線から外れるな
「線から外れるな」
[線から外れるな]
私が立て札に気付き、小さく書かれた文字を見たとき、生まれて初めて線とは何だ? と、思った。
縞模様の紫と黄の道は線なのか? それとも道そのものか?
私はボルトを箱一杯に抱えていて、そんな忠告など守れそうになかった。
靴を投げ飛ばし、足の親指で紫の線、それとも縞? を踏み、歩き始める。
猿がウキャウキャと向かいから跳びはねて来て、赤いケツを見せて走り去った。
ご近所の人なので、会釈すると、
「あの立て札を見たな?」
「そう」
「信じてるのか?」
「信じられる?」
私は信じられないことに信じているのだ。
紫は青に黄色は橙に。
さてどの線、それとも縞をたどれば?
私は道にボルトをおき、飛び出しナイフを出して道を裂いた。
紫と青を残して、あとは放ってやった。
「それがしてもいいことだとでも思ったのか!?」
突然背後からどなりとばされ、振り向くと巨大なライオンがたてがみを振り乱してたっていた。
「線は線、縞は縞。きちんとね」
私は肩をすくめ、そのまま一本の細い青い線の上を歩いて行った。
ライオンは私を黙ったまま見送っていたが、しゃくに障ったらしく、青、あるいは紫の道をつまんで引っ張った。
黒く残った道の裂け目へ、私はおっこちていく。
好きで落ちるんじゃないので、現在形を使って表現してみるぞ。
落ちる。落ちている。落ちていく。落ちれば。
ボルトを拾うのがひどく大儀だろう、きっとそうだ。