37.視える人の視点
今回は前に約束していたとおり、父ちゃんについて書く。
試験やら「母ちゃんの小説」のとんでもない部分の改変やらで疲れきっているから、いつでも書ける身近な話題ってことで。
父ちゃんが数と正確性にこだわりがあることは前に書いた。
父ちゃんの喋り方が結構ストレートフォワードなことも前に書いた。
まだ書いてなかったのは「視える」件について。
だからそれに焦点を当ててみる。
父ちゃんは俺を含め一般人が見えないものが視えるらしい。
「もの」とは幽霊の類いだ。
だが、この先何かおどろおどろしい展開を期待しないほうがいい。
父ちゃんはソレを何とも思ってないからだ。
例えば。
だいぶ前のことだが、家族で旅行に行ったことがあった。
家族の旅行っていったら、まあ、アレだ。
何から何まで、やることなすこと、まあまあ、そこそこレベル。
泊まったホテルもまあまあなレベルだった。
高くもなく安くもなく、サービスも良くも悪くもなく、5段階評価なら「3」と付けられるタイプという意味だ。
そして、旅行が終わって家に帰った。
以上。
そのまま月日が流れ…。
何かの折に「あー、そういや◯◯へ旅行に行ったよね〜」的な会話をしていたら、父ちゃんは、おう、という顔をして、
「ホテルの部屋に何か黒いもんがいたなぁ」
と、サラリと言った。
ちょwwwwww。
そして母ちゃんが
「やだ、どうしてそのとき言ってくれなかったのよ!」
と抗議しても、父ちゃんは平然と、
「そのときって、いつ言えばよかったんだ? 泊まってるときか? それともチェックアウトするときか? でも、言ったとしてもしょうがないんじゃないか? お前たちには見えないんだから」
と答えた。
そうなのだ。
普通「視える」人はその能力を積極的にアピールするか徹底的に隠すかどちらかだと思う。
しかし、父ちゃんの場合はどちらでもない。
視えても気が向いたら言うし、気が向かなかったらいつまでも言わない。
だから父ちゃんが「視える」というのを知っているのは俺と母ちゃん、それから俺から怪談話を聞いた連中ぐらいだ。
俺がまだ小学生のころ、修学旅行で男子と女子と別れて大部屋で寝たとき、特に俺自身の自慢できるようなエピソードがなかったので「父ちゃんが視た話」をしたことがあった。
そのときは子供だし、俺の話はその場で結構盛り上がり、俺のほうも
「じゃ、「俺」も霊感体質を受け継いているかもよ!? スゴイ」
なんて言われて何かちょっとだけイイ気分になったりした。
しかし。
後日、そのときの男子の一人が俺の家に遊びに来た。
そして、休日で家にいた父ちゃんを見かけると、近づいていった。
俺は「あ、ヤバい、止めなきゃ」と思ったが遅かった。
「ね、おじさん、霊が視えるって「俺」くんから聞いたんですけど、僕の後ろに何か視えますか?」
父ちゃんの目がスーッと半眼になった。
「君は私を「霊発見機」か何かだと思ってるのか?」
ソイツは速攻家に帰った。よっぽど父ちゃんが怖かったようだ。
一方、父ちゃんは父ちゃんで憤慨していた。
「全く礼儀知らずなガキだ。よその家に来てそこの主を見て挨拶もなしに馬鹿なこと聞きやがって。おれは何を言えばよかったんだ? 「僕の後ろに何か見えますか?」なんて「私の頭に毛が生えてるのが見えますか?」と同じじゃないか。「見えるよ」って答えればいいのか? でも、そうしたらあのガキはもっといろいろ聞いてくるだろ?」
そう言いながら、ソファのクッションの位置をソイツが来る前と同じように直した。
「自分の頭に毛が生えてるのかも分からん相手に「貴方の髪の色はなんとか、髪質はどうとか、長さはあれそれ」なんてわざわざ教えてやるか? そして、もし親切に教えてやったら、今度はこう聞かれる。「私に合う髪型は」って。おれは拝み屋でもなきゃ美容師でもないんだぞ、知るか、馬鹿野郎」
俺は視えない側の人間なので、父ちゃんの「霊が視える」と「人の頭に毛が生えているのが見える」が全く同等だという感覚にはたまげたが、同時に父ちゃんの言いたいことも何となく分かった。
視える者がその能力をどうするかは本人の勝手であり、視えない者は指図をしたり期待をしたりする立場にはないってことだ。
俺は今でも父ちゃんの目撃談をネタとして友人たちに話している。俺自身は自慢できるようなエピソードが何一つないから。でも、その一件以来、オカルト好きなヤツを父ちゃんに絶対会わさないようにしている。
父ちゃんについてはもっと他にもいろんな話がありますが、試験の後で何だか頭がまとまらないので、またいつか書きます。




