あまつそらなる
私はなぜ、こんなところにいるのだろうか。
幾十人との視線を一身にうけ、私は身をすくめ、目線を泳がせる。
周りには敵だらけ。唯一の味方も、ただ憐みのまなざしで私を見ている。だめだ、味方も味方として機能していない。
本当に、なんでこんなことになったんだろう。
昨日まで、普通に制服を着て、友達と喋って、普通に生活をしてたというのに。
事件の発端は三時間前にさかのぼる。
「お前、男子校に入れ」
「帰る」
襟首をつかまれ、ドアノブに手が届かない。露骨に舌打ちして、振り向く。
そこには趣のあるしわが深く多く刻まれた、わがおじい様が座っていた。
ちなみに襟はつかまれたというより、杖でひっかけられた。
祖父は気の抜けた顔をして、私を軽くにらんだ。
「なにすんのよ」
杖をはずし、私も睨み返す。
「お前がわしの話をまったく聞いてないからじゃろ」
「いきなり女子高の女生徒の孫をつかまえて、男子校入学を進める祖父の話なんか、聞くわけないでしょ」
部屋にはいるなり、この爺さんはなんだかわからないが、この私に『男子校に入れ』って言ってきたんだぜ。どうかしてるとしか思えない。
まったくもってその通りのことをいったつもりなのに、祖父はあきれはてたようにため息をついた。むかつく。
私の名前は柴崎空。女子高の高等部一年に在籍する、いたって普通の女の子だ。
「まあ、まて。早計な決断な早死にしやすい。わしの話を最初から最後まで聞け」
頬杖をつき、退屈そうに、けだるそうに私をみる。
「・・・・・・・」
このまま祖父から逃げ、寮に帰ってもまた祖父からの使いがくる。私はあきらめてそばにあったイスに座った。
「で、なによ」
祖父は長い溜息をつき、机の中から数枚の書類をだした。
「実はな、今わしの学校でいじめがおこっているのじゃ」
「い、いじめ?」
いきなりどうした。
「わしとしては、名門男子校にいじめがあるなんて、汚点以外のなにものでもない。でも、わしら教員がとやかくいったって、いじめがなくなるわけない。だから、お前になんとかしてほしいのじゃ」
いじめ。うちの高校では聞いたことないな。
まあ、閉鎖された空間じゃ、起きるのも不思議じゃないよね。
だいぶまともな理由に、私はしばらくだまって祖父の目をじっとみつめた。
「い、いや」
おもわず拒否してしまった。
「なぜじゃ」
「なぜじゃって・・・・。そもそも私になんでそんなことやらせるのよ。ほ、ほら。おじいちゃんの学園の生徒とかさ。いるじゃない、いっぱい」
祖父はまたもや長い溜息をついた。幸せが逃げまくるぞ。
「あほか、お前は。わしの学校でおきているいじめなのに、わしの学校の者にどうこうさせてどうする。だいいち、はっきりいってあいつらは信用しておらん」
こいつ・・。
説明すると、私の祖父は男子校の理事長をつとめている。そして、私の祖母は女子高の理事長をつとめている。さらに、男子校と女子高は塀をへだてて隣にあり、私はその女子高に通っている。どちらの学校も全寮制で、長期休暇に帰省を許されている。普段はあまり女子高の生徒が男子校に入ったりしてはならない。もちろん、男子校の生徒が女子高に入るなどもってのほかである。
だというのに。
今日は掃除当番だから、早めに学校にいこうと寮をでたとき、いきなり漆黒の漆塗りの車が私の目の前に現れ、穏やかで控えめな友達がすぐそばにいるというのに、いきなり車の中に私を連れ込み、クラスメイトが見守る中、理事長という職権をフルにつかって男子校の理事長室につれこまれたのだ。
そしてこの一言。
まったく、わが祖父ながらめちゃくちゃなひとだ。
だいたい、信用してないとかいって、それでいて細かい庶務やら雑用やら任せてるくせに。
「教員にやらせても、犯人は男子校で培われたスキルを活用し、うまくやりすごすに決まっておる。それに教員も暇ではない。かといって、男子校の生徒に、そんな正義感が強くて裏表のないまっすぐで純粋なやつがいるとも思えない。それに、身内くらいでないといろいろと文句がつけられないじゃろ。だから、お前が一番丁度いいんじゃ」
「・・・お、おばあちゃんはなんて?」
「好きにしろと」
この祖父にしてあの祖母あり。まったく、似たもの夫婦とはこの人たちのためにある言葉だと、つくづく思う。
「・・・・・・・・・・・・・」
私があまりの展開の速さに硬直しているうちに、祖父は見事なまでの指ぱっちんをした。
パッチィン!
その音が合図になり、後ろのドアから二人の女性がでてきて、容赦なく私を羽交い絞めにし、あっというまに別室に連れていかれた。
その部屋にはあらかじめ用意されていたと思われるような、制服や、かつらや、さらしなどが多々置いてあった。そこから2人の女性は私の体を、メジャーでこれでもかというほど図り倒し、ギャグかと思うほど大量にある制服の中から(もちろん男子用の)私のサイズより少し大きめの制服を取り出した。そして私の微妙な大きさの胸にさらしをまきつけ、頭に私と同じ鴉色のかつらを歪みなくつけた。
およそ一時間後、鏡の前に立っていたのは紛れもない『男の子』だった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
もう、文句をいうのも疲れた時。
その部屋に私の新しい担任が迎えに来た。
祖父は有言実行がモットーなため、私に気持ちの整理をさせる時間や、友達に事情を説明する時間も、寮に行って荷物をとってくる時間も後回しにした。
つまり、さっさと放り込んでしまおうという。
私は抜け殻のように担任の後について、階段を三回分ほど上がり、長い長い廊下をひたすら歩いた。
「おい・・・ついたぞ」
私がショックのあまり何も話さなかったので、担任はおずおずと私に声をかけた。
「あ、はい。えと、よろしくお願い、します」
私が女で、なんのためにこの男子校に潜入しているのは、ごく一部の教員には通達がいっているようで、担任もその一人だ。あとは保険医など。
「ああ、こちらこそ・・・。俺はこのクラスの担任で、体育を担当している前原だ」
若い先生で、二十代後半と言ったところか。少し日焼けした肌と、体育教師らしいジャージが短めの髪によく似合っている。私をなんとも哀愁漂う目で見ながら、そのまま教室のドアを開けた。
私が在籍することになったのは、一年二組。学年はもちろん変わらない。女だとばれないようにきをつけなければ。・・・まあ、祖父に恩を売るのも悪くないだろう。
そう強気に思って、一歩踏み出した。
が、私が後悔するのに、一分もかからなかった。
(・ω・)初です。心臓が六つ欲しいほどびびってます。
頑張って続けたいです。




