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第五話 DAY1【陽沙子side】


見慣れた帰り道を、夕陽を背にして歩く。景色はこんなにも普段と変わりないのに、今、私が存在しているこの世界は現実なのかさえ疑わしい。



美紗子はきっと、一週間後の文化祭に体育館で落下してきた照明機の下敷きになり死ぬ。


いや、もう『きっと』なんて言ってられないか。絶対だ。これは、死神が決めた運命。


私は、基本的にオカルトなんかの類は信じないけど、今回は別。


保健室で美紗子と別れた後、自分なりに色々試してみた。


美紗子が一週間後に死んでしまうという事実をなんとか伝えようと、紙に書こうともしたし、一人の部屋で喋り、音声録音しようともした。

結果は惨敗。

どうでもいいことは書けたのに、美紗子が死ぬ予言や、死神とのやり取りを書こうとすると、突然手が震え出し、字なんかとてもじゃないけど書けなかった。

誰もいない所で一人で話すことはできた。でも、それを録音しようとすると携帯の電源が急に切れた。


私は、あの死神に見張られているのかもしれない。


死神の言葉を思い出す。


『その運命から逃げることは不可能だ。何より、今彼女が一度死んだことを記憶したまま一週間を過ごすのはお前だけだしな。

他の者の今見た記憶は全て消させてもらう。』


私以外の誰もが美紗子の死を覚えていない。それは、私が夢を見ていたからとかじゃなくて、死神が記憶を消したんだろう。


あの時はめちゃくちゃ動揺したけど、いや、動揺するのが普通か。今は何故か冷静で居られる。


一週間。この期間で、私は結論を出さなければならない。

自分が死ぬか、美紗子が死ぬか…。


ううん、やっぱりまだ諦めない。

何か、何か手段があるはず…二人とも助かる手段が。


だけどもし、このまま一週間が過ぎてしまったら。私は美紗子を見捨てたことになるのかな?

…私は美紗子みたいに偉くないわ。

死ぬのは怖いよ。

だけど、保健室で流れてきた涙はなんだったんだろう。


そんなことを考えていたら、もう目の前には自宅があった。


「ただいま…」


玄関を開けると、男の運動靴がある。

私のお父さんの物じゃない。


あいつが来てるんだろうなぁ。


リビングのドアを開ける。


「あっ‼陽沙子!おかえりー!」


うちの学校の制服を着た男子が、堂々とソファーに座ってテレビを見ている。


有永勇人ありながはやと

いわゆる幼馴染だ。


「シカトっ⁉きついわー。」


勇人がオーバーリアクションに顔をしかめて言う。もう何年も『勇人』なんて呼んでないけど。


「有永、なんの用?」


こっちは疲れているのだ。即刻家から出て行ってほしい。

それに、勇人を見ると捨てたはずの未練が甦ってきそうで。

勇人、気を付けてよね。私の良心はすぐに変わってしまいがちだから。


「美紗子に用があって、まだ帰って来てないみたいだから待たせてもらってる。」


屈託のない笑顔で勇人が美紗子の名前を言った時、胸の中を何かが渦巻いた。

黒くて、汚い何か。

って、何言ってんの私。いい加減懲りなさいよ。


勇人の家はうちの隣の隣だ。と言っても、うちの隣は公園だから、実質お隣さんになる。


幼稚園からずっと同じ学校だけど、今は科が違うから学校で関わる機会はほとんどない。勇人ともし同じクラスなら、私の唯一の友達ということになる。


「お母さんは?」

「紗和さんなら、買い物に行ったよ。」

「そ。」


最低限の会話を済ませ、二階の自室へ向かった。

鞄を放り投げ、そのまま床に寝そべる。お気に入りのクッションに顔を押し付ける。


『お前は実の姉妹の身代りになれるか?』


死神の言葉が頭を過る。

どうなんだろう。


私は、美紗子の為に死ねるようないい子じゃないよ。嫉妬で、美紗子を恨み続けたような悪い子だよ。


だったら、このまま悪い子でいいじゃないか。どうせ私は自分が可愛いよ。まだ生きたいよ。


もし、美紗子が私の立場だったらどうするかな。きっと迷わず自分を犠牲にする。そうゆう人だから。

だったら、私は逆の選択をしてみようか。私はどうせ美紗子とは違う。軽蔑されたっていい。これまでだって、美紗子と比べられなが生きてきた。


ああ、嫌だ。こんな自分が嫌い。気持ち悪い。


なんて性格の悪い方向に思考が進んでいると、玄関が開く音と、話し声が下から聞こえてきた。お母さんが帰って来たのかな?


次第に、階段を上がる音が近づいてくる。美紗子かな。


私の部屋の前で足音は止まり、ゆっくりとドアが開けられた。


「陽沙子?」


ドアから覗いた顔は、意外にも勇人だった。


「何勝手に女子の部屋開けてんのよ。」


寝そべった状態のまま睨みつける。

本当はそんなに怒っちゃいないんだけど。私がこんな調子で話せるのは勇人だけだ。と言うか、友達と呼べる人なんて勇人しかいない。


「美紗子に用だったんしょ?今帰ってきたんじゃない?」


『有永の大好きな美紗子が帰ってきたね。』なんておちょくってやろうかと思ったけどやめた。どうしてもまだ虚しくなってしまうから。

虚しくなるだけならまだマシだ。汚い感情が湧き出るのは阻止したい。


「陽沙子、今日体調悪かったんだってな。今美紗子に聞いた。」


何て返事していいかもわからないから、とりあえず黙って聞く。


「陽沙子、ちゃんと友達いる?」


珍しく真面目な顔して何を言うのかと思ったら、失礼な奴だ。

まあ、いないんだけど。


「いないし、作ろうとも欲しいとも思わない。」


これは本音だ。

幼い頃いた友人だって、心のどこかで私と美紗子を比較しているのが見え見えだったし、過去にはいた好きな人だって美紗子のことが好きだった。

…ってか今そいつが目の前に居るってどうなの。


とにかく、私の欲しいものは全部美紗子に取られていった。昔から。

だから、もう何にも興味を持たない。自分を守るため。

髪をこの色に染めたのだって、私と美紗子を決定的に区別したかったから。

好きな人だって、もういないよ。いたって無駄だってわかってるから。

もう、いないよ。


じっと勇人を見つめたままでいると、勇人は深い溜め息をついた。


「わかった。でも、俺は陽沙子の友達だから。」


そう言い残して、勇人は下に降りて行った。

『友達だから。』って、私に対する嫌味ですか?鈍感男。


さて、どうしよう。

今このままの私なら、きっと一週間後、美紗子を庇ったりしない。その選択が、その答えが保健室で流した涙に嘘をついていることになっても。


結局、なんの解決も無く一日目は終わってしまった。



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