感情だ。
それ一つで涙を誘うことも、止めることもできる。
…言葉は万能だ。
それ一つで何だってできる。
「クランはブランシュを殺したい。セクターは支配者に従わなくてはいけない。ブランシュは魂を食べたい」
それぞれの言い分を、諭さなければいけない。
「ブランシュを殺すのは何故?」
「魂を喰うから、野放しにはしておけないんだ。魂の管理は死仕族の仕事だからね」
つまらなさそうに、つま先で床を叩きながらクランは答えた。
その様子が拗ねた子供のようで、私は思わず笑いそうになった。
「ブランシュは、どうして魂を…?」
「おねぇちゃんたちもするでしょ?いきものを殺してたべること。それといっしょ」
にこり、とブランシュが浮かべた笑みは、何処か作り物じみているように感じた。
「セクターは…」
「侵入者の排除及びともだちの守護のためですと即答します」
被せ気味に言われたが、これは分かっていたことだ。
「まずセクター。私とブランシュは友達。私とセクターも友達。友達の友達は友達…じゃあ、駄目かしら」
今の私にはこのくらいしか思いつかない。
「その理論に納得しましたと率直な意見を述べます」
一人、説得完了。
これは複数の選択肢があるゲームでも、失敗したってやり直せる遊びでもない。
自分で考えて、言葉を作る必要がある。
皆が私の話を聞いてくれている間に、慎重に。
さあ、早く説得して、アルのところへ行かないと。




