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空の物語  作者: 日織
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狐の嫁入り




教卓の横に立たされた私を見る目。目。好奇心旺盛な瞳に、よくしゃべる口。自由な手足は机の下に収まることを知らない。

「転校生じゃーん!」

一番前にいた元気で運動部にいそうな男子が私をもの珍しそうにみる。

私は思わず数歩下がり、黒板に自分の名前をかいた。

「・・・柴崎空です。どうぞよろしくお願いします・・・」

苦笑いをして後ろを振り返ると、水の入ったコップを勢いよく倒したように男子たちがしゃべりだした。

「お前何部はいるの!?」「サッカー部入ろうぜサッカー部!」「前の学校ではなんて呼ばれてた?」「好きな食べ物は!?」「得意な教科は!?」

お前ら女子か!つっこみたくなった。

ひきつった笑みを浮かべていると、先ほど声を張り上げた体育会系の男子が私をガン見していた。

「な、なんだ・・・よ」

「お前ってなんか女みたいな顔してるな!」

「!!?!?」

「!!」

私と前原先生が肩を震わせる。

「ななななに言っているんだ、広瀬。初対面の柴崎にそうゆうこというのは、しししし失礼だぞっ」

前原先生が必死にフォローしているが、しどろもどろすぎて逆効果だ。広瀬と呼ばれた男児生徒は頭の後ろに腕をくみ、屈託なく笑った。

「だよな!変なこと言ってごめんな、柴崎!」

「う、うん・・・・。」

馬鹿でよかった。

「じゃあ、柴崎は開いてる席に座って」

「・・・はい」

自己紹介なのに、すさまじく疲れた。速足で開いている席に座り、つっぷす。

「なあ、柴崎柴崎」

袖をつっつかれる。隣の席の男子だ。スポーツ刈りで、いかにも野球部に所属していそうなやつだ。

「ん、なに?」

「柴崎さあ、野球部はいらねー?」

「はあ?」

「お前、もっと筋肉つけたほうがいいぜ!すっげー細いぞ。野球部入ったら二週間で逆三角形になれるぜ!」

なりたくねえよ。

口にだせるわけない。

「あー・・・。考えとく」

適当にぼかし、前原先生の話を聞く。連絡事項を淡々と話している。

「そかー・・・。てか柴崎、お前カバンは?」

「え?」

・・・そういえば、あの部屋から直で連れてこられたから、私は手ぶらだった。

カバンもない。教科書も、シャーペン一本さえも。

思わず理事長室に殴り込みにいこうと立ちかけたがとどまり、ホームルームが終わるのを待つ。


「じゃあ、もうすぐ授業始まるから、遅れんなよー」

ホームルームが終わって、教室からでようとすると、案の定前原先生に声をかけられた。

「柴崎、教科書ないだろ。とりにきてくれ」

「あ、はい。」

理事長室は後回しか。

そのまま前原先生についていくと、ひとつの部屋にたどり着いた。

『第七体育準備室』

「第七ってことは・・・・・」

「ああ、この学校の教員は、全員小さいながらも一人一部屋ずつ個室が与えられているんだ」

「なんですかその無駄な待遇のよさは・・・」

じいさんらしい。

実に。

前原先生は鍵もあけずにドアをあけ、中にはいる。

私もつられてなんとなくついていく。が、入った瞬間愕然とした。

「せ、せんせい・・・」

二十代の体育教師らしい、なんとも形容しやすい部屋だった。段ボールがいくつも積み重ねられ、偏った栄養しか補給できねえよっていうほどのインスタント食品がゴミ袋に三日分ほどたまっている。机の上は、バインダーの山でおおわれていて、下の板が見えないほどものが置かれていた。

「・・・・いったいどこで作業しているんです?」

聞かずにはいられなかった。しかし前原先生はおかまいなしに部屋の山を慣れた手つきで崩していた。

「こういうのはな、感覚で覚えているものなんだ」

「じゃあ、別に部屋がきれいでもいいじゃないですか」

「・・・・・・・それが男と女の違いだ」

「片付けないひとは皆そういうんですよ。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

勝った。内心ガッツポーズをしていると、前原先生がバツの悪そうな顔でひとつの段ボールを差し出した。

「・・・ほら、教材。とりあえず今日の分な。他の教科書は明日の放課後取りに来てくれ。」

「はいー。あの、シャーペンや消しゴムはどうしたらいいですか?」

「一階に購買があるぞ」

「私、財布も携帯も持ってないんですが」

「・・・・・・・・・・。」

前原先生はおそらく、理事長に対する突っ込みを思い浮かべているのだろう。段ボールを下におくと、自分の机がある位置にいき、その山からひとつの袋を取り出した。

「こんなこともあろうかと、予備の筆箱を常日頃机の上に置いておいたんだ。自分のができるまで、これつかっててくれ」

黒く、少し厚めの生地に、控えめに英語のロゴが白く入っている。

「センスについては、ノーコメントだ」

「・・・いえ、大丈夫です。私はこのくらいシンプルなほうが好きです。」

少し安心したような顔になって、前原は空に段ボールを差し出した。

「ほら、そろそろ行かないと次の授業に間に合わないぞ。移動教室だからな。あ、これ地図」

いいつつ、段ボールの上に高校の見取り図の紙をおく。そして。ほとんど追い立てられるように空は体育教官室をでた。


「つか、この段ボールどうしよう・・・・」

放課後まで持っているなんてごめんだ。ひとまずクラスに帰らなければ。教室に人が残っていたら、移動教室までついていこう。

そんなことを考えながら、もと来た道を逆流していく。さっき見た教室プレートを頭上で確認しながら、ドアを足で開ける。


大きくため息をはきながら。



 

 

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