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ウチの母ちゃんが25年前に書いた小説見つけたったwww  作者: 征彌
俺は母ちゃんに復讐したい
54/210

54.母ちゃんの小説 第27話

「雄司」

 千石のマンションの一室。

 先に飛行から戻った遙がテーブルの向こうから声をかけた。

 雄司の精神はまだ帰って来ていない。

 ソファに身を沈め、ぐったりと目を閉じたままだ。

「雄司。まだ飛んでいるのか」

 遙は近づいてその顔をのぞきこんだ。

 意識があるときの雄司は常に「シマ」のよき指導者であろうと気を張り続けているせいか厳しい表情をしている。

 しかし全身の力を抜き、精神を彼方に飛ばしている雄司の現身(うつしみ)は長い睫毛が目立つ優しげな青年に見える。

「シマ」神社の巫女である姉の律子とは母が違うと聞いていたが、その顔は彼女の面差しを留めている。

 両親と妹を亡くし天涯孤独の身であった遙に手を差しのべ二百年の時を隔てて再び一族への帰還を許したのは雄司だった。

「雄司」

 影島の血がーーかつては島邑の一部であった影島の血が、島邑を恋うて熱く脈打つのを遙は感じた。

 そう。俺の血はいつでも島邑に戻りたがっている。

 一つになりたがっている。

 遙は身をかがめてそっと雄司の唇に口づけた。

「ん…」

 唇を離した途端、雄司が呻いて目を開けた。

「あぁ、遙。先に戻ってたのか」

「うん」

 遙は素早く立ち上がった。

「あまり帰りが遅いから、さっきの罠にひっかかっちまったのかと思ったぜ」

 琥珀色の瞳が雄司を見下ろす。

「新宿でヤクザにからまれている人がいたんだ」

 雄司はそう言うと指先でこめかみを押さえた。

「大丈夫か」

「ああ。ちょっと疲れただけだ」

 雄司は首を振った。

「もう二時。堅気の人間はもうオネンネしている時間だもんな」

 壁のアクリル材でできた時計が微かに音を立てて時を刻んでいる。

「俺のほうは全然面白いことはなかったな。オフィス街なんてのは、九時過ぎちまうとネズミばかりだ」

「とにかく平和なのが一番さ。僕らも出番が少なくていいし」

 そう言って立ち上がった雄司は軽くよろめいた。

「少し休んでいったほうがいいんじゃないか」

「平気だ。朝から仕事があるし、のんびりしていられないんだ」

 おぼつかない足取りで玄関に向かう雄司の腕を遙がつかんだ。

「送ってくよ」

「大丈夫だ。タクシーで帰るから」

「この辺でこんな時間に拾えるわけないでしょ。ほら、靴持って」

 有無を言わさず靴を渡すと遙は雄司の両腕を握りしめた。

「宅配するぜ」

 緑の光が再び瞳いっぱいに満ちた。

 フシュッ。

 あたりの景色が陽炎のように揺らぎ、次の瞬間二人の姿はかき消すように見えなくなった。

「ふぅ」

 遙は額の汗をぬぐった。

「これじゃ、宅配便じゃなくて卓配便だな」

 黒い金属のダイニングテーブルの上でつぶやいた。

「下手に動くとひっくり返るぞ」

 テーブルの上でバランスを取りながら雄司が言った。

 景色は豪奢で個性的なリビングルームから、どことなくすすけたわびしいキッチンに一変していた。

 遙の千石のマンションから雄司の巣鴨のアパートに一瞬のうちに移動したのだ。

「相変わらずつつましい生活してるね」

「大きなお世話だ」

 二人はそろそろとテーブルから下りた。

「おや、お子さんの写真を飾ってるね」

 目ざとく冷蔵庫の上の写真立てを見つけた遙が言った。

「妹と弟だ。言っておくが」

 雄司は腕組みをして渋い表情でつけ加えた。

「独身の男は兄弟の写真なんて大事そうに飾っとかないと思う。普通」

 遙が持つ写真の中に桃子の笑顔があった。幼い弟の手を引き、他の二人の妹たちとともに写っている。

「桃子に杏子に……あとは何だっけ」

(とう)子に陽司だ。——お前、何回言っても覚えてくれないな」

 遙は吹き出した。

「ほら、いかにもパパの言いそうなセリフだ。俺のような若い男に子供の名前が覚えられるわけないでしょ」

 写真を元の位置に戻した。

「お前は子供を作ろうとは思わないのか。結婚したいとか」

 雄司の問いに対し、遙は薄笑いで答えた。

「ご冗談でしょ。俺はまだ二十三だよ。この歳で家族に束縛されたくはないね」

 薄茶の瞳にふっと蔭が差したように見えた。

「俺は影島の血を後世に残したいとも思ってないし。——好き勝手やっていられる今の状態が一番いいんだ」

「翔くんのこともか」

「ああ。あいつは結婚してくれとも言わないし、子供ができることもない。気楽な関係さ」

「だけど未成年なんだから気をつけて扱わなきゃな。傷つきやすい年ごろだし」

「分かってるって」

 遙はウインクした。

「じゃ、また。あんまり(こん)つめて働かないように」

 言葉が終わるか終わらないうちにその姿は空間に呑み込まれるように消えた。

「ふぅ」

 遙の気配が完全に消え去ると雄司はソファに倒れ、引きむしるようにネクタイを緩めた。

「桃子」

 眠りに落ちながらつぶやく。

「…杏子…橙子…陽司。元気か。パパは今日も大変だった。でもお前たちのために明日も働くぞ」

 時刻は既に限りなく朝に近づいていた。

 これが当時の母ちゃんの「理想のダンナ」だったのかなぁと思いながらタイプしました。しかし実際の結婚した相手・父ちゃんは小説中の人物とは正反対のタイプです。似ているところを無理に上げれば……背が高いところ、でしょうか。

 今回の訂正は超マイナーなところ一箇所だけです。

by「俺」

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