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十三話


有刺鉄線やら矢やら何やら、屋敷の庭にはトラップが多い。しかし、そういうトラップは僕の魔法と非常に相性がよく、殆ど無視して突き進む。流石に電気の流れるワイヤーが飛んできた時は焦ったが、他は足止めにもならない程度だった。


屋敷の庭を踏破し、玄関のデカイ扉を押し開ける。ノッカーも一応あるが、態々鳴らしてやるつもりはない。


一歩、屋敷内に足を踏み入れると、正面から約十本の矢が飛んできた。矢は僕に当たり、床に落ちる。単純に相性の問題だが、この程度は避けるまでもない。


更に一歩踏み出すと、今度は横から人間が襲ってきた。手にはナイフが握られているが、ナイフが僕に当たり、止まる。困惑する暗殺者の額に手で矢を突き刺す。死んだだろうか。確証が無いと不安になる。


確実に脳幹を貫く。これで死んだはずだ。これで死んでいないなら、それはどうしようもないと諦めよう。死んでるけど。


矢の無駄遣いはしたくないから回収し、屋敷内の捜索を開始する。もしも隠し部屋とかに居られたら厄介だが、魔力の流れに注意すれば、隠し部屋も見付かるだろう。


捜索を開始すれば、後は作業だった。近くの扉を開き、トラップを受け、中にユキがいないこと、魔力の不自然な流れがないことを確認して次の扉へ。


繰り返していると、気付けば一階は探り終わっていた。この屋敷は地上三階と地下一階の四階建て。更に離れや納屋がある。取り敢えず、上に向かって行こうか。


二階に上がり、順番に確認していく。そして見付けた。ユキではないけど、不自然な魔力の流れ。部屋の本棚を無視して魔力が往き来している。本棚の奥に隠し部屋があるようだ。


本棚をずらそうとするが、動かない。そりゃそうだ。何かの拍子に本棚が倒れて隠し部屋が全開になりましたじゃ意味がない。決まった操作で開くようにしてあるのだろう。


なら、仕方がない。壊そう。


アイアンゴーレムの落とした十字槍を取り出し、本棚を引き裂く。バサバサと本が散らばり、本棚の奥に狭い空間が姿を表す。狭く、ユキはいない。不自然な魔力の流れもない。ハズレだ。


その後、二階を全て回ってもユキは居なかった。次は三階だ。ユキの気配も強くなっている気がするから、三階に居る可能性は高い。


「ユキぃ〜……」


とても不安だ。ユキが今どこで何を思って何をしている又はされているのかわからない状況というのは。あ、涙出てきた。


ユキが恐い思いしていないだろうか。僅かでも苦痛を与えられていないだろうか。こんな時でも、僕のことを考えているだろうかと考えてしまう僕は薄情なのか危機感が無いのか。危機感はかなりあるし、ユキには惜しみ無い愛情を持っているはずだから、他の何かだろう。


二十五段の階段を昇り、何となく右を向く。目に止まったのは手前から三番目の扉。その扉を押し開ける。


無駄に広い空間。そのくせ室内には椅子が一脚置かれているだけの、妙な部屋だ。だが、決して殺風景な部屋ではない。部屋自体には装飾も何もないが、何より輝く唯一が、椅子に座っているのだから。


ユキだ。やっとユキが、椅子に座って眠るユキが、暗闇の中でも輝くように、いつもの寝顔を見せて、ユキが、ユキ。間違いなく本物の、ユキ。


眠る前から考えるとおおよそ6時間ぶりにユキを見た。普段の睡眠時間より短い間しか空いていないが、側にいない時間が6時間というのは非常に長い。


それにしても、三階にいたのか。上から下に探していれば、もっと早く見つかったということだ。何故2時間前の僕は一階から探し始めるなどという愚行を犯したんだ。すごく悔やまれる。


