第14章 家族 その4
クラスミ家の一同も息を潜め、皆緊張した面持ちで晴雄の顔を見ていた。
晴雄にとって今ペリタン星に行けば、雨雄の言う通りの生活が出来るだろう、しかしそれは過去に行くという事になる。
今更ながらでは有るが、自分はこれでも第三宇宙域の時空局の局長を務めている人間だ。
その自分が過去にタイムトラベルをして、過去で10年も暮らすのは自分の仕事を否定する事になり、職務に対して背任の念が生まれて来たのである。
そしてこう切り出した、「しかし、時空局長の俺が過去に行くのは無理だ」と、晴雄は諦めのような口調で小さいくそう言うと、
「おやじ、何か肝心な事を忘れていないか。俺が病院でなんて言ったか覚えてないか」
すると晴雄が、「何て言ったんだ」と、ちょっと思い当たらないなと、言う不審顔でそう尋ねると、雨雄が、
「俺はすでに、ここに母さんが居ると言ったんだ」と、雨雄が言うと晴雄も、
「それは確かにさっき言ったが、そりゃあ確かに母さんはあそこで眠っているさ、俺にもちゃんと目がついてんだから見りゃあ判るさ」と、
そんな事言われなくても判るさ、とでも言いたげにそう言うと、それまで黙って二人の会話を聞いていた奨一が、
「あっ、そうか雨雄君が言いたいのは、おじさんとおばさんが暮らすのは、すでに過去の事でもう起きた事なんだって言いたいんだよ。
確かにおじさんはまだここに居るけれど、これから過去に行き暮らさなければ、ウエスダーが生まれてこない。
しかし、既にウエスダーが生まれているって事は、おじさんが過去に行って暮らす事はもう起きた事なんだ」と、ふっと答えがわかったので、思わず大きな声でいっきにそう言った。
「大あたり」と、雨雄はそう言って、「俺はうまく説明できなかったが、奨一さんがうまく説明してくれたよ。
おやじ、もうおやじがペリタン星に行くのは40年前に決まっていた事なんだよ。
この事に逆らう方が、時間の不文律に多分逆らう事になると俺はそう思う」と、雨雄は付け足した。
晴雄は思わず「何故だ、俺はアコーニィ号に居る母さんを救出に行けないのか」と、言って目の前の机に顔をガツンとぶつけた。
割と強く打ち付けた為、顔に軽い傷跡が付いた。
その傷は少々皮膚を切り額から血が出てきた。
それを見た恵子は、あわてて切り傷用のテープを持ってきて、晴雄の額に張った。
クラスミのおばさんは、そのテープを見て「あら、あの時のあつしさんだ」と、ポツリと言った。
クラスミのおばさんはペリタン星で戦災に遭い、その戦火をかろうじて逃れ、当時長男がお腹に居て戦闘が終わった後、すぐにガジャド星に帰る為に空港を急いで歩いていた時の事を話し始めた。
あまりに急ぎ足だったため。倒れそうになった。
そこに「あつし」と名乗る男が居てその男に助けられ、長男と共に無事ガジャド星に帰れた事。
そして後に連絡を取り合うようになり、その家族とも仲良くなり、家族同士の付き合いをするようになったと、昔話をした。
その「あつし」と最初に会った時に顔にテープを付けていた。
その傷は戦闘によるものだと思って、あまり気にしていなかった。
今こうして見てみると、あのテープは、今晴雄さんが付けている所と寸分違わない所に付いていて、晴雄が間違いなく「あつし」だと言い切れると、言った。
晴雄はそこまで言われようやく決心し、リギュンに乗り出発する事にした。
出発は、おばさんの話での晴雄の様子から、すぐだと言う事になった。
晴雄は雨雄に10年後あのアコーニィ号に迎えに来るよう言い、母さんとウエスダーを見ていてくれる様に、言った。
雨雄は、「治療法が見つかるまで、母さんたちは寝ているだけだから、俺でも大丈夫さ」と、軽くうなずき「だからおやじは心配せずに行ったらいいさ」と、極力晴雄に気がかりにならないよう言った。
晴雄は雨雄のリギュンに乗り、40年後のペリタン星の病院に降り立ち、ルインダを見つけ出し、そこに居た患者や病院スタッフたちと共に非難させ命を救った。
そして、ルインダと共に名前を変え、晴雄が果たせなかったルインダとの幸せな10年間の生活が始まった。
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