十話
騎士が手を伸ばした瞬間、幼女が爆発した。爆発したんだ。
何言ってんだって?僕だって自分の目を疑っているところだ。ただ、体は咄嗟にユキを庇うように動いたから、本当に爆発は起きたのだろう。僕は五感以上にユキの為に動く反応を信じる。これまで疑うと高速で防御出来ないからな。
それはまぁ、いいとして、爆発したんだ。少し離れたとはいえ、まだまだ近距離で。当然、熱気が凄い。幸い、熱気で肌が焼けるってほどではないが、十分に熱いのでユキの肌を極力隠し、息を止めさせる。
それにしても熱い。露出していた首や耳なんかがヒリヒリする。酷い日焼けのようになっているのだろう。ユキの白雪のような肌には熱気は通していないので、その点は安心だ。
ユキを覆ったまま、目で周りの様子を見てみると、道を塞いでいた騎士の大半が尻餅を突いていた。特に進行方向側の騎士は総崩れだ。一人も怪我はないようだが。
「………なんだったんだ?」
見回しても謎幼女はいないし、手を伸ばして爆発に巻き込まれた騎士も意識を失っているが火傷は負っていない。一体、何が起きたのか。
と、ユキがバシバシと僕の肩を叩いて暴れ出した。むー!と言っていて実に可愛らしいが、恐らく息を止めたままで苦しいのだろう。もう少し見ていたいが、流石に死活問題なので自重して解放する。
息を整えたユキは辺りを見回して首を傾げている。大の大人が揃いも揃ってひっくり返っている光景を目にすれば、その反応も当然だろう。
「光、何があったの?っていうか、あの子は?」
「さぁ……?よくわからないけど、面倒事になる前に逃げようか」
ということで、極力存在感を薄めて騎士の間を縫って通り過ぎる。目的は石屋だ。
しかし、あまり堂々としていると再び騎士に追われそうだ。疚しいことなんて大してないが、騎士の相手なんて面倒に決まっているので見つかりたくない。少し大通りから逸れる。
大通りから抜けると活気は少々減るが、気にすることもない。こんな所からも目に付く城を目印に建物の間を歩く。
たまに小汚いオッサンが寄って来たりするが、ハイキックで黙らせる。装備しているのが弓なので、狭い路地では使いようがないのだ。剣を装備していても、殺傷力の問題で使わなかっただろうけど。
そろそろ大通りに出れば石屋だろうという時、悲鳴が響いた。「きゃーー」という、甲高い悲鳴だ。聞こえてきたのは大通りの方からで、まるで僕達が大通りに出るのを見計らったかのような見事なタイミングだ。
謎幼女のことといい、僕が何したんだとため息が出る。
「槍の騎士だー」
誰かの叫び声が聞こえてくる。槍の騎士らしいが、さっきいた50人の騎士達は一体何をやってんだ。職務怠慢じゃないかね?
さて、どうしよう。このまま大通りに出るのは馬鹿らしいので当然却下だが、問題は槍の騎士ことアイアンゴーレム、その存在そのものだ。大通りに出たくないからと安易に裏道を通って後ろから襲われるなんて事態に陥るのは、普通に大通りに出るより危険だ。特にユキが。いっそのことアイアンゴーレムを破壊してしまった方が後々安全だ。だが、それでもユキに危険は及ぶ可能性がある。
なんにしろ、闘いになるなら大通りがいいか……?ユキを一般人に保護させることが出来るし。
そんな僕の思考も虚しく、アイアンゴーレムの持つ十字槍が飛んで来た。僕の顔に一直線。
弾くべく肩に手を伸ばして、弓に装備を替えていたことを思い出す。舌打ちをするが、その間にも槍は僕の顔に飛んでくる。
こういうことは怖いからあまりやりたくないのだが、仕方がない。
槍の先端を噛み、止める。
「ぐ………!」
重い。こんな重量の武器を歯で止める修行はしたことがない。槍全体が鉄でもこんなに重くならないから、鉄より重い物質が混じっているのだろう。
歯が削れて槍が止まらない。結局首を振って槍を落とした。歯茎が痛い。口の端も切れた。大したことではないが。
「こ、光……」
「あそこの店、わかるね。あの中で匿ってもらって」
「うん」
十字槍を拾い、ユキを店まで護衛する。どうやら小物屋なようだ。店員の他にも何人か隠れているようだから問題ない。