「あぁ、ユキ」


後悔は後回しだ。今は一刻も早くこんな薄汚れた空気の悪い屋敷からユキを連れ出さなければ。肺炎にでもなったら大変だ。


ユキに近づき、あと10歩というところで、何の前触れもなくユキの背後に人影が現れた。暗くて顔は見えない。が、暗闇の中で鈍く光る何かが、ユキの首の辺りに近付いているのが見えた。


「動くな」


人影から声が聞こえた。女の声だろうか僕に言っているのだろうかユキに言っているのだろうか他の誰かだろうか、そんなことより、ユキの首で光るアレは一体何だ?あの人影は一体、何をしている。僕よりもユキの側で。


「動くなと言ったが、聴こえないのか?」


やっぱり、アレって刃物だ。刃物をユキの首に、なんで?ユキを傷付けるなんて、倫理的に論理的に常識的に不可能なのに。


傷付けるのは無理にしても、ユキに刃先を向けるとは何事だろう?ユキに刃を向けるなんてまるで、ユキを傷付けようとしているようではないか。


「動くなと言っている!この子供の命は私が握っているんだぞ!」


命を握っている?俺だってユキの命を手にしたことはないのに、あの人影はユキの命を握っているらしい。あり得ない。ユキの全てはユキか僕のものなのだから。


「「止まれ!」」


なにやら声が重なり、背後から首にナイフを当てられた。もちろん、止まる要因にはなり得ないけど。


本当に止めたいなら、抵抗を防ぐために腕を押さえるなり、足を縛るなり、筋を切断するなり、もっと強引にくるべきだ。本当にやられたら困るから、やっぱりやらなくていい。


「くそっ」


「あんたさぁ、なんでユキを拐ったわけ?」


「貴様を誘き出すためだ!」


なら僕を直接拐えばよかったのに。あ、でも、そうなるとユキが宿に取り残されることになったのか。どっちもどっちだな。結論、人を拐うな。


世界の真理に一歩近付いたと少し満足していると、背後の床が軋んだ。気配は増えていないから、さっきの暗殺者が起きたのか。腕を折るだけでは甘いと、僕も思っていたんだ。一秒でも早くユキに近付こうとして手を抜いたのは失敗だった。


息の根を止めてしまおうと振り向いて、違和感。男は、さっきの男だが、なんと言うか、生気がない。


生気がないと思っていたのに、今度は無駄にたぎったように吼えて、倍くらいに膨らんだ。なんて気持ち悪い男だ。そしてこの謎現象。魔法か。


「腕も治ったのか……」


魔法って大概そんなものだけど、範囲内でなら問答無用なところがウザい。僕も頼っているのだから、あまり文句も言ってられないけど。


「ぬおおお!」


たぎり男が吼え、サイズが全くあっていないナイフを片手に襲いかかってきた。面倒なので、戦闘描写は割愛する。「くっ、なかなかの強敵だった」と言えば、頑張った感は伝わるだろう。


さぁユキだ。やっとユキだ。もうユキだ。必死こいてここまで来たのだから、さっさとユキの身柄を渡せ。ユキは僕の物だ。


「最後通告よ。止まりなさい」


人影が手に持つナイフを動かし、ユキの首に押し付ける。本気なようで、頸動脈を狙っている。流石にゾクッとして、止まってしまう。


「武器を全て捨てて」


一つ言うこと聞いてしまうと後はズルズルと命令に従うはめになるから、人質って本当にセコい。ユキを人質にされて、僕が敵うわけないじゃないか。


矢も槍も、拾ったナイフやワイヤーまで全てを捨てる。


「貴様の魔法は確か『物理無効』だったか?なら、取る手段は選ばなければな」


人影が指を鳴らす。背後から新たな気配が迫ってきたが、ユキを人質に捕られているから回避も出来ないんです。


バチバチと音が聞こえるから、電気系の何かだろう。屋敷内のトラップから考えると、電気の流れるワイヤーか。何にしろ、避けられない。


予想通り電気の流れるワイヤーが僕の体に触れ、電流で僕の体が跳ねた。




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