69.Trip or Threat(前編)
「俺」ちゃん
お久しぶりでーす! 元気?
今、友達(女子だよ!)とこちらに来てます。
ネズミーランドの近くのホテルに泊まってるけど、どこかで会えるかな?
おみやげ預かってるから渡したいの。
じゃあ、連絡待ってまーす!
瑛美
「おいおいおいおいおいおいおいおい〜」
スマホに届いたメッセージ(実際の文は顔文字だらけ)を見て、俺は頭を抱えた。
コイツはこっちの都合なんか考えちゃいねぇ。
好きなときに来て、着いてから連絡を寄こす。
今回もだ。
台風接近中だってのに、一体、何考えてるんだ?
瑛美というのは、ここから離れた某県に住む俺の一つ上の従姉である。
「母ちゃんが女系家族で〜」と、前に書いたが、瑛美は母ちゃんの姉ちゃん、つまり婿養子を取って家を継いだ伯母ちゃんの娘である。
カタカナで「エイミ」だと、インターナショナルっぽくて、何だかブルネットでグラマラスなハーフの女の子を想像するだろうが、現物は純然たる農耕民族系の日本人顔だ。
ついでにオッパイも、天を衝く山岳地帯よりはなだらかな丘陵地帯、いや、稲作に適した平地を彷彿とさせる。
ここだけの話だが。
ま、そりゃそーだ。
名前が欧米風でも両親はバリバリ日本人なんだから。
伯母ちゃんは結構早いときから自分の宿命を自覚していたのか、短大を出た後「家事手伝い」を経て親が勧めた相手と結婚した。しかし、子供の名前だけは自分が付けると言って絶対に譲らなかったんだと。
その結果がコイツを含む三姉妹である。
カレン・エイミ・クロエ。
英語の名前としては、なんかイケてね?
だが、これに漢字を当てると、
花蓮・瑛美・玄依
…となって、それを農耕民族系の普通顔日本人の女の子に割り振ると、途端にうさんくささがモワ~ッと漂って、何だかいたたまれない気分になる。
単独なら、まだ「ちょっとモダンな名前」の部類で済むだろう。
だが、三人並んじゃうと、これが、もう。
ただの従兄弟でしかない俺がここまで痛いと感じるんだから、本人はどんな思いで今までの人生を送ってきたんだか。
特に漢字のコジツケ度が一番ひどい玄依は、その後、もののみごとにグレた。
まー、気持ちは分かる。
俺も長いこと「やーい、クロベエ」とか呼んでたし。
お詫びの気持ちも込めて、玄依には運命に負けず強く生きて欲しいと思う。
家、飛び出しちゃったらしいから、今、どこにいるか知らないが。
いつぞやのカラオケで、俺が自称一卵性双生児イケメン店員のセットみたいな名前に激しく突っ込んだのも、実はこのリアルな例が身近にいるからだと思う。
なので、俺はもし将来子供が生まれたら、絶対に後々本人に恨まれないような名前にするは!
ところで、
俺の子供が女の子だったら「ひなこ」って付けるか、って?
付けないよっ。
だって、日本じゃ親子で同じ名前にはしないじゃん?
だったら、ひなこちゃんの子供には「ひなこ」って付けられないだろがっ。
わっはっはっはっは〜♪
笑ってる場合じゃねぇ。
俺はホテルのロビーでソファに座り、瑛美が現れるのを待ってた。
最初、瑛美は都内のどこかで待ち合せようと提案してきたが、俺は即座にその案を却下した。コイツは方向オンチのくせに本能の赴くままどこへでも行くので、外で待ち合わせるのは絶対に不可能だからだ。
だいたい、おみやげ渡すのが目的なら、俺を呼びつけるんじゃなくてちょっとウチに顔出せばいいじゃないか。
一緒に来てる友達って、単独行動も出来ないぐらい田舎モンなのか?
てか、こんなめんどくさいことするよか宅配便で出せばいいじゃん。そんなに金かからねぇし、ヘタしたら会って手渡しするより早くね?
しかも、だ。
「ネズミーランドの近くのホテル」とくれば目的はソレだとは分かってたが、
俺が駅に着いた辺りで
「ごめ〜ん。やっぱりパレード観ることにしたから遅くなるね(+謝る顔文字)」
とメールが来たんだ。
おい、いいかげんにしろや!