「にしても、何この槍?重すぎ」
他のアイアンゴーレムも流石にこんなに重い武器は持っていなかった。この街中に出現した時点でなんとなく予想していたが、やはり普通のアイアンゴーレムではないらしい。めんどくさい。
「槍は得意じゃないんだけどなぁ」
しかもこの重量。槍に振り回されるのは目に見えている。だからといって、アイアンゴーレム相手に弓で挑むなど愚の骨頂だが。
ドゴッドゴッと、一歩一歩がバカみたいに重量を感じさせる音を響かせ、普通の騎士より軽やかな動きでアイアンゴーレムが歩み寄って来る。さながら、このアイアンゴーレムは騎士団長と言ったところか。めんどくさい。本当にめんどくさい。だが。
「ユキの為に頑張るか」
ユキを護るのは僕だ。その僕が、理不尽な暴力を持つ外敵に負けるようでは、保護者失格だ。保護者の意味、世界が違えば使命も変わってくるものだ。
とりあえず二連突き。頭、胴体の順だが、頭はかわされ、胴体は槍を掴まれた。やはり重さで突きが遅いな。
力で引き抜き、今度は横薙ぎ。この重量で十字の刃なのだから、殆ど大鎌みたいなものだ。が、柄を掴んで止められる。鎌というには刃が短いか。
「っと」
取られた。洒落にならん。あのアイアンゴーレムが振るう槍は、僕の魔法でも止められない。
ギリギリではないが、危機だ。弓ではアイアンゴーレムに届かないだろうし、何より街中だ。弓を射るなんて危険で出来ない。
「柊 光、ピーンチ!」
この場で起死回生の一手は……
とか考える間に、突きがきた。三連だが、速すぎて殆ど同時だ。まあ、全て頭狙いだから避けるのは難しくないが。
隙を見つけ、つい反射的に懐に入ってしまったが、攻撃手段がない。殴ったところで手が壊れるだけだ。
「ああ、もう!」
矢筒から一本引き抜き、手で喉に突き刺す。表面を削って折れた。役に立たん。
アイアンゴーレムが拳を打ち出してきたので、槍の間合いの外まで飛び退く。振り出しに戻った。現時点では八方塞がりだ。
「っていうか、なんで僕が襲われてるわけ?」
とは言うものの、アイアンゴーレムに限らず、ゴーレムの行動原理は実に単純。製作者が製作段階で埋め込んだ命令に従うだけだ。例外もあるにはあるが、方法は魔法に限られるから今は考えない。製作者が僕を狙っている。理由は不明。それで十分だ。
突きをかわす。やはり頭狙いだ。予測される命令文は『柊光の頭を破壊しろ』と言ったところか。単純に一撃死狙いの可能性も否定できないが、心臓には見向きもしないからほぼ確定だろう。
「製作者は大したことない、か」
ゴーレム作製に限らず、魔法とは制限との戦いだ。どれだけ制限が粗いか、それが魔法の強弱になる。
例えば、『柊光の』『頭』という条件に制限させる程度の強さしかない製作者ということだ。強い製作者になると『柊光を』『殺せ』こんな大雑把な命令文を埋め込むことすら可能なのだ。更に強ければ『多くの人間を』『殺せ』とか。ここまで雑に出来たら、それは最高峰の魔法使いだが。
アイアンゴーレム自体は強いのだが、これは魔力の込めようだろう。命令文は実に単調。僕の頭しか狙えないゴーレムだ。
そうと判れば、避けるのは難しくない。余裕で避けられる。こちらからの攻撃手段はないのだが。
大したことは出来ないアイアンゴーレムだが、身体能力自体は本物。しかも疲労を知らない鉄塊仕様。長期戦になれば、怪我とかするかも知れない。
この場で防戦は危険だ。
「一時撤退で……も……」
ズッシズッシと重い足音が背後から。そうだ。失念していた。目の前のアイアンゴーレムは僕を狙っている。それは間違いないのだが、よくよく考えてみれば、僕がこの街に訪れる前から槍の騎士は暴れていた。僕を狙っているはずのゴーレムが、何故?簡単なことだ。アイアンゴーレムは、一体ではない。しかも、僕狙いとは限らない。
「こーくんピーンチ!」
振り向けば、十字槍を持ったアイアンゴーレムが三体。前方のゴーレムの背後から更に二体。合計六体のアイアンゴーレムが、僕の頭に狙いを定めている。
「…………ちょ、詰んでね?」
起死回生の一手とか、天から落ちてこないものかね?




