第13章 ペリタン星 その2
リギュンに帰った雨雄はあつしと美奈代にもう少しここに居て、先の女性を捜索したいと言った。
「そうですね、私たちも残って頭の整理をしていたのですが、整理しようにも私たちの時代ではとても理解できない事だらけです。
と言う事で理解しようという事は諦めました。ただやはりあなたと一緒で先程の女性の安否は気になりますから、私達にも何かお手伝いしたいと思っています」と、あつしは申し出た。
「協力の申し出ありがたいです、しかし失礼だとは思いますが、あなた方には多分何もしていただく事はないと思いますので、そこに腰掛けて待っていてください」と、雨雄が言った。
雨雄は救助直後行った、彼女の生体モニターデータを見直す事から始めた。
すでに治療室は掃除されきれい綺麗になっていたが、ルインダの寝ていた時の髪の毛がベッドに数本の残っていた。
その髪の毛からDNAデータが何かの足しになればと思い、病院に転送する際一緒に送っていた。
そのデータを雨雄は再検討しようと呼び出し、まず何処の誰なのかを特定しようとリギュンのデータベースとの照合を始めた。
しかし、照合その物はリギュンのコンピューターが処理するので、雨雄は特に何もする必要が無く、当然の事ながら、ただコンソールの前に座っているだけになった。
またあつしや美奈代も、何をするでもなく雨雄の後方に出発の時に用意された椅子に、ただ黙って座っているだけとなり、コックピットの中に静寂が、三人の気まずさを漂わせていた。
もともと、ただ静かに黙って座っている事など出来ない雨雄は堪りかね、
「おいリギュン、貨客船が襲撃されていた時に、記録された映像を出してくれないか」と、リギュンに命じた。
「最新の映像でよろしいでしょうか」と、そうリギュンは確認してきた。雨雄は特に何も考えず「ああ」と、だけ答えた。
前方のスクリーンがペリタン星の丸い一部を映し出していたのが、切り替わり、あつしたちも見覚えがある光景が出てきた。
それはただ星だけが写っていた光景だった。
「この映像はもういい、ほかの角度からの記録がないのか」と、雨雄が言うと、
「あの時空に出て、船を感知してからのがあります」と、リギュンではなく、ビオーヴェが答えた。
「なんでお前が答えるんだよ」と、雨雄が不服そうにビオーヴェに向かって言うと、
「リギュンは照合中で忙しく、私に答えてほしいとの事です」と、ビオーヴェが言うと、
「そんな事俺たちの間で、わざわざ言わなくてもいいだろうに、なんでだ」と、再び雨雄が言うと、ビオーヴェは澄まして「お客様サービスです」と、言ってあつし達の方を見て軽く会釈をした。
雨雄はやれやれと言った風に手をひろげて、
「分かったよ、じゃあその映像を見せてもらおうか」と、ひろげた右手をスクリーンの方を示し、ビオーヴェを促した。
その映像はいきなり強い光線が発せられる所から始まっていた。
骨のような貨客船、そしてその骨みたいな骨格の合間から見えるASGUの駆逐艦級の戦艦の前方に砲身ではなく、何かエネルギィ光線を発するパネルの様なものが大きく開いていた。
「あいつら何をやってたのかな」と、ぼそりと雨雄が言ったが、それに対してはビオーヴェもあつし達も何も答えなかった。
しばらく見ていたあつし美奈代が、こそこそと話し始めた。
「アコーディオンみたいだからじゃないか」と、あつしが美奈代に言うと、「私には『アコー』しか見えなかったんだけど、アコーディオンみたいに長くは無かったわ」と、美奈代は、あつしを否定した。
「あのう、お二人で何の話をしているのでしょうか」と、雨雄が聞くと、あつしは、
「たいした事では無いのでお構いなく」と、なんだか邪魔になったのではないかと申し訳なさそうに答えた。
「いや、何か気になる事があれば教えて下さい。思わぬ所に手がかりがある時があるものですからね」と、雨雄はあつしに再度何を話していたのか聞きなおした。
「映像にさきほど船名が書かれていた様に見えたのです。『アコー』何とかって、書いてあった様に思ってそれを私が船の恰好が『アコーディオン』みたいだから、『アコーディオン』って書いてんじゃないかって言ったんですよ」と、あつしがそう言うと、
「それはどの辺りで出ていましたか」と、雨雄が聞き返したが、
「どの辺りと言われても、ゆっくりと再生してもらったら分かり易いのですが・・・」と、あつしはちょっと自信無げに言うと、
「それでは逆再生してみましょうか」と、言って前を向くと、すでにモニターの映像は逆再生されていた。
「ああ、そこです。ちょっと行き過ぎました。もう少し行った所です」と、あつしが映像の場所を示してきた。