81.母ちゃんの小説 第39話
「お楽しみはこれからだ。だが、その前にいくつか教えてほしいことがある」
その声に、焦点が外れたような目つきのまま娘はうなずいた。
「何でも教えてあげる。何でも見せてあげる」
遙の口許に笑みが浮かんだ。
「ふうん。じゃあ、まず、君の仕事は?」
「ダンサーよ。のぞき部屋の。「泡屋敷」っていうの」
娘は恥じるでもなくスラスラと応えた。
「へぇ。仕事、おもしろい?」
「うーん、そうね。おもしろく、はないけど、お金がケッコウもらえるから続けてるって感じかな」
「そう。お金になるんだ。君のところのオーナーってどんな人?」
「ヤーさんよ。この業界って、ほとんどヤーさんと外国人のマフィアがやってると思う。でも、私は直接お金をもらってるワケじゃないからカンケーないな」
そう言うと、娘は肩をすくめた。悪びれた様子は全くない。
「ところで君、いくつ?」
「十七」
遙と雄司は顔を見合わせた。
「え? じゃ、高校生なのか」
娘はその問いに不満そうに唇をとがらせた。
「そう。別にいいじゃない、まだティーンだって。ちゃんと「使いもの」になるんだから」
雄司は狼狽し、さかんにまばたきした。
これって、島田にも聞かれてるんだなぁ。
「で。他の子も君と同じくらいの歳なの?」
娘は呆けた表情ながらも考えこむ仕草をした。
「うーんと、セイコが十六、アキナが十八、マリコが二十一で、リエが二十三。そうね、みんなだいたい十代後半から二十代前半ってとこね」
「三十すぎの人なんてのもいる?」
「いないわよ」
娘は唇を歪めて笑った。
「まぁ、通りから外れたようなトコにある店には「年増」もいるけど、やっぱり体型が崩れてて見せるだけじゃお金取れないから、みんなソープとかに流れちゃうみたい。テレクラってのもあるし」
娘の話からすると、この稼業のピークは短く、三十ではもうロートルの域に入るらしい。
『三十で年増か。まるで「シマ」みたいだな』
『うるさいな』
遙は娘に向き直った。
「じゃあ、最後の質問。「加山 多鶴子」っていう人、知らないかな? この辺で働いているらしいんだけど」
娘は首を振った。
「知らない。のぞき部屋にはいないと思う。ソープかテレクラでもあたってみたら。あ、そうそうイメクラってのもあるよ」
「そう。ありがとね、君。もう家に帰っていいよ」
遙はそう言うと緑の目を閉じ、黒いサングラスで覆った。
「え?」
娘はポカンとした表情をした。
「さ、子どもはおうちへ帰った帰った」
その顔から熱気が引き、娘は正気に返った。
「な、何よ、アンタたち。人をジロジロ見るんじゃないよ!」
目を吊り上げて一気にまくし立てると娘は駆け去った。
娘の姿が通りの角を曲がって消えると遙は大きく伸びをした。
「ま、ザッとこんなモンですな」
「珍しいな。あそこまで落としておいて放免するとは」
雄司の言葉に遙は斑の髪をガシガシとこすった。
「まあね。「十七」と聞いたらそれ以上する気になれなかった」
「翔と同じ歳ってことか。ははん、翔に隠れて浮気は出来ない、と」
「その件についてはノーコメント。だがな、今ので島田にかなりの情報が行った筈だ。あの子の頭の中のイメージが俺たちを経由してアイツに届いた。店、オーナー、そこで働く子たち…これだけでも何かしら役に立ちそうな気は拾えるだろう」
「そうだな」
通りの角に目をやり、雄司はうなずいた。




