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ウチの母ちゃんが25年前に書いた小説見つけたったwww  作者: 征彌
俺は母ちゃんに復讐したい
63/210

63.ヒナコノミクス

「すみません。☓☓大学の(あけ)○(ほん)、探してるんですが」

「あ…あけ、ほん、ですね? 少々、お待ちください」

 底の平たいバレエシューズのぱたぱたという音とともに、ひなこちゃんがこっちに来た。

「あの「俺」さん、あちらのお客さんが、あけほん? を探してるんですが、☓☓大学の」

「分かった。僕が話すよ」

 俺は背筋をすっ、と伸ばし、男子高校生らしき男に近づいた。


「☓☓大学の朱○(あけほん)をお探しだそうですね。朱○(あけほん)はあいにくこちらにはございませんが、ご希望でしたら早速お取り寄せいたします。ですが、もしお急ぎでしたら、予備校が同じ主旨で藍○(ほん)、墨○(ほん)、禁○(ほん)、縁○(ほん)、伯○(ほん)と呼ばれるものを出しておりますので、まず、そちらもご覧になってみてはいかがでしょうか」


 一気にそう言うと、高校生は「あ、そ、そうスか」と口の中でつぶやき、後ずさりして他の商品棚に移っていった。


 ふんっ、あんなヤツが☓☓大学を受けるワケない。

 見りゃ分かる。

 って、チキンな俺がずいぶん強気だって?

 まあな、何年もバイトしてるから、ここは俺のテリトリーみたいなもんだし、相手は明らかに年下、それに、近くでひなこちゃんが俺の一挙一動を見てるからなっ。


 ひなこちゃんが俺のバイト先で働くようになってから10日経った。


 いきなり時間、飛ばしたった。

 しょうがないだろ、俺がだらだらとカラオケの話やら母ちゃんの過去話に時間を取ったから、そのズレを直すためには、どこかで話をはしょらなけりゃならないんだ。


 それに、今月は他にも、

「先月のテストの結果が返ってきて、低空飛行ながらどうにか追試を逃れた!」

とか、

「なぜか「ウチの母ちゃんが25年前に書いた小説見つけたった〜www(略称:UCK25)」がいきなりこのサイトのジャンル別ランキングの上位にランクインしてパニクった!」

とか、俺にとってはビッグな出来事があったもんで、落ち着いて一つ一つ順序よく報告してる余裕がなかったのよ。


 まあ「どうか、お察しください」ということで。

 先、行こう、先っ。


 10日間一緒に働いて、俺はひなこちゃんについて知りたかった情報を「ごく自然」を装ってゲットした。


 まず、ひなこちゃんのフルネームと年齢。

 宮村雛子、16歳。


 なんか「宮」とか「雛」とか付くと、いいトコ育ちで(みやび)な感じだよな。

 でも、ピンク色(イイね!)のエプロンの胸(まだサイズはよくわからないんだよ!)に付けてるネームプレートには「ひなこ」とひらがなで書いてあるし、俺も今後とも心の中で「ひなこちゃん」と呼び続けるつもり。


 ところでさ、下の名前だけ名乗るのって、今の傾向なん?

 情報通の母ちゃんによると、ネットで検索すればなんでも出ちゃう時代だから、今どきの親はあんまり子供に気軽にフルネームを名乗らせたがらないとか。それと、あれだよね、途中で苗字変わったりすることもあるし。俺が中学のときにもそういうヤツいたわ、そういや。


 ちなみに俺(今日は黒のエプロン着用)のネームプレートには苗字が書いてある。そして俺のフルネームもひなこちゃんにバッチリ教えといた。漢字でどう書くかもっ!


 あのさ、

「俺の苗字+雛子」でネットの姓名判断すると、けっこうイイ結果出るんだぜ!

「俺のフルネーム」&「宮村雛子」の相性はイマイチだったが。


 それから、店長と二人きりで開店準備した日に聞いたんだが、ひなこちゃんは最初、奥さんのカラオケショップのほうに応募してきたんだって。だけど、未成年だからって、ホンヤさん(仮名)が代わりにこっちで働いてもらうことにしたんだと。


 ホンヤさん、俺にこの出会いをもたらしてくれて、マジ、感謝。

 俺は心の中で店長に五体投地した。


 ひなこちゃんだって、もしあんなところで働いてたら、きっと、あの自称一卵性双生児美形野郎どちらか、あるいは両方のエジキになってたはずだ。

 …エジキ…。


「すいません、これください」

「すみません、来月発売の「艦こんぷアンソロジー」を予約したいんですが」

「あの〜、これ、カバーお願いします。…ぐふっ、ぐふふっ」


 気がつくと、ひなこちゃんに他の男どもが群がっていた。


 おい、そこのお前はコンビニ常連客じゃないか。いつの間に寝返ったんだよ!

