第14章 家族 その1
地球の西暦で言う33世紀のイコムス星に帰ってきた雨雄は、家族を母の冬眠カプセルの前に集めた。
今日は他にクラスミ家のおばさんと、長男の奨一、次女の恵子とが、美奈代のお見舞いに来てくれていて、総勢6人いた。
晴雄は美奈代が倒れてから、酒を飲むのを控えているので見るからに元気そうだった。
それに引き換えウェスダーは何処かしら元気が無く青白い顔をしていた。
クラスミのおばさんからは、「あんた元気が無いわね。何処か具合でも悪いんじゃあないのかい、4日前はあんなに元気だったのにねぇ、」と、会った早々言われた。
「ちょっと、めまいがするんだけど、大丈夫よ、安心して」と、言っておばさんを安心させていた。
「雨雄。何の用事があってここにみんなを集めた」と、晴雄が切り出すと、
「この4日間で俺は三度過去に行ってきた。最初は単純に俺の・・いや、我が家のご先祖を尋ねにいく事が目的だったけれど、過去に行く事自体はあまり問題じゃなかった」と、雨雄は一呼吸入れた。
「最後のタイムトラベルで、俺はあつしさんと美奈代さんを未来に招待しようと、二人を船に乗せてこの時間に帰ってこようとした」と、ここで「ふっ」と、息を吐いた。
「だけど、俺の性格は皆も知っての通りせっかちなんだよね。
よりによって、タイムトラベルとワープを同時にしちまったんだよ。
時間を移動しながら、空間も移動したらイコムス星に帰るのも早いだろうと思ったんだ」と、雨雄が言った時横から晴雄が、
「馬鹿な事を、そんな事をしたらタイムブイの位置をコンピューターが見失っちまうじゃないか、それでいったいどうなった」と、少々呆れ気味に言って、雨雄の次の言葉を待った。
「リギュンは見事にタイムブイを見失っちまったよ。そして着いた所が今から30年前の、あの事件のあった場所だったのさ」と、言って手を頭の上まで持ち上げ、自分でもばかばかしいと言うような顔をして、手のひらをひらひらとさせた。
「あの事件のあの場所だけじゃあ、何処の何なのかさっぱり分からん。だがまてよ30年前の、って、お前まさかアコーニィ号のあの事件か」と、晴雄は多少自信無げに雨雄に聞くと、
「ああ、そうだまったくその瞬間だった。
しかし到着した時は何処のどの場所か全く判らなかった。
出た所はアコーニィ号を挟んでASGUの戦艦の死角に居た。
その内ASGUの戦艦に見つかっちまった。
まあ見つかるまでに、ある人をアコーニィ号から救出したんだけどな」と、言って皆の顔を見回した。
「ある人って、だあれ」と、ウエスダーがひょっとして実父ではないかと、期待を込めた目で雨雄を見ながら、しかし体調が悪くかすれた声で弱々しく元気なくそう聞いた。
「それは・・・」と、雨雄がここで切るものだから、みんなが前に身を乗り出し、次の雨雄の言葉を待った。
「織田・ルインダ。そう、あの事件で行方不明になっていた俺の母親であり、おやじの嫁さんだよ」と、やりきれないと、いった風に雨雄は下を向いた。
ウエスダーは「そう」と、がっかりした様に小さく言った。
晴雄は「そ、それでどうしたんだ母さんは、今何処に居るんだ。
つれて帰ってるんだろう。
どこか具合でも悪く病院にでも行っているのか。
それともUSGの方で事情聴取でもされてるのか」と、
いくつもの質問をいっぺんに雨雄に浴びせたが、雨雄は一つ一つの質問が出るたびに首を横に振り否定していった。
「じゃあぁ、母さんは何処に居るんだ」と、語気を強くして晴雄は雨雄の襟首を掴んで、前後にゆっくりと揺さぶるように聞いた。
「おやじ、」と、雨雄、「ん、」と、晴雄。
「痛てぇんだよ」と、雨雄は晴雄に手を離すように晴雄の手を押えた。
「ああ、悪い、つい興奮しちまった。」と、言って掴んでいた襟首を離し再び、
「母さんは何処に居るんだ」と、今度は冷静に低い声で雨雄に聞いた。
「救助した時は攻撃されている船が、アコーニィ号とさえ判らなかった。
まして救助した女性が俺の母親だなんて誰が想像できると思う」と、
雨雄が言い、さらにこう続けた。
「救助した途端、ASGUの戦艦に見つかっちまって追われだしたんだ。
そうこうしている内にやつら撃ってき始めて、俺は逃げなければやられそうになった。
ワープしようとした途端おやじが乗ったリギュンにぶつかっちまったのさ」と、
別に晴雄が悪い訳ではなかったのだが晴雄の方を見返した。
晴雄も睨まれたみたいになり思わず、
「いや・・・すまん」と、謝ったが、なぜ俺が謝らなくちゃならないのか思ったが、声に出たのは他の事だった。