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第二話 終わりの予感

『なんで私がこんなところに…』


陽沙子はついに体育館前に来ていた。

今すぐ立ち去りたいのに、何故か体が動かない。


「新井さん…?」


急な声に驚き、反射的に振り返る。

そこには、顔は知っているものの名前は思い出せない同級生の女子が立っていた。

心配そうな顔でこちらを覗き込んでいる。


「顔色悪いけど、大丈夫?」


必要最低限のこと以外で誰かに話しかけられるのは、かなり久しぶりのことだった。

何か返事をしたいのに言葉が出てこない。


「もしかして、美紗子ちゃんに用事?

呼ぼうか?」


美紗子の名前を聞いて、心臓がさらにギュッと絞まる。


『なんでもないの。帰ります。』


そう言いたいのに、何故か口が言うことをきかない。

久しぶりに学校で話しかけられた緊張からではないことが直感でわかった。

なにか、もっと運命的なもののせいで上手く喋れないような気がした。

額を汗が伝うのがわかる。

心臓の音が聞こえてしまいそうだ。


『なんなの、これ…』


そう思った瞬間だった。


「演劇部の練習を見に来たんだけど、いいかな?」


陽沙子は一瞬、この言葉を発したのが誰なのか理解できなかった。

コンマ数秒後、それが自分が発したものだと気づいた時にはもう遅かった。

やっと口が開いたと思ったら、吐き出した言葉は自分の意思とは全く反対のことだったのだ。


「そうだったの、どうぞ!」


女子生徒が笑顔で答えた。


陽沙子は、非現実的なことが起きていると感じた。

オカルトは信じない方だが、この事態は明らかに異常だった。


意思と体が伴わない。


胃の底が渦を巻くような感覚がして気持ち悪い。


まるで、何かに強制的に動かされているようだ。


何か得体の知れないものに対する恐怖で手足が震えているのに、しっかりと体育館内へ歩いている自分がいる。


『何が起こっているの⁉』


そう思いつつ、ついに陽沙子は視界に生き生きとした美紗子を捉えていた。


美紗子の演技は、昔と変わらずとても魅力的だった。

役を演じているのではなく、役と一体になっているのがわかる。見ている人全てを魅了し、自分の世界へ引き込む。

そんな懐かしい美紗子の演技を見て、素直に賞賛したい気持ちと、恵まれ過ぎた才能に嫉妬する気持ちとで陽沙子の頭はパンク寸前だった。


また、足が一歩一歩動く。


足は、舞台のすぐ前まで来て止まった。


演技をしている美紗子が陽沙子の存在に気づく。

一瞬驚いた顔をして、すぐに優しく微笑む。


その優しい微笑みさえ、今の陽沙子には辛かった。


『どうして?

私は何も悪くない美紗子を妬んだりするの に、どうして美紗子はそんなに優しいの?』


胸が張り裂けそうになる。


その瞬間、陽沙子は上の方で微かな音を聞いた。



ミシッ…



と、次の瞬間。



ズダンッ‼‼


目の前に、大きなものが落下した。

本能で目を瞑る。

何かが落下したと同時に、生温い液体か何かが頬についたのがわかった。


瞑った目をゆっくり開く。


瞬間、信じれないものが目に飛び込んで来た。




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