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十四話


「いっっっ………てえぇぇ!」


バチン!バチン!と電撃が弾け、皮膚が焼ける。半端なく痛い。


我慢出来ずにワイヤーを振り切ってしまう。でも、効かない方法で攻撃してくる奴が悪い。


「なっ、何故魔法が通用しないんだ!?」


あまりの激痛に汗が吹き出てきた。ちょーいてー。たぶん火傷になった。傷口に響く。


「貴様の魔法は物理無効ではないのか!?」


「誰もんなこと言ってないよね」


大きく間違っているわけではないけど。僕の魔法はもう少しえげつなく、使い勝手の悪いものだ。いっそのこと物理無効くらいシンプルな方がよかったかも知れない。


「ふっ。これは嬉しい誤算だ。いい物件を見付けたものだ」


うわー。なんか嫌な予感がビンビンする言い回しだわ。早くユキを連れて逃げ出したい。


ユキと愛の逃避行とか、魅力的すぎて鼻血が出る。鼻血は出ないし、逃避行も何も、身寄りのない旅生活を送ってるけど。


「貴様をなんとしても……」


(略


「そんな……!馬鹿な!?」


女は随分と追い詰められたという絶望的な表情を浮かべているが、実際には僕の方が状況としては非常にまずい。体力が、特に血が足りない。ついでに言うならユキ成分もだが。


え、『(略』の内容?かいつまんで言えば、人影の女の陰謀と、ちょっとした戦闘。僕とユキのイチャイチャトラベルには必要ないから割愛した。


ユキが目前にいるのに、なんで僕が頭の可笑しい女と絡まなければならないんだ。誰得だよって。僕にはユキがいればそれでいいのに。邪魔しないでほしい。


馬に蹴られて死んでくれないだろうか。馬と言えばどっかの菜食主義者を思い出す。あの馬があの女を轢き殺せばそれで解決じゃないか。あの菜食主義者、さっさと解決させてくれないだろうか。


「ん……」


……………聞きましたか?ユキの声だ。ユキの寝言が聞こえた。それだけで僕は百人力に成れる気がする。身体中に力が漲るというかね。


血圧が上がって、出血量が増えるのだよ。意識ははっきりとしているから問題無いけど。


ここから先はユキを目掛けて一直線だ。途中に居る女なんて気にしていられない。僕はユキの側に居ないと死んじゃいそうだから。


(略


「あぁ、ユキ。ユキ〜」


「あ、え、光っ?ここ、どこ?」


「丘の屋敷。もうこんな所に用はないから、街の宿に戻ろう」


「え、え?……うん」


やっぱりというか、当然すぎて言うまでもなくユキは可愛い。抱っこして帰りたい。けど、今するとユキに血が付いてしまうから自重するしかない。悔しい。


小さな傷すらついていないことを確認して、ユキを椅子から下ろす。いつも通りの素振りで手を繋ぎ、歩きだす。頭がくらくらするが、気にしないことにする。


「ねぇ、光」


「ん?」


「傷増えてるよね?」


「気のせいじゃない?」


「服もボロボロだけど」


「……気のせいじゃない?」


「手のひら、血でぬるぬるしてるよ?」


「ごめん」


その血は僕を狙った暗殺者のものだ。汚いから一秒でも早く拭き取らないと。バイ菌だらけだ。


「また包帯巻き直さなきゃね」


「お願いします」


「包帯巻くの上手くなりそう」


「なら、安心して怪我が出来るね」


冗談なのに、ユキに足を蹴られた。少しばかり愛情に欠ける威力だ。問題は痛みよりも、力が抜けて倒れそうになったことだけど。気合いで倒れない。


「二度と無茶できない身体にしてやろうか」


ユキが滅茶苦茶怖い。少なく見積もっても、師匠の寝起きよりかは怖い。


「ねぇ、光」


「何、でしょう?」


「なんで、どこかでゆっくり暮らさないの?光、お金はあるのに」


「…………秘密」


「もういい」


ユキが手を振り払い、走って行く。未だに残っている罠があるかも知れないから、あまり離れないでほしいのだけど、十メートルも進まないうちに立ち止まり、こちらをチラチラと見る。