 お前は「店長さんよりよく知ってるから」って、予約はいつも俺に頼んでたよな?

 おらおらっ、ひなこちゃんは、まだカバーかけはそんなに上達してないんだ。俺がやってやるから、渡せよぉぉっ!


 まったく、油断もスキもありゃしねぇ。

 俺はひなこちゃんにホウキで床の掃除を頼み、彼女から引き剥がした客を半ば強引にカウンターへ連行した。


 それにしても、なんなんだ、このにぎわいっぷりは。

 今はちょうど高校の下校時間とはいえ、こんなに店に客(男が圧倒的に多い)であふれかえったことは未だかつてなかった。

 ところが、ここ数日は毎日こんな感じだ。

 朝は登校前の中学生と高校生でごった返し、その後は大学生・専門生を含む一般男性がなだれ込み、午後はこれ全部が入り乱れてとんでもないことになる。

 そして土曜日は…もう悪夢だ。


 どれだけすごいかっていうと。

 アキバのブ○ク○フの特定売り場と同じぐらい空気が濁るんだよこれがっ!

 ピーク時には俺が家から持ち込んだ卓上扇風機回してるけど、全然効果ない。

 自分も構成員の一人とはいえ、男、それも下心が物理的に堆積してる連中が集まると、こんなになっちゃうんだな。びっくりだぜっ!


「ね、君、高校生でしょ。□□高校行ってない? こないだ、君そっくりの子を見かけたんだけど」


 別の高校生がひなこちゃんの進路を塞ぐようにして立ち、話しかけている。

 ちょっと目を離すとこれだよっ!

 眉を寄せ、ちょっと困ったような顔をしたひなこちゃんが返事をする前に、俺は補給用在庫を手に二人の間を通り、混雑に乗じてソイツの足を思いっきり踏んづけてやった。


 ひなこちゃんはどうやら高校には行ってないっぽい。

 出勤2日目に、ふっと

『ひなこさん(← 俺、本人には「ちゃんづけ」で呼びかけられねぇ)は、なんか、女子校行ってる感じですよね』

と言ってみたんだけど、ひなこちゃんは

『…あ…』

と言ったっきりだったので、俺は即座に話題を変え、それ以上聞かなかった。

 なんか、そこは触らんで欲しい、みたいな空気を感じたので。


 それなのに。

 俺がそれだけ、気ぃつかって聞かないようにしてることを、単なる会話のきっかけってだけでホイホイ出すなっての!


 ソイツはなおも未練がましくひなこちゃんを目で追ってたが、俺が敵意のこもった目で見てやると慌てて携帯を取り出し、メールをチェックするフリをした。

 便利だよな、携帯って、こういうとき。

 だけど、間違ってもひなこちゃんを隠し撮りとかするなよっ。


 って、ホッと息をつく間もなく、すでに新手の男がひなこちゃんに向かって手にしたキーをチャラつかせてた。


「今日、上がるの何時? オレさ、バイクで来てんだ。家まで送るよ」


 ちょwwwww、分かりやすいナンパ、キターッ!


 しかも、バイクで2ケツ狙いなんて、一体いつの時代だよっ。

 俺は店の外を見、自転車に混ざって駐めてある該当車を確認した。


 ほほう、原付2種、ね。

 2種免を持ってるのは認めてやるが、ナンパはせめて125からにしてくれないかな?


「あのー、お客さまですか、外に斜めに原付(・・)駐めてるかたは。原付(・・)は、大きいバイクと違いますから、自転車と同じように駐めていただけると思うんですよ。もし、原付(・・)でそれがおできになれないというのであれば、どこかヨソに駐めていただけませんでしょうか。原付(・・)の斜め駐車は他のお客さまのご迷惑になりますので」


 大事なことなので奮発サービスで4回連呼したら、すごすご引き下がりやがった。

 俺、大勝利っ。


 気になるひなこちゃんの住居だが、それも出勤3日目にある程度聞き出した。 

 ひなこちゃんは隣の町の賃貸マンションにお兄ちゃんと住んでるとのこと。

 チッ、残念。

 この町だったら、賃貸物件情報も網羅してる母ちゃんがいるから、楽勝でどのマンションの何号室かまで分かったのにな。


 ま、それでも早速その晩は隣町の地図をググり、それっぽい建物を見つけてはストリ◯ト・ビュ◯でいろんなアングルから眺めまくったは。洗濯物でも干してあったら分かりやすいのにな〜、とか思いながら。もうちょっと手がかりになりそうな情報が集まったら、自転車(チャリ)で行ってみる〜。


 これぐらいだったら、ストーカーじゃないよな?

 なっ!?


「お掃除、終わりましたー」


 ひなこちゃんの声に、俺を含め、店内の男が一斉に反応する。

 空気が無駄な負担をかけずに喉を抜けて出てる、そんな感じの透き通った音なんだ、ひなこちゃんの声は。


 しかしっ。

 言っとくが、これは、俺に向かっての言葉なんだからな、その辺の野郎ども!

