第八話 DAY3【陽沙子side】
…ない。ないわー。
マジでない。
窓から射し込む日差しの明るさで目を覚ます。幸い今日は日曜日で学校は休みだ。
今の状況で学校で行くのは、絶対に無理だ。
「ぐぅー…」
呻きながら、布団の中でモゾモゾしてみる。
一晩寝たけど、昨日のことが忘れられない。なんであんなこと言ってしまったんだろう…。
あの後屋上から逃げて、そのまま午後の授業受けて、ダッシュで家に帰って、シャワー浴びて…寝たのか。
私という人間は、寝ても嫌なこと忘れられないのね。新発見新発見。
「じゃねぇだろーがっ‼」
起き上がって、枕を思いっきり床に投げつけた。
…消えてしまいたい。
全力で自分が気持ち悪い。
あんなの、ただの嫉妬だ。八つ当たりだ。幻滅されただろうな。
もう好きじゃないから別にいいんだけど。
いや。
いい加減気づかないふりをするのはやめようか。
薄々気づいてたけど、私はきっと今でも勇人のことが好きだ。
だから激しく後悔してる。
本当、なんで言ってしまったんだろう。
自分が死ぬか、美紗子が死ぬかっていう極限の状況で不安定になっていたからなのだろうか。
考えても仕方ない気がする。
長年抱えてきた、一生言うつもりのなかったことを私が言ってしまったのは事実だ。
まぁ私と勇人は科が違うから、学校でも関わることは少ないんだけど。それは不幸中の幸いとでも言っておこうか。
それはさておき、そろそろ真剣に考えないといけないと思う。
私の答えを出さなきゃいけないと思う。
私は美紗子を庇うのか、見過ごすのか。
当初は、庇ってやるもんか、みたいな気持ちが強かった。だけど、日が経つことで少しづつ私の心が揺らぎ始めているのは確かだ。
無理もないかな。一応双子なんだし。
ここに来て、私にある決意が生まれつつあった。
一度、ゆっくり話をしたい。
何年も家族と、美紗子とちゃんと話してないもんな。たわいもない話をしたい。
その上で、きちんと決めたい。
私がこんな風に思いだしたのは、弱っているからなのだろうか。
私は一度短いため息をついてから、立ち上がった。
階段を降りて、リビングに入ると、テレビを見ながら話しているお母さんとお父さんがいた。
私がリビングに入ったことに気づいていないようなので、こちらから声をかけてみる。
「おはよう。何見てんの?」
うーん、なんか恥ずかしい。
おはようの挨拶くらいは一応、毎日応えてるんだけど。
お母さんとお父さんは、ピッタリ同時のタイミングでこっちを振り向く。
ほんのちょっと驚いたような表情を見せてから、すぐにいつも通り
「おはよう!」
と返してくれた。
それが、二人の息がどこまでも合っていてなんとなく可笑しかった。
「あれ…?ってか、美紗子は?」
美紗子がいないことに気づき、そう聞いてみる。
演劇部の練習は、今日はなかったはずだ。
「美紗子は部活の練習に行ったわよ。」
「ふーん。」
私の勘違いかな。
なんだ。美紗子とも話したかったのに。
まぁ、それはいつでもいっか。
気を取り直してふっと横を見ると、壁に貼られた演劇部練習表が目に入った。
……?
今日は、休み?
他の用事があって家を離れるにしろ、あの美紗子が理由を偽った?
なんとなく不審感を覚えた。
まぁ、いいか。お母さんもお父さんも気づいてないみたいだし、言わないでおこう。
私は、また後日美紗子と話をすることを決めてその日を過ごした。