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七話


「おいおい、お前ら、凄い騒ぎになってるぞ」


了承も得ずに同じテーブルに着いたのは、当然の如くロイドさんだ。この街にいる知り合いはロイドさんくらいなのだから、当然なのだ。


それにしても、昨日とは違う店なのにやって来るとは、偶然だろうか。魔力は簡単に察知されないような機構は備えているから、やはり偶然か、魔力以外で感知されているか。まぁ、敵意はなさそうだからどうでもいい。


「騒ぎですか?僕達には関係ないと思いますよ」


「嘘つけ。大太刀振り回す子供連れなんてお前らくらいしかいないだろ」


「あ、そっか。僕が太刀を持ってる時に知り合ったんでしたね。失念してました」


「は?……あぁ、持ち替えたのか」


僕が今は太刀を持っていないことを確認もせずに声を掛けてきたのか。僕が太刀を持っていたのは事実だから、どうこう言う気もないけど。


因みに、今は太刀から弓に替えている。幼女連れとはいえ、大太刀を振り回した男が弓に持ち替えているとは思わないだろう。仮に怪しまれても、太刀はどこにも在りはしない。


「光、あーんして」


ユキがハンバーグを小さく切って向けてきたので、嬉々として受け入れる。うん。旨い旨い。


僕もミートソーススパゲティを小さくフォークに巻いてユキに食べさせる。この餌付けしてる感が堪らない。可愛い。


ロイドさんは相変わらずサラダと果実酒だ。そういうブレないところは好感が持てる。サラダばかりで力が付くのか甚だ疑問だけど。


「それにしても、お前意外と強いんだな。雑魚とは思ってなかったが、あの大太刀を片手で振り回してたんだって?しかも相手はBランク冒険者だったらしいじゃねぇか?」


「は?」


「あーん」


「ん?」


ユキのマイペースはとても微笑ましいことではあるが、ちょっと待て。ちゃんとユキのハンバーグは食べるが、待ってくれ。


「Bランク?」


「正確にはBランクパーティーだな。知らなかったのか?リーダーがAランクで、メンバーも最低でC−のパーティーだぞ?」


あの雑魚が?いやいや、それは流石に何かの間違いだろう。仮にあの場にリーダーがいなかったとしても、最低でC−ということは、あの中にもB、下手すればB+までいたことになりかねない。いやいや、流石にない。


あの程度では最高でもCだ。ということは、ロイドさんの冗談か、偶々この街に子供連れの太刀使いがいたのだろう。


確かに僕はそれなりに強いという自負はあるが、それは精々がそれなり程度だ。Bランクパーティー相手にあそこまで余裕でいられると思うほど自惚れてはいない。自惚れは自分だけでなく周りの身も滅ぼすと、身を以て知っている。


「なんでも、昨日の昼頃、ギルドでそのパーティーのリーダーの右腕がへし折られたらしいんだよな。その仕返しらしいが……身に覚えは?あるだろう。ん?」


「いやいや、確かにありますけどね。それはとんでもない確率で起こった偶然ですね。傍迷惑な話ですよ。まったく」


だって、右腕をへし折られたのがリーダーというなら、そいつはAランクだ。僕が下手人だと言うなら、昨日のオッサンか少年がAランクということになってしまう。ない。いくらなんでもなさすぎる。