 小声で「ご苦労さまぁ♡」なんて返事してんじゃねえよっ!


 ソードも(ガン)もキャノンも出てこないが、俺ののどかだった職場はすっかりバトルモード全開の戦場になっちまった。

 もし、人の感情を可視化できるモニターでもあったら、今の俺は間違いなくメラメラと炎のような闘気を全身から立ち上らせているはずだ。


 そして、なんのかんので、夕方。

 ひなこちゃんは外回りから帰って来た店長と入れ違いに仕事を上がる。


 最近、店長は奥さんのほうのビジネスを手伝うことが多くなり、俺がシフトに入っている間はほとんどこっちを俺とひなこちゃんに任せて店を空けている。前に奥さんが向こうのビジネスを拡張するとかいううわさを聞いたが、忙しそうにしている店長を見ると、やっぱりカラオケショップの大型化計画は本当なのかもしれない。


「じゃあ、お先に失礼します」


 店内の客が耳をぴいいいんと立てているので、店長と俺にだけ聞こえるようささやくように言い、ひなこちゃんはバックヤードを抜けて裏口から店を出る。  


 働き出して最初の2、3日はペコンと大きく頭を下げて表から出ていたが、大勢の客が後を追っかけるように商品を持ったまま店を出て、意としないまま集団万引きになりかけたので、その後は客のスキを見て脱出する現在のスタイルになった。


 ひなこちゃんも怖い思いをしたんだと思う。彼女によると、裏口から出た通りにお兄さんに車で来てもらって、そのまま乗り込んで帰るんだそうだ。

 ちなみに俺は通りまで送ろうかと申し出たのだが、それは『大丈夫です』とやんわり却下されちまった。


 俺のこと、お兄さんに彼氏的なものだと誤解されたくないのかな。

 俺はそう思われちゃったとしても、全然構わないけどっ。

 むしろうれしいぐらいだけどっ♪


「ありぁとございました〜」


 ひなこちゃんが急に姿を消し、そのまま帰ってこないと分かると、店内はまたたくまに潮が引いたように客がいなくなり、店長と俺だけになる。


「今日もお客さんがたくさん来たみたいだね」

「え、ええ」


 店長が今日の売り上げを計算している間に俺は疲れた体にムチ打って朝の開店準備を反対の順番で店を閉めていく。

 正確な金額は知らないが、ひなこちゃんが働くようになってから、店売り上げは確実に倍増している。


「ヒナコノミクス」とでも命名しておこうか。


 もちろんひなこちゃん見たさで来てるだけのひやかしの来店者も多いが、彼女との個人的な会話を求めて、今までコンビニやスーパーで買い物してた客までがこちらにシフトしてるのは、俺たちにとってはすごい経済効果である。


 といっても、別に俺の時給が上がったりはしてないがな〜。


「ところで、ひなこくんから聞いた?」

 売り上げを手にニコニコ顔の店長が言った。

「は? 何か」

「いや、別に大したことじゃないんだけど、ひなこくんから店内にハロウィーンの飾りつけをしてはどうかと提案されててね。どう「俺」くんはそういうの得意?」

「…得意、ではないですね、正直いって。でも、ひなこさんがやりたいというなら、お手伝いになる程度には…」

「そう。じゃあ、明日から早速始めよう」


 ぶっちゃけ、俺、飾りつけとか、超苦手。

 個人店だから働けてるけど、当たり前のように店員がイラストやらポップやら描きまくる大手のチェーンだったら、絶対にバイトに採用されてない自信あるは。


 でも。

 ひなこちゃんが喜ぶ顔が見られるなら、苦手だけどやってみるか。

 そして今、ひなこちゃんは店で空いてる時間にはいっしょうけんめいハロウィーンの飾りつけに使うイラストを描いたり、置き物を作ったりしている。


「あの「俺」さん?」

「は、はいっ」

「これ、ちょっと見てもらいたいんですけど。何に見えます、か?」

 そう言ってひなこちゃんはイラストを見せてくれた。


 黒い、花びんみたいなもので、下から上に行くまでに一度細くなり、そこからカーブをつけて太くなったところに赤いフタのようなものが載っている。


「ええと……しょうゆ差し、かな?」

 俺の返事にひなこちゃんは目に見えてガッカリした。

「…黒ネコなんですけど…赤い帽子かぶった…」


『ちょwwwwwwwwwwwwww』

「あ、そうなんだ。…そういや、ネコだね、ネコ。しょうゆ差しなんて、僕、どこ見てたんだろ」


 ごめん。

 でも、全然ネコには見えなかったは。


 ひなこちゃんは…どうやら美術的センスにはあまり恵まれてないようだ。

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