第六話 DAY2【陽沙子side】
キーンコーンカーンコーン
昼休みの始まりを告げるチャイムが鳴った。
教室が一気に騒がしくなる。
今日も、一週間後のことを考えて授業なんか集中できなかった。ううん、あと6日か。
私以外の誰もが、何の心配もせずに生活してる。美紗子が死んだ時体育館に居た生徒だって、呑気に昼食を食べる準備をしている。
溜め息をついた後、何気なく窓を見ると、反射して美紗子が映った。
まさか自分が一週間後に死んでしまうなんて思ってもいない美紗子は、グループの女子から昼食を誘われている。
美紗子が生きるか死ぬかは、私が決めれるんだよ。なんてね。
…さて。私もご飯を食べよう。
いつも通り、独りで。
いつも、独りで購買のパンを食べている屋上に向かおうと廊下に出ると、壁に貼られたポスターが目に入った。
『演劇部、文化祭特別公演!』
視界にその文字が入ると、膝がカクンと折れてしまった。手が震える。
しまった。見てしまった。私のトラウマはまだ消えていないのに。
演劇以外のことはもう諦めがついたけど、やっぱり…演劇だけはまだ、気分が悪くなったりしてしまう。
苦しい。呼吸が乱れ始めているのがわかる。
早くここからさらなければ。そう思いつつも、ついポスターの下まで目を追ってしまう。
『主演:新井 美紗子』
ああ、見てしまった。
見なくとも、主演が美紗子だと知っていたんだけど。
一年生にして演劇部の部長という立場の美紗子以上に主役が務まる人なんて、この学校にいるとは思えない。
互角といえば、私がいるかもしれないけど…。ううん、やっぱり美紗子には敵わない。
美紗子には、それだけの実力がある。
だからこそ、すごいと思うし、だからこそ、妬ましい。だからこそ、素直に讃えられない自分が気持ち悪い。
とか、しばらくポスターの前でそんなことを考えて、私はまた屋上へと歩き始めた。
黙々と長い廊下を渡り、屋上に続く階段を上る。
重い鉄製のドアを開けると、風が私の髪をなびかせた。
「広……。」
改めてそう呟いてみたり。
私はこの場所が大好きである。
一面に広がる景色を目の当たりにして、自分がいかにちっぽけな存在かがわかるからだ。
ちっぽけで、醜くて。
こんな広い町で、私がここにいることって本当に些細で、どうでもいいことなんだろうな。
「私がいなくなっても、誰も気づかないんじゃない?」
気づけば、そんな卑屈な独り言をポツリ。言っていた。
いやいや、ダメでしょ。
今の状況でそれ言っちゃ、洒落にならないよ。文化祭の日に死んじゃうかもなんだから。
でも、事実のような気がした。
何でもできる美紗子が死ぬのと、何もかも美紗子に劣っていて、歪んでる私が死ぬのと、どちらが意味あることだろう。
仮に私が死を選んだとして。
やっぱりそれもダメな気がした。今更、偽善者ぶりたくないし。
そんなことを考えていると。
ガチャ。
人かな。いつも私だけなのに、今日は運が悪い。
ゆっくりと振り向くと、そこには勇人が立っていた。
どうやら今日はツいていないらしかった。
勇人の漢字を誤っていたので、訂正しました‼
勇斗→勇人
です。
次から誤字に気をつけたいと思います(>_<)