86.母ちゃんの小説 第41話
少年たちの背後でビデオカメラが翔の姿を写していた。
カタカタカタ…。
手錠が外され、代わりに少年たちの手が翔の手首、足首を絨毯の上に押さえつけた。
「足を大きく開かせろ」
「ばっちりアップで映るように膝を曲げさせろ。何か体の下に入れて、尻を上げさせるんだ」
力づくで両足がこじあけられ、カメラがそこをなめるように映していく。
「やめろ!」
翔は身をよじって叫んだ。大声を出せば誰かが気づくかもしれない。部屋の外にいる、あるいは建物の前を通りかかる人間に聞こえるかもしれない。
「叫んでも無駄だぜ」
頭の上で坊主頭が言った。
「この部屋は完全防音なんだ。泣こうとわめこうと誰も来やしねぇ。ま、もっとも聞こえたところで誰も不審には思わないだろうが」
背後でベルトを外す音がした。
「一番、マサ、行きます!」
トランクス一枚の少年が立っていた。仲間内で「特攻のマサ」と呼ばれており、ケンカなど派手な立ち回りで真っ先に飛び出す鉄砲玉のようなタイプである。
「行け! マサ、一気に行け!」
「女、鳴かすのと変わりゃしねぇぜ!」
他の連中が周囲からはやし立てる。
「どうせなら女のほうがいいけど。ま、行きまっさ」
マサは吊り上がった目を細め、翔の体を見下ろした。
腰のトランクスが床に落ちた。
「ヤベッ。コイツ、ゴム、切りやがった」
マサが慌ててトランクスを引き上げるのと同時に、何かがトン、と軽い音を立てて絨毯に着地した。
「コイツ、俺の股ぐらが定位置なんで、いつもここに入れてやってるんだけど、今日は人がたくさんいるんで、何か緊張してるみたいッス」
そう言うと、マサは絨毯の上にいる何かに愛おしい眼差しを向けた。
みゅぅ〜ん。
「うはぁ〜」
「ほぉぉ、かわぇぇ」
たちまちギャラリーから歓声が上がる。
それは一匹の白黒ブチの子猫だった。
「よし。ミウたん」
蕩けそうなほど甘い声でマサは子猫に呼びかけた。
「ハウスしなさい、ハウス。あのお姉ちゃんみたいなお兄ちゃんのトコ、行きなさい」
「猫にハウスって言って通じるのか?」
「ミウたんはな、頭いいから分かるの。見てて。はい、ミウたん、ハウスよ〜」
マサはそう言うと、どこからか取り出したねこじゃらしで翔のトランクスを軽く叩いた。
子猫が顔を上げ、ねこじゃらしを見た。
「ミウたん、行けっ」
その声に応えるように、子猫は立ち上がり、一気に翔のトランクスの中に潜り込んだ。
「いやあああああっ!」
翔はたまらず悲鳴を上げた。
「えー、ここからは私、実況のフクリと解説のホトリさんでおとどけします。えー、ホトリさん、今、こう、猫が」
「正しくは子猫のミウたんですね、マサ氏所属の」
「はい、で、そのミウたんがマサ氏の号令の元に挑戦者のトランクスの中に侵入したのですが、現在、中では一体どういうことが行われているのでしょうか」
「これはですね、ハウスというかけ声から推測しますに「自分の領域に戻れ」という意味でしょう。先ほど試合直前にマサ氏が興味深い発言をしていました」
「えー、その発言とは?」
「『俺の股ぐらが定位置』、つまりは挑戦者の股ぐらを目指して進行中だと思われます。しかしですね、」
「いぎぃぃぃぃっ」
「おっと、ここで挑戦者が絶叫しました。ホトリさん、これはミウたんが定位置に到達したということでしょうか」
「いや、違うでしょう。いくら何でも早すぎます。おそらくは、中でミウたんが滑って挑戦者の内ももに爪を立てたんでしょう」
「爪を。それは痛そうですね」
「痛いですよ。子猫は小さいのでダメージを与えにくいと思われがちですが、小さい分、爪も歯も大人の猫より尖っているので、本気でやられるとかなり痛いです」
「えー、その場合、挑戦者はどうミウたんの攻撃に対処すればいいのでしょうか?」
「そうですね。今回の挑戦者はとても肌がなめらかですから、下手に動くと余計に引っかかれますね。ですので、忍の一字、とにかく動かずにいる、しかないですね」
「なるほど。えー、数分経過しましたが、この実況席からですと動きがよく見えません。カメラマンのアナリさん、もうちょっと局部に近づいてください。あ、はい、今、チラッと白いものが見えましたね」
「間違いなくミウたんです。トランクスの色が違うからか、あるいはマサ氏と挑戦者では毛質が違うからか、中で迷っているようです」
「迷うこともあるんですね!?」
「あります。一般的に動物は人間より方向感覚が優れているものですが、時と場合によっては動物でさえも道に迷うことがあります。例えば伝書鳩、いますよね。あれのレースにおける帰還率は約半分、しかもだんだん低下していってるんですよ。それを考えれば、ミウたんが飼い主ではない人間のトランクス内で迷っても無理はないと言えますね」
「さあ、残り時間が30秒を切りました。ミウたんが無事に定位置に到達するのか、はたまた挑戦者がその秘境を守りぬくのか。マサ氏もギャラリーも静まり返っております。20秒前」
「い゛い゛い゛い゛い゛い゛」
「挑戦者、叫ぶ。これは深く爪で抉られたようですね。しかし、足を動かさず耐える。挑戦者、耐える。あと10秒。さて、ミウたん、どう出るか。8、7、お、トランクスの片側が盛りあがった。ミウたん、初登頂なるか。5、4、おっと盛りあがりの山が崩れた。これは、落ちたか、ミウたん、落ちたか。さて、どうだ」
「これは写真判定にもつれ込みそうですね」
「いや、待ってください。ミウたん、今、出ました! ミウたん、挑戦者のトランクスから出て、あー、マサ氏の足にたどり着いた。マサ氏のところに戻ってしまいましたっ」
「ミウた〜ん、ダメじゃない」
「ミウたん、マサ氏の足を全力で登る、登る。そしてマサ氏の定位置に、着いた! が、しかし、そのトランクスのゴムは破損しているっ、ミウたんはトランクスごと、地上へ落下ぁーっ!」
「7秒! 映像止めて、7秒!」
「…えー、先ほど番組内でお見苦しい点がございましたことを深くおわびいたします」
(*携帯だと「あとがき」が読めないことを発見したので、本文欄に書きます)
前回予告したとおり、最大の難所「ぶっちぎりでR18回避」に差し掛かりました。もうこのくだりはほとんど原文が残っていません。登場人物もかなり違います。どうにかR18を逃れたい。その意気込みを理解していただきたいと思います。
by「俺」




