十一話
一発逆転まで狙うつもりはないが、やっぱりこのまま負けるというのは厭だ。このままじゃなくても、負けたくない。っていうか、負けイコール死であり、ユキが孤児になるのだ。誰が負けてやるものか。
「不本意だけど………仕方がないな」
人前で魔法なんて見せびらかすものではないのだけど。そんなことを気にして負けるようでは目もあてられない。敵は六体。油断して勝てる戦力ではない。
「どうせ使うなら、初めから使えばよかった気がする……………」
気にしたらまけだ。
アイアンゴーレムは突っ立ったまま襲ってくる気はなさそうなので、早速空気中の魔力をかき集める。
それに反応してアイアンゴーレム達が槍を構えて一斉に掛かってくるが、もう遅い。弓を投げ捨て、矢筒の矢を全て落とし、矢筒の中から太刀を取り出す。僕の愛刀輝雪だ。半年前に名前に惹かれて購入した。後で聞いた話だが、名工の作らしい。名前に『雪』の字を付けるなんて、良い趣味している。
鞘に換わった矢筒を背負い、輝雪を握りしめる。別に雪のように刀身が白いなどという特徴もない、ただただ反りや切れ味、強度のバランスがいい太刀だ。流石はユキとしか言いようがない。
正面から襲ってきたアイアンゴーレムの突きを避け、逆袈裟斬り。ギャリ!と火花を散らしてアイアンゴーレムを押し返すが、それだけだ。本来起こるべき切断がない。一応、胴体の半分くらいは切れているが、真っ二つにならない。
これは、あれだ。輝雪の切れ味が…………悪い。
「砥石いぃ!!」
こんな街中で砥石が切れていることを後悔することになるとは思わなかった。あの石屋だ。あの店員がさっさと砥石を売らないからこんな目に!
イラッとしたので、横薙ぎ一閃。アイアンゴーレムの首がドゴンと地面にめり込む。細い首ならなんとか切れるみたいだ。
ここで残り五体のアイアンゴーレムが突きを繰り出してきた。一体はいい加減頭狙いだが、他は普通に胴体や足を狙ってくる。槍の隙間に体を捩じ込むが、十字槍の微妙に広い攻撃範囲のせいで脇腹が浅くだが切れた。
一々怯んでいられないから、近くのアイアンゴーレムの首を狙う。しかし、槍の柄で弾かれ胴体で火花を散らすに留まった。アイアンゴーレムはバランスを崩しているから追撃しようとするが、他の四体の槍が各方向から迫る。
まずい。前方に正しく鉄の壁、背面の上下左右からの同時攻撃。見事に逃げ場がない。
右側からの突きが僅かに速い。槍を弾き、右は体を捩じ込む。後ろから追撃がきたが、転がって逃げる。
「何こいつら……強……」
連携をとるアイアンゴーレムなんて初めて見た。これは製作者が大したことないという評価を改める必要がありそうだ。
確実に頭を狙ってくる奴は単体では雑魚に違いないが、集団戦になると厄介だ。常に頭を守り続けなければならないから、一体ずつへの注意が散漫になる。
集団で動くことを前提にしたアイアンゴーレム団。そんな反則気味な話は聞いたことないが、現実を見ないと死ぬ。逃げたい。
「…………えぇ〜?」
頭を落として動きを止めたアイアンゴーレム、そのゴーレムが持っていた槍を他のアイアンゴーレムが装備した。しかも、あれは僕の頭を狙っていた奴だ。エグい。
どうしたものか。連携して隙のないアイアンゴーレムに、どうすれば切り込めるのか。
せめて輝雪の切れ味が悪くなっていなければ、一撃離脱で切り崩せるが、今の切れ味では無理がある。無理があるが、不可能ではない。
「もってくれよっ」
途中で輝雪が折れれば、それこそ終わりだ。それでも、やるしかない。
「あぁ〜…………疲れた」
アイアンゴーレム撃破成功。
ギリギリだった。輝雪はギリギリ折れていないが、刃は砕け、辛うじて芯が保たれている状態だ。これは流石に修復不可能だろう。
色々とやっちまった感がある。立っているのも疲れた。アイアンゴーレムが確実に停止しているのを確認して、大の字で仰向けに転ぶ。
「情けないなぁ」
ボロボロだ。耳は裂けているし、肩の傷は深いし、服はぼろ切れ状態。