垣間見える怒り顔が可愛らしいやら恐ろしいやら。ゾクゾクしながら見ていると、気付けば近付いて手を伸ばしていた。


しかしユキは一歩前を歩いて、伸ばした手がまさかの空振りだった。


意外と傷付く。いや、意外ではないか。僕はユキに構ってもらわないと死んじゃう病だから。だから死んじゃいそう。


3歩ほど前を歩くユキがチラッと振り向く。が、直ぐに前を向いて歩く、と思いきや、再びチラッと振り向く。そうして僕を頻りに気にしながら歩く姿は実に可愛らしい。怒ってるみたいだけど。


「ユキ、怒ってるの?」


……………。無視。やはり怒ってる。もし怒っていないなら、嫌われたのだろうか。


僕があまりに不甲斐なく、ユキを拐われたり、怪我をしたりするから、愛想を尽かされたのだろうか。そうなのだろうか。ユキに嫌われたのだろうか。


ユキに、ユキに、ユキにユキにユキに嫌われた、……嫌われた。嫌われた嫌われた嫌われた嫌われた嫌われた?ユキに?ユキに嫌われた、ら。嫌われて、嫌われたから、ユキが。


ユキがいなくなるのだろうか。ユキは僕を、ユキが僕を、嫌って、いなくなるのだろうか。


あり得ないあり得ないあり得ないだろ。僕は、ユキに、ユキが、いないと。だってユキの、ユキはユキで、で。……?


ユキがいないなら、ユキを護れないなら、僕は、いらない、よな?ユキは、僕の、僕が護る物だけど。ユキがいないなら、だって、でも、ユキは僕の―――


「光!」


「なに?」


「早く宿に、帰ろ」


「うん、そうだね」


いい加減、3歩ほど前を歩くユキは、後ろばかり気にして、前方への注意が疎かになっている。もう2歩も踏み出せば、階段なのに。


「あ」


ほら、ちゃんと前を向いて歩かないから、踏み外して……。


飛び出して、ユキを抱えて、転がり落ちる。スゲー痛い。傷に響くし、頭打った。咄嗟だから魔法で防御が出来なかったのは非常に痛い。


床に叩きつけられ、やっと止まる。アイアンゴーレムにやられた傷口が開いたようだ。頭にも傷が増えたようで、頬を血が伝っている。


「ユキ、怪我ない?」


返事がない。ひょっとして、まずいんじゃないだろうか。


体を起こし、ユキの体を調べる。頭は無事。だが、腕に、血がついている。ユキの腕に傷が。


「ユキ!」


大変だ。大変だ!ユキが怪我してしまった!早く手当てしないと、傷口からバイ菌が入ってもっと大変なことになってしまう!


生憎と清潔な布は持っていない。困った。どうしよう。ユキが怪我しているんだから、なんとかしないと。


「光、これ光の血」


「え」


恐る恐る腕の血を拭ってみると、確かに傷ではなかったようで、きめ細やかな白く美しいユキの肌が見えた。ユキは怪我を負っていなかったようだ。


「ユキ、どこか痛いところない?」


「うん、大丈夫。大丈夫、だから……光」


「ん?」


やはりどこか痛いのだろうか。ユキは僕の胸に抱き着いて泣き出してしまった。珍しいくらいの大泣きだ。よっぽど痛いのではないか。我慢なんてしなくていいのに。


「ユキ、……ユキ、どこか痛いなら、ちゃんと……言って……」


一体どうしたというのか、目頭が熱いし嗚咽が洩れる。確かに身体中痛いけど、痛みで泣き出す期間なんてとっくに過ぎたはずなのに。まぁ、痛みで涙が出て来たわけじゃないのは自分でもわかってるけど。ほんと、なんで泣いてんだろ。僕も、ユキも。


「ごめんなさい……ごめんなさい、光……。私、でも……ごめんなさい」


「ユキ……なんで、……」


謝ることなんて、どこかにあっただろうか。前方不注意の件だろうか。そんなこと、なかったことにして流してしまってもいいくらいなのに。


よくわからないが、ユキに抱き着かれて悪い気なんてしない。どころか、とても喜ばしく、天にも昇る気持ちだ。今の状態では洒落にならないが。


なんにせよ、ユキは泣いていても可愛い。血がついてしまうのは憚られるけど、我慢できないから抱き締めることにしよう。うん。ユキ可愛い。




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