第13章 ペリタン星 その3
あつしの言う場所で映像を止めてみると、そこに船首に近い部分が写っていてうっすらと船体の横に「ACCO・・・」と書かれてあった。
雨雄は「ン!」と、小さな声をだし、しばらく考えて「リギュン、すまないがDNAの検索は後にして、ちょっと貨客船のリストから分かっているやつだけでいいから、『ACCO』で始まる船名の船を探し出してくれ」と、言った。
リギュンがその検索結果を出す前に、雨雄はすでにこの船の名前がおおよそ分かっていた、と言うより予測していた。
ただ、その答えを雨雄はまさかと思い、また信じたくないと思っていた。
程なくリギュンのコンピューターが、検索結果を報告してきた。
「『ACCO』で始まる貨客船は現存する船はありません」であったが、雨雄は「過去に『ACOO』とあった船はあるか」と、聞きなおすと、
「過去に一隻、ASGUの攻撃で破壊された『ACCONY』と言うのがあります」
そのアコーニィと言う船名を聞いて、雨雄は頭の回路がショートしたかのように、しばし体の全ての動きを止めた。
女性のDNAの検索を再開していたリギュンは、ある人物とDNAのデータが一致する事を知らせた。
それは、雨雄が今一番考えたくない、そうであってほしくない人物の名、それは雨雄が思っていた通りの人物、「ルインダ」だった。
雨雄はしばらく頭の中を整理してみようと、色々と考えてみた。
『まず、俺がペリタン星に連れて来たのは実の母のルインダだった。まずはここからだな。』と、一人で一つうなずき、『今の義母、美奈代はペリタン星から来たという事だった。
義母は先日倒れ病院に担ぎ込まれ、そこでのDNA検査で母ルインダとDNAが一致すると医師に告げられた』と、ここまで考えると、疑う所が無くなった。
『母さんはあのASGUの攻撃で死んだ訳では無く、俺がアコーニィ号から連れ去り、ペリタン星に置き去りにし、後に晴雄の前に現れ、二人とも元の夫婦とは知らず、再婚していたのか』と、そこまで考えると何故かブルッと寒気がした。
その理由の一つとして、母はこのままいくら捜しても見つからないだろうと言う事、それはすでに30年前、母ルインダが死んだと思われた直後、義母美奈代が現れ30年間ウエスダーと共に4人で暮らしている。
今いる時空は過去ではあるが、雨雄の時間軸から言えば4人で暮らした30年間の延長線上にあり、義母がペリタン星から来たのは、もうすでに起った事なので、雨雄がどうあがこうが過去を変えることが出来ないのである。
その事を理解した雨雄は、実の母ルインダと判ってから、母を捜索し連れ帰りたい気持ちが増していたが、手をグッと握り締め、その気持ちを手の中で潰すように押えた。
仮にいくら時間をかけ、捜索しても見つからなかっただろうし、雨雄がした事は母の命こそ自分が救ったことは間違いなのだが、同時に幼い雨雄の命を自分自身で救っていたのだ。
「よし、とりあえずでもないが、君たちを元の所に返そう、そして俺は帰るべき所に帰る事にしよう」と、あつしと美奈代の方を見てそう告げた。
「しかし、救助した女性はどうするのですか、ここに置き去りにするのですか」と、美奈代は女性と一言二言、言葉を交わした事もあって彼女の事を心配した。
「それは地球に帰る船内で、少しずつ話しましょう」と、言って雨雄はUSG戦艦ザイエルフィの、シドフィル中尉に連絡を取り、
「40年後、銀河の外延で待つように」と、念を押してから、「それでは私たちは帰るべき所に帰ります」と、別れの挨拶をして出発した。