こんな姿はユキに見せられないと思うけれど、騒ぎは収まってしまったからそうもいかない。
通り沿いの店から一般人が出てくるのが視界の端に見える。疎らに拍手が聞こえ、次第に歓声まで聞こえてきた。
「光っ!!」
ほら来た。今は疲れているからこのまま眠ってしまいたいくらいだが、可愛いユキの前でくらい元気百倍でいないと。ユキは闘いの後は心配性だからな。
ユキが駆け寄ってくる音が聞こえる。なら、地面に這いつくばっているわけにはいかない。体に鞭打って、出来るだけ余裕を見せて立ち上がる。
少々ふらつくが、輝雪を地面に突いて支えにする。もちろん、支えにしていると極力バレないように気を付けて。
「光っ」
ユキが腹に激突し、傷に響く。が、声はもちろん表情にも出さない。鑪を踏むのも厳禁だ。普段の僕はユキくらい余裕で抱き止められるのだから。
「光、怪我してる」
ユキに心配そうな顔を向けられて言葉に詰まりかける。僕は怪我なんて気にしませんけど。
「うーん。ユキが介抱してくれなきゃ死ぬかも知れない」
ユキを抱き締めて笑いかける。下手に強がるより、こういう軽口を叩いた方がシリアスさがなくなって有効だと、経験則で知っている。あながち嘘でもないけど。
予想通り、ユキは一瞬呆けた顔をして次の瞬間には心配する表情すら消えて笑っていた。ユキには、こういう表情しか似合わないな。
「じゃ、じゃあ近くの宿で休まないとね」
僕を介抱するのがそんなに楽しみなのか、ユキは僕の手を引いて歩き出そうとする。しかし、まだやることがあるからユキを制止する。僕だってユキにあれこれ手を焼かれるのは楽しみではあるんだけどね。
死んだ輝雪を鞘に戻し、投げ捨てた弓矢を回収する。ついでにアイアンゴーレムの十字槍も二本回収する。
「さて、ユキにお世話してもらおうかな」
「う、うん」
本当は血が足りないから今すぐ肩の傷を止血したいのだけど、本当に貧血で倒れればユキは真剣に介抱してくれるだろう。ユキに心配させたくないという気持ちとユキに介抱されたいという本当の板挟みにあって、頭の中がごちゃごちゃになる。血が足りないのも原因ではあるだろうけど。
未だガヤガヤ騒がしい野次馬の間が抜け、裏通りに入る。きっと大通りにいたら騎士とか来て厄介なことになる。どの街でも騎士は頭が可笑しく「街で武器を振るとは、犯罪だ!」とか言うに決まっているのだ。そんなこと言うなら自分達でさっさとアイアンゴーレムを倒しておけと誰でも思うのだが、アレらは頭が可笑しいのだ。もう一度言うが頭が可笑しいのだ。関わらないのが当然だ。
ユキの引率の元、宿を探していると、ユキが何やらそわそわしていることに気付く。早くも問題発生だろうか。
「ユキ、どうかした?」
「ん……。光の傷の手当てしないといけないから、包帯とか買った方がいいのかなって……」
「そりゃぁ、あった方がいいだろうけど」
「そうだよね。でも、今から買って行くか、先に宿に着いてから私だけで買いに来るか、どうしようか?」
そんなの、買ってから行くに決まっている。可愛いユキに一人で買い物なんてさせて悪い大人にちょっかい出されないわけがないのだから。ユキを一人にするわけにはいかない。
「でも、光は早く休んだ方がいいかなって」
「ユキを一人にしたら不安で休めないからね」
ということで、近くの店で治療具、ついでに血液増量剤を買って行く。店員は血塗れの僕を見て顔を引き吊らせていたが、普通に売ってくれた。どっかの石屋とは大違いだ。弓矢と槍を持っていたのも理由の一つかも知れない。
宿を見付けるのは時間がかかったが、いい感じに寂れていて僕の格好も目立たなくて都合がいい。寂れているが、部屋は結構きれいで、バイ菌に怯える必要はなさそうだ。当然、消毒は怠らないが。
服を脱ぎ、ユキに傷を見せる。「ひっ……」と息を呑んで今にも泣きそうな顔になってしまった。流石に傷口はグロ要素が濃すぎただろうか。濃すぎだろうな。
それでも、拙いながらに消毒やら止血をやってくれたユキに感動し、消毒の痛みとは違う理由で涙が溢れそうだった。




