第1章 古文書 その3
「バタン!」と、かなり大きな音をたてドアを思いっきり開け放し、雨雄は局長室に入っていった。
「おいおい、今度はお前がドアを壊すつもりか?」と、局長の椅子で、まるで雨雄を待っていたのかのように、手に金色に輝くディスクの入った透明な樹脂で出来たケースを持って、それを持て余すかのように手で回しながら、ゆったりと座りながら、やっと来たかという顔をした。
「親父!どういうつもりだ!」半ば怒鳴りかけながら、雨雄は局長の机までどかどかと歩み寄りながら続けた、
「何の手続きも無く民間人の船を奪って、破壊するなんていつから時空局は、宇宙の賊になったんだ」
「まあ、ドアぐらい閉めて来いよ」
「俺にとってドアが開いてようが閉まってようが、どうでもいいこった」と、毒づいたが、再度晴雄に、
「いいから閉めて来い」と、今度は諭されるように言われると、しぶしぶドアを閉めにいった。ドアを閉め雨雄がこちらに向き直り、目が合うと、
「手続きはお前がオカンパを離陸する時から、ちゃんと取ってある。お前が離陸したと聞いたとき、USG(銀河連邦)の艦船に連絡を入れ、お前の船をモニターしてもらっていた」
「それだけじゃあ、手続きとはいえないだろう」
「もちろんそうだ、最近このデルタ宇宙域でも、頻繁に軍事訓練がなされる様になって来ている。それというのも隣の銀河アンドロメダからの歓迎出来ざる客が多くなってな」
「俺はそんな政治的な話をしに来たんじゃない、俺の船の話をしに来たんだ」
「まあ話は最後まで聞け、お前は星から出発したあと、銀河の淵まで航行して行っただろう」
「ああ、それがどうした、いつも銀河の端まで行って恒星が少なく小惑星のある宙域で、思いっきりスピードを出し、小惑星を避けながら飛行させるのが、俺の楽しみだよ」
「あの宙域は今軍事訓練中でな、今回、USG艦船にとって追跡を依頼されていた船だったので、無警告でいきなり発砲は無かったが、このままこの宙域に留まれば打ち落とすしかないのですが、という問い合わせが時空局の方に来てな」
「ちょっと待てよ、軍事訓練なんて初耳だぞ」
「お前は宇宙管制官の管制を、いつも無視しているからそうなるんだぞ、これからはこの辺もUSG戦艦が頻繁にパトロールするという事だし、管制官を無視して航行していると、誰何なしでいきなり攻撃ってこともありうる」と、晴雄は言って、手にしたケースをテーブルの上に、大事そうに置いた。
「なんだって、それじゃあ、おちおち飛んでいられなくなるのかよ」
「そうだ、USGから連絡が入ってから、時空局の方ではUSG艦隊に随行していたパトロール船を出して、お前を追いかけるふりをして追っ払ったって訳だ」
「しかしそれで俺の船を取り上げ、しかも破壊までするこたぁ無いじゃないか、越権行為どころか、違法行為じゃねえのか」
「いや船を押収するのは、法的手続きにのっとって行われた、何せお前は無許可で訓練宙域を航行していたんだからな、まだ、USGが処理を時空局に任せてくれたから良いような物の、艦隊が排除しようと思えば簡単にできたんだぞ」
「そ、そうかよ、じゃあその後の船の破壊はどうなんだよ」と、さすがの雨雄も少しうろたえながら、それでもなお抗議を続けた。
何せ、雨雄の船は押収後すぐにイコムスの太陽に向けコース設定され、後に太陽に飲み込まれ、その原形をとどめる事は無かったのだ。
「あれは、時空局から父親の俺が船をもらい受け、俺の個人的依頼で破壊して貰ったのさ」
「畜生よくもやってくれたな」雨雄が毒づいたが、晴雄の法的筋は通っていた。
「暫くお前も大人しくしている事だな」
そこまで言うと晴雄は久しぶりに気が晴れたかのように、ゆっくりと椅子から立ち上がり、部屋から出て行った。
取り残されたのは、雨雄と机の上のケースに入った金色のディスクだった。
雨雄は金色の物には目がなく、親父への腹いせのつもりで、そのディスクをケースごとテーブルから引ったくり、部屋から出て行った。
その後、ケースをしまいに部屋に引き返してきた晴雄だったが、まさか雨雄が持ち出したなどとは露知らず、探し回っていたが、インターコムで緊急事態を知らせる連絡が入り、その後しばしそのディスクの事は忘れてしまっていた。
そのディスクには古い地球の言葉で「未来の子孫に告ぐ」と書かれてあったが、雨雄はそれを読むすべを知らずに持っていったのだった
このディスク、現在のDVDなのですが、実際は1000年も内容が保存されないんですよね。
自分ながらちょっと浅はかだったかなぁ。
でも、読んでくれてる人は、内容が1000年もったと思って頂きたい。