第13章 ペリタン星 その1
いよいよ色々な疑問が、解けて行きます。
「こちらにどうぞ」と、その若い士官は雨雄を一つの部屋に案内した。
雨雄に今回の働きに感謝の言葉を述べたいと、ペリタン星の防衛担当司令官が、雨雄を艦隊の戦艦に招待していた。
あつし達には「すまないがこのリギュンで待っていてほしい」と、言って、一人だけで出向いてきていた。
あつし達は、今この状況が今だ現実なのかどうか、自分達でも信じられないので、頭を整理する意味でも、雨雄の言う事に従い、リギュンに残った。
部屋に入ると雨雄はどこかで見たような部屋だなと思い、何気なく「この船はなんて名前なんだい」と、その若い士官に聞いた。
「はい、この艦船はUSG作戦司令部直属の作戦指揮艦『ザイエルフィ号』です」と、直立になり、誇らしげに答えた。
雨雄はそのザイエルフィと聞いた途端、「ほう」と、言う顔になった。
そう、それもそのはずで、この船には4日前にこの部屋に通され、シドフィル中将と会談したばかりだった。
部屋の造りはほとんど変わっていなかったが、椅子やテーブルが新しくきれいだった。
そうこうしていると、司令だという人物が、「シドフィル中尉、この方があのガンシップに乗っておられた方かね」と、雨雄の方を見て軽く会釈をしながら、3人の部下と思われる人達と部屋に入ってきた。
雨雄は『シドフィル中尉』と、その司令が言った時おどろいた。
『そうか俺たちはここで合う事になっていたのだな』と、心の中で思ったが、その事は口に出さなかった。
雨雄にとって4日前、この部屋で中将となり、提督の称号を持ったシドフィルに会っていたのである。
司令官たちは一通り挨拶をした後、雨雄に今回の戦績に対し「ここに仮にではありますが銀河連邦を代表し、感謝の言葉を申し上げます」と、言う言葉でこの会談は締めくくられた。
司令官たちは、もう少しゆっくりと戦術などについて話を聞きたいのだが、今はペリタン星の復旧が最優先なのでこれで失礼させてもらいたいと、雨雄との会談もそこそこに席を立った。
部屋を出るとき、司令官が「よければこのシドフィル中尉は作戦技術仕官なので、彼に今回の戦術について少し話してやってくれないだろうか」と、
司令官は雨雄の返事も待たずそう言って、せかせかと足早に部屋を出て行った。
雨雄の心の中はそれ所ではなかった。
戦闘中に敵のミサイルや、エネルギィ光線がペリタン星にも流れ弾として当たっていて、戦いが終わりに近づいた頃雨雄が地上に降りてみると、女性を降ろした病院も直撃を受けていて、その病院の患者やスタッフの所在が確認できないでいた。
病院の有ったあたりや、ペリタン星政府のネットワーク網に入り込み調べても見たが、情報が得られないでいたので少々イライラしていた。
テーブルの対面の椅子にシドフィル中尉が座りこみ話しかけてきた。
「先程の攻撃はどの様にしたのでしょう。と言うよりどの様にしたら気づかれずに、あんなに近くまで近づけるのですか」と、聞いてきた。
雨雄の頭の中では女性のことを考えていたので、シドフィル中尉の言葉を上の空で聞き流していた。
それに、雨雄はあらかじめ彼が何を聞いてくるのか分かっていたので、あまり話に集中していなかった。
雨雄が黙り込み、あらぬ方向を見て黙っているのを見て、「あのう、何か私がお気に召さない事でも言ったでしょうか」と、おずおずとシドフィル中尉が聞くと、雨雄もやっと気を取り直して、
「ああ、すみません。ちょっと気になる事があって、シドフィル中将、あっ、いやシドフィル中尉でしたっけ、ヒントだけお教えしておきます。
今回の戦術はタイムマシンと、時間の波の問題です。そして今はこれ以上の事は話せません」と、一気に話して、
「私も調べたい事がありますので、これで失礼してもいいでしょうか」と、言って雨雄は椅子から立ち上がろうとした。
「ああそうだ、続きを聞きたければ40年後に、この宇宙域の銀河外辺で艦隊を引き連れて待っていてください、提督」と、最後の『提督』と言う言葉は、相手に聞こえるかどうかと言う位小さな声で雨雄は付け足した。
「えっ、ちょっとお待ちください。それだけでは・・・私には何の事やら分かりません。それに私の事を中将と勘違いなさった。どう言う事でしょうか」と、シドフィル中尉は引きとめようとしたが、
雨雄は「40年後、その時話します、それでは退艦許可をください」と、言って部屋から直接リギュンに転送で帰って行ってしまった。
『40年後!タイムマシン。いったい40年後になにがあるのだろうか。もしかしてあの人は未来から来た人で、このピンチを救いに来たのだろうか』と、シドフィル中尉は一人部屋に残され、自問自答していた。
未来から来たのは合っていたが、雨雄はUSGがピンチと知り、自ら助けに来た訳ではなかった。
その事は、今のシドフィル中尉に分かる事ではなかったし、知った所であまり意味の無い事だった。