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十二話


服は既に服の体を為さないくらいにズタズタになっていた。それに血塗れ泥まみれで、雑巾以下の布切れに成り下がっている。態々繕ってまで着るのは面倒だし、そもそも裁縫は出来ないので捨てることにする。どうせ愛着も何もない安物だ。


ただ、服の替えは少ないので、また買い足さなければならない。せっかくだから、ボロいやつは全て買い替えようか。ユキにも可愛い服を買わないと。


「でも、今日は休ませて……」


「もしどこかに行くって言っても行かせないから」


ユキに包帯を縛られたり、毛布を掛けられたり、僕はなんて幸せ者なんだろうか。後から幸せの反動で不幸が起きたりしないよな?あ、不幸があったから、その反動で今幸せなのか。なら、この幸せを目一杯享受しよう。


ベッドの縁に腰掛けるユキも満更でもなさそうだ。むしろ僕に毛布を掛ける時の表情は非常に楽しそうに見えた。精々甘えてやろうじゃないか。


「ユキー」


「ん?」


おっと、よく考えるとユキに何と甘えればいいのだろうか。ユキを一人でこの部屋から出させるわけにはいかないから自然と室内で完結する内容に限るのだが、部屋には何もない。ふむ。


「一緒に寝て?」


ピシッと瞬間凍結するユキ。凍結しているのに頬は柔らかなままなので詰まんで微笑んでいると、ユキがじわじわと解凍し始めた。原因は全身を駆け巡る血液だろう。顔が真っ赤だ。


「しょ、しょしょ一緒に!?」


「いや?」


「べ、別にいやじゃないし」


何を赤くなる必要があるというのか。毎晩のように床を共にしているというのに。今さら照れる理由もいまいちピンとこない。可愛い反応が見れてよかったけど。


キョドるユキはジリジリと詰め寄るようにベッドに這い上がる。可愛いから抱き締めてしまいたいが、我慢してユキの動きを観察してみる。


今までにないほどガン見すると、ユキも僕の様子に気付いたようだ。その瞬間、慌てて毛布に潜り込んでしまった。僕に掛かっている毛布だから、ユキが腹に抱き付いてきた感じ。積極的なスキンシップですこと。


「……ユキ、そこ傷口だから痛いよー」


「ご、ごめん」


毛布から這い出て僕の横まで上がってくる。その表情は反省して少し落ち込んでいるようだ。別に気にすることないのに。だからと言って人に苦痛を与えて平気でいられる子に成長して欲しくはない。


ユキの頭を撫でると、頭を押し付けてきた。嬉しい反省ではあるけど、そこにも小さいが傷がある。ユキが離れないように我慢しますけどね。我慢するほど痛くもないけど。


「疲れたから僕は少し寝るから。晩御飯までには起きるけど、ユキも眠たかったら寝ていいよ」


「…………うん」


「あ、部屋から出ないように」


「うん」


一年間通してきたルール。ユキに一々確認する必要もないだろうけど、今回は騎士に捜されているかも知れないし、何より僕が万全じゃない。万一の時、ユキを率先して護り切れない可能性があるのだから、念には念を入れておきたい。


「あ、この前渡した石、ちゃんと持ってる?」


「ん。使い方も覚えてる」


ならよし。本当はそんな物使わないのが一番だけど、使わないことと携帯しておくことは別問題だ。


「おやすみ、ユキ」


血が足りないからだろう。目を瞑ればあっという間に意識が遠くなり、ユキの返答は遥か遠くから聞こえてくるようだった。




・・・・・・・・・



目を覚ますと空は真っ暗で、当然部屋の中も真っ暗だった。それでも、真っ暗でも、わかることってのはあるもので、僕は寝起き一番に溜め息を吐くことになった。


とりあえず、部屋の灯りを点ける。窓際にある蝋燭のような物体から飛び出ている紐に火打ち石で明かりを灯す。


薄暗く照らされた部屋を見渡す。ベッドの下の隙間まで念入りに。それでも、結論は変わらない。


ユキがいない。ユキが一人で部屋から出て行くなんて到底思えないから、何らかの外的要因があったと考えられる。所謂、誘拐。


「か……はは、は」


乾いた笑いがこみ上げ、口から出力される段階で失敗。喉が渇くし、瞳孔が開く。冷や汗が浮かび、息苦しい。


扉に目を向けると、知らない足跡があった。明らかに不自然な、態々付けましたと言わんばかりの汚い泥の跡。


こんなあからさまなことをこの部屋で行って、僕が気付かなかった。つまり、それだけの実力を持った奴が、僕に喧嘩を売って……いや、違うな。ユキを拐ったということは、自殺志願だろう。僕に殺してもらいたくて仕方がないようだ。殺そう。


ユキに持たせた、知り合いに作ってもらった特別な石。所謂防犯ブザーというかGPSなわけだが、反応はない。恐らく、見つかって取り上げられたのだろう。まぁ、想定内だ。問題ない。


「ユキ……ユキ……」


酷いことをされてないだろうか。傷の一つでも付けられていれば、僕は……。


「あっちか……」


例え全部壊れたって、僕はユキを護る。そう決めて、そこには後悔はないのだから、やり遂げる。その為に今までだって数多くのモノを壊して、指名手配とかされそうなわけだから、今度こそ本当にお尋ね者になるかも知れない。


ユキを護ろうとして新たに敵を増やしたりして、何やら本末転倒な気がするが、そこに後悔はない。だから今回も、遠慮なく壊そう。今回も(・)というのがなんとも不甲斐ないけど。


何でも壊す気でいるが、余計な破壊は自分の行動の妨げになりかねない。扉は普通に開けて部屋から出る。灯りを消し忘れていたが、それくらい気にしないことにする。締まらないな、とは自分でも思うけど。


宿から出て、ユキのいる方向を探る。恐らく、そんなに遠くはない。けど、灯台もと暗しになるほど近くでもない。だが、方角的に、街の外だろうか。


「あぁ、なるほど」


確かあっちの方角には丘があって、その上には屋敷があるんだったか。最近そんな話を聞いた気がする。


何にしろ、その屋敷が目的地とみて間違いないだろう。確証はないが、何故か確信できる。まぁ、あの方角は屋敷以外は平野だから、ある意味確証かも知れない。


「あぁ、ユキ……」


あの屋敷からユキの気配がする。あの屋敷にいるのだから、あの屋敷が僕の敵だ。そこにいるユキ以外の全てが僕とユキの敵で、悪だ。殲滅しなければならない。主人も使用人も客人も一般人も何もかも。ユキを連れ去るなんて、赦されざる行為だと、教えてやらないと。


僕に喧嘩を売り、ユキに手を出した。正に、万死に値するのだから。




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