5.自動書記で編集者な「俺」
俺は家を一歩出たらパキッと頭を切り替えて、現在進行中の「俺」のプロジェクトについて考えないようにしている。
だから、スマホで『キターッ』だの『わっふるわっふる』だの『おっぱいうP』だのと書き込むことはあっても、小説のサイトに行って自分が書いたものがランキングに入っているか探したり、自分のページへのアクセス数をチェックしたりなどは絶対しない。
だって、誰かに見られたら恥ずかしいじゃん。
『「俺」くん、何、見てるの? もしかして、それ「俺」くんが書いてたりして? え〜、意外。「俺」くんってそういうのやる人なんだぁ。ね、ちょっと見せて。笑ったりバカにしたりしないから。ほんとうにっ。私ね、物語を書いたり出来る人ってすごいと思う。自分の世界を持ってるっていうか〜、何かピュアなところがあるっていうか。いいよね〜』
たとえこんな風に言われたとしても、うっかりいい気になって見せようものなら、
『なによ、この「全裸で待機」って。「俺」くん、マジでこういうことしてるんだ。もしかして、変態、とか?』
急転直下でこうなることは分かってる。
それに、ここはあくまでも「母ちゃんの小説を発表する場」であって、俺の作文スキルを披露するところではない。
言ってみれば、俺は母ちゃんの「自動書記」にすぎないのだ。
そう自分に言い聞かせていたものの、今朝、俺は自戒を破ってしまった。
時間がないのに慌てて「母ちゃんの小説」パート、しかも記念すべき第1話をアップしたため、それが客観的にはどう見えるかどうしても気になって電車の中でサイトをチェックしてしまった。
『あちゃ、最初の行、1字下がってねぇ。あ、変なところにカギカッコが付いてやんの。クエスチョンマーク、何でここに1つだけあるんだ? で、ルビはオッケーで、改行は……こんな感じだったっけ。家で見たのとレイアウトが違うような……』
すっかり「母ちゃん」専属の編集者になりきり、聞き取れないくらいの小声でひとしきりブツブツつぶやいてから、俺はふと顔を上げた。
頬を染め、妙に目をうるうるさせた男が窓に映っていた。
「俺」くん、キモすぎですぅ(泣)