俺はスマホから顔を上げ、周囲を見まわした。
たぶんこの動作をもう50回はやったと思う。
来て約30分ぐらいは
「高級リゾートホテルのロビーで華麗に待ち合わせしている俺」
のシチュでなんだかウキウキした気分だった。
俺がいるロビーは、季節柄というか、ネズミーランドのリゾートホテルだからか、ハロウィーンのディスプレイであふれかえって、色もオレンジと黒と紫で統一されてる。
なんか、スゲェんだよ、徹底しててさ。
ふ〜ん、これがハロウィーンの模範的な飾り付けってヤツ、か。
俺はすぐさま頭の中にこんなフローチャートを描いた。
ディスプレイの写真を撮る
↓
明日ひなこちゃんに「飾り付けの参考にどうぞ」なんて見せてあげる
↓
「今、仕事中だから、全部見られないですよね。後で送りましょうか?」と
言ってスマホの番号を聞き出す
↓
「じゃあ、せっかくだから本物のディスプレイを見に行きませんか? もち
ろんネズミーランドにも行って」と誘う
↓
ひなこちゃんとネズミーランド
↓
「おや、パレードが終わったらこんなに遅くなっちゃった。ひなこさんも疲
れたでしょ? 僕、実はこんなこともあろうかと、部屋を取ってあるんで
すよ。きっと、部屋にも素敵なハロウィーンのディスプレイがあるだろう
なぁ…」
↓
ひなこちゃんを部屋へエスコートする
↓
「僕、今夜のためにハロウィーンにちなんでカボチャ柄のトランクス穿いて
るんですよ。見てみたいと思いませんか…」
↓
俺、トランクスを披露して…
↓
「そして、カボチャと言えばこの野菜。外見はキュウリそっくり。でも、意
外にもカボチャの仲間なんです。色は緑と黄色が一般的ですが、今夜の一
品は初々しいピンクオークル。僕が種から丹精込めて育てたズッキーニを、
どうぞめしあがれ♪」
これならイケるんじゃあるまいかっ!?
俺はそう思い、スマホでディスプレイの写真を撮って撮って撮りまくった。
しかし、いつまでもそんなことはやってらんない。待ち続けて1時間経ち、1時間半経つうちに、浮き立っていた俺の心は荒んでいった。
そもそも、なんで俺らがハロウィーンやらなきゃならんのよ。
イギリスやアイルランド辺りが発祥で、派手に盛り上がってるのがアメリカなんでしょ? 日本、関係ねぇじゃん。
トリック・オア・トリート(お菓子くれなきゃいたずらするぞ)だっけ?
それって立派な恐喝罪だよな。
かと言って、
「だれがお菓子だぁ、このガキャあ」
と追い散らしたら「趣のない人」と後ろ指差されるだろうし、妥協して菓子をやったらやったで、後で親が「ヨソのお菓子で、ウチの子が太らされた、どうしてくれる! 謝罪と賠償をっ!」って怒鳴り込んでくるんだろ?
全く救いようのない行事だぜ。
バレンタインデーと並んで。
でもって、ハロウィーンの期間中のホテルはディスプレイだけでなく、働いてる人(ここの人たちも「キャスト」とか呼ばれてるのか?)も、黒のとんがり帽子にマントとか羽織ってんのな。
性別年齢役職関係なしに。
うぇwww、これはさすがにはずかしいはwww。
でも、やっぱ、こういうのも就業規則があって、かぎりなく強制に近い任意で着なきゃならんのだろうか。
「ウチはJOEDO真宗なので〜、伴天連系の行事はカンベン〜」
とか言って、ハロウィーン・コスを拒否するような勇者はいないんだろうか。
俺の店の中もひなこちゃんの頑張りでだいぶハロウィーンしてきたが、これと比べたらまだまだ地味なんで安心した。
てか。
俺は個人的にはハロウィーンなんて行事はなくても全然困らない、いや、むしろなくていいくらいに考えているが、もし、ひなこちゃんがコスプレしてくれるなら、大いに歓迎だ。
そして、リクエストができるのなら「正統派な魔女コス」ではなく「魔法少女」でお願いしたいっ!
そんなこんなで、待つ間にできることは全てやって、ブッチして帰るほかないってところまで来たときにやっと待ち人が来た。
まただ。またやっちまった。
なぜ、イケないんだ。
イキたいときに一気にイケずに「前編」と「後編」に分かれてしまう。
なんか、ものすげー欲求不満溜まるは。
そして一方では今朝方(26日早朝)の地震にビビった俺。