「ふん。まぁ、そう言い張るなら、構わないけどな。この街からBランクパーティーが一つ消えたということは理解しておけよ」


「なんですか?僕には関係ないですよ」


「光光っ、あーん」


なんだか脅されたような感じで気分が悪いが、ユキが可愛いので良しとする。この頬を少し赤らめて必死な感じが素敵。可愛い。天使。


「ところでだな、この街のとある噂を知っているか?」


果実酒のおかわりを注文したロイドさんが、何の気なしに話し始める。これは、あれだ。聞いたらフラグが立つパターンのやつだ。


「あ、結構です、そういうの」


「まぁ、聞け。この街の門を出て直ぐの丘、そこにデカイ屋敷があるだろう?」


そこから夜な夜な怪物が街に下りて来て人を襲う、と。見事なまでに聞きたくないパターンの王道展開だな。


「他にも、長槍を持った騎士が毎晩暴れているとかで……」


「あ!やめて、そういうの!」


最悪なフラグが立ってしまった。恨むぞ、ロイドさん。


そう思うも束の間、店の扉が外側から弾け飛んだ。外は暗くて見えないが、扉からは十字槍の先端が突き出ている。もう、確定だ。


「まさか、噂の……」


あんたのせいだぞ、ロイドさん。異世界トリップしている人間の前で面倒事の噂をすれば自然、フラグが建設されるものだ。そういうものだ。勘弁して欲しい。


「や、槍の騎士だぁ!」


誰かが叫び、誰もが我先に、裏口に殺到する。もう収拾がつかない。もちろん僕も、ユキを抱えて人混みに紛れている。こうして気配を消さず紛れる方が目立たないのだ。下手に気配を消す方が目立つ。


ロイドさん?知らん。あの人も百戦錬磨の運び屋だ。自分なりに最善の選択をしていることだろう。僕の関することではない。


「光、あの鎧」


ユキもかっ。勘弁してくれ。そういうのは、特にユキの発言は非常に重いんだ。


しかし、可愛いユキの言葉を無視するわけにもいかない。若干不本意ではあるが、チラッと後ろを確認する。


目に映ったのは身長2メートルはあろうかという甲冑を着た大男。手した槍も3メートルは下らないだろう。


だが、そんなことより、問題は甲冑の意匠。継ぎ目がなく、体を曲げることどころか、着ることすら不可能な鉄の塊。あれは、甲冑ではない。


『鉄の悪魔(アイアンゴーレム)


限りなく騎士に似て作られた、動く鉄塊。本来のゴーレムとしての常識を覆す、学び、武具を扱う、人工の戦士。


嫌な思い出が盛りだくさんだ。


下手に喋れば余計なフラグが成立しかねないので、黙って店から抜け出る。ユキを抱えて全力疾走だ。もちろん、慌てて選択を違えてはならない。こういう時は、なるべく人のいるところに逃げるのだ。夜襲怖い。


「光、放っといていいの?」


「ユキの安全が第一だからね」


アレはユキを抱えて闘えるようなレベルの怪物ではない。そして、夜道を一人でユキに避難させるなんて出来ない。あんな怪物、闘いたくない。目立つし。


正直、めんどくさいのだ。確かに『鉄の悪魔』はかなり強いし、闘いになると余裕は持てない。が、勝てないことはない。むしろ、負けるなんてあり得ない。


その程度だ。その程度なのだから、街にいる冒険者で十分相手になる。A−で互角くらいだろう。ギルドのある街が、人工の戦士程度に負ける道理はない。別に僕が闘う必要はないのだ。


「宿に戻ろうか。あ、ご飯食べ掛けだけど、まだお腹空いてるなら、何か買って行く?」


「うんっ。私、お菓子が食べたいです」


お菓子っ。あぁ、いい響きだ。ユキの口からそんな出るだけでそんなに可愛い単語に聞こえるなんて。ユキの可愛さ容量は底が知れない。


「お菓子か、何がいい?」


「クッキーとかドーナツとかチョコレートとか」


「クッキーにしようか。お腹も膨れるだろうし」


丁度店があったし。


きゃっきゃとはしゃぐユキが可愛すぎてマジ天使。クッキーで、クッキーでこんなに喜びますか。なんとなく複雑な心情だ。こんなに喜ぶユキはそうそう見ない。無論、初めてではないが。


無邪気に喜ぶユキが左腕に巻き付き、まぁいいかと思う。僕の思考を途切れさせてしまうユキの笑顔は危険な気がする。特にその中毒性の高さが。


このままではユキと離れられなく……って、それは今さらだった。僕にはユキを失うなんて出来ない。少なくとも、今は。


いつかユキが成長して、もしも仮に偶然にも運良く、ユキが誰かを見初めたとすれば、別れることも覚悟しているが。とにかく、今はまだ、ユキと別れられない。


それは大半が僕の身勝手で、僅かにユキの運命でもある。ユキが望む望まない関係なく、ユキは僕が守ると勝手に決めたのだから。


とか、なんとか思考してみるが、要はユキ大好きだ。こんなに可愛いユキを容易に手放すような愚か者、この世界にはいないだろう。



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