第14章 家族 その2
「ちょっと待てよ。じゃあ、あの時ぶつかった小型船みたいなやつは、お前だったのか」と、
晴雄は雨雄を指差しながら言った。
「ああそうだ、俺もおやじが乗っていたなんて、丸一日判らなかった。
ペリタン星で整理してた時に、リギュンに残っていたの記録の中から間違いなく、俺と昔のおやじが乗っていたリギュンとがぶつかっていた事が判った」
「俺の方はぶつかる直前、ワープであの場所から逃げようとしていた。
ぶつかって船がキリモミ状態になっちまって、ワープするように命令した。
だけどコンピューターは混乱しちまって、またもやワープとタイムトラベルと同時にしちまったんだ」と、
雨雄は息継ぎの為言葉を切ると、つかさず晴雄が、
「で、何処に着いたんだ」と、話の続きをせかした。
「着いた所は・・・」と、雨雄、
「着いた所は?」と、みんな。
「今から40年前のペリタン星だった。
そう、あの『ペリタン星奇跡の大勝利』と言われる戦闘が始まったばかりの所だったよ。
そこで俺は救助した女性のメディカルチェックでリギュンでは十分な治療は出来ないと判り、とりあえず目の前にある惑星に降ろそうと決めた。
星の様子から、かの有名なペリタン星だとすぐ判ったけれど、どの時代かも判らないので、戦闘の様子からここ50年以内だと推測しネットに繋いで見た。
そして病院を探して母さんを降ろしたんだ。
ちゃんとメディカルデータを付けてね」と、そこまで話した。
そこまで誰も口を挟まなかったので、一気に話したがペリタン星にルインダを降ろしたと聞いた晴雄が、
「ぺ、ペリタン星に降ろしただと、場所が判っているのなら今から迎えに行こう」と、またしても雨雄の腕をつかみ、
「30年前のあの場所につれて帰ろう、そうすれば何もかもうまく行く、そうだうまく行くんだよ」と、
今度は完全に我を忘れ雨雄を激しく揺さぶった。
「おやじ」と、雨雄はゆっくりと、そしてしっかりと、低い声で晴雄をなだめるように言った。
「だめなんだよ、おやじ」
「なんでだ、時間も場所もはっきり判ってるのに、何故だめなんだよ」と、
晴雄がまるで子供の様に口を尖らせ不服そうに言ったが、雨雄は、
「降ろした病院は戦闘中に破壊されたんだ。
中に居たほとんどの患者は無事に難を逃れたんだけど、戦闘終了後多くの患者や病院スタッフの証言で、病院が破壊される前に不思議な男が現れ皆を救ったそうだ。
そして母さんと共にその男は何処へとも無く消えたそうだよ。
それに、父さん自分はどんな職業か忘れたのか」と、
雨雄が言ったが、晴雄は、
「それがどうした。今そんな事が大事なのか、俺にとって大事な事はルインダを元の時間に返す事だ」
「おやじ、冷静に考えてみろ。2日前ここのドクターが何て言ったか覚えているか。母さんはここに居るんだ」と、冬眠カプセルを指差し晴雄に言った。
「それがどうした」と、なお納得のいかない顔で晴雄が言ったが、
「時間の不文律だよ、父さんなら判るだろう。
もう母さんはあそこから帰れない、返してはいけないんだよ。
母さんは10年間ペリタン星で暮らし、その後連れ合いを亡くしこのイコムス星に移り住んだんだよ。
俺たちの時間軸では母さんは40年前から暮らしてたんだよ」と、言った所でウエスダーが崩れる様に倒れた。
「あら、まあ」と、クラスミのおばさん。
「早く、ドクターを」と、奨一が叫び、すぐさまドクターが呼ばれた。
検査の結果は、ウエスダーの症状は美奈代と同じ症状である事が分かった。
詳しい事はまだ知らされなかったが、どうやら遺伝的な要素があるらしく、ドクターにウエスダーも冬眠カプセルに入れる事を薦められた。
「まあ、美奈代さんだけでなくウエスダーちゃんまで・・かわいそうにねぇ」と、涙ぐんでいた。
「おばさん、姉さんは別に死んだ訳じゃあないよ。きっと治療法が見つかって助かるよ」と、雨雄はおばさんの肩を抱きしめた。