第11章 防戦 その4
雨雄は女性を船から降ろした事によって、幾分肩の荷が下りた様に思った。
しかし、実際に雨雄がした事は不可抗力と言え、雨雄自身が誰とも分からないままに、自分の母親を生まれて間もない自分と引き離してしまい、どこか知らない星に置き去りにする事になろうとは、この時思いもしなかったのだ。
ルインダをリギュンから降ろした雨雄は、この時空が何処の何時なのかはっきり分かった。
雨雄は今自分が居るのはあの有名な戦闘の最中に居ると判り、この戦闘に自ら参戦しなければならない理由は無かった。
しかし、このまま救助した女性を降ろしたから「それでは、はいさようなら」と、言う性格でもなかった。
実際このままでは地表にある施設まで、攻撃されかねない状況にあったので、雨雄も自ら進んでと言うより、ある意味喜んで攻撃に加わっていった。
雨雄はあの銀河外辺で宇宙艦隊に対して行った攻撃手法で、ASGUの艦隊を次々に破壊して行った。
銀河の外辺で合った銀河艦隊提督、シドフィル中将の言った言葉など、今は露ほども思い出さず、一心にAUGUの艦隊を攻撃していった。
雨雄はまず、とにかく大きい船からやっつけてやろうと考えた。
そこで、あたりのASGUの艦船の大きさをサーチしてみた。
大きな船、ギャラクシィクラスの戦艦が20隻ほどいたので、それを攻撃目標にする事にした。
時空をずらしこちらの姿を隠し、そっと大型戦艦の近くに近づき、艦の急所をピンポイントで狙い撃ちして行った。
ある時は航行装置の排出口、またある時は攻撃の為、砲門が開く瞬間を狙い、その中に高プラズマエネルギィ砲を射ち込んでいった。
ASGUの艦隊は突然20の艦隊旗艦が次々と爆発炎上していき混乱し始めた。
リギュンはギャラクシィ級戦艦と比べると人間と蜂ほどの差があり、当初は突然現れ一刺ししていくリギュンにまったく気付かれなかった。
たまたま敵旗艦護衛についていた駆逐艦級戦艦のセンサーが、高プラズマエネルギィ砲を撃つ瞬間のリギュンを捉えた。
しかしリギュンは撃ってすぐに消えたので、リギュンに対してまったく攻撃を与える事が出来なかった。
20艦近くあった旗艦を、ほぼ半数近く撃破していった頃、雨雄はふと思った。
『これだけの艦隊だから、この艦隊全体を統括している船がどこかに居るのじゃないか』と、この攻撃に来ている艦隊の配置をワイドレンジで探索してみた。
そうすると一隻の軽巡洋艦級戦艦の両脇に、二隻の重巡洋艦級の船が、敵攻撃部隊から少し離れた所に、まるで戦況を見るかのように戦闘行為もせずに停船していた。
雨雄はこの真ん中の船が間違いなく、この作戦執行の中心だと確信した。
そしてその感は当たっていて、この艦にはこの作戦を直接指揮する為に、敵の元帥が乗り合わせていて、この軽巡洋艦級船艦で戦況を指揮していたのだ。
彼らにはこれほどの数で一気にかたが付けられると思っていた。
更に作戦指揮艦になる軽巡洋艦級船艦は、重巡洋艦級船の船に二隻も守られていたせいもあり、比較的無警戒であった。
そこを雨雄は忍び寄り、その指揮本部のような作戦指揮艦を吹っ飛ばしたのである。
そこからは、完全にASGUの指揮系統がおかしくなっていった。
雨雄も残る大型戦艦を楽しんで、次々と撃破していった。
USG側はASGU側の指揮の混乱も手伝い、少しずつASGUの戦艦を押していった。
USG側は、巡洋艦級の船を惑星に残る防衛用衛星に任せ、戦闘の出来る戦艦で小型の駆逐艦級の船をターゲットに絞っていき、とにかく敵の数を減らす事に専念していった。
最初敗戦は時間の問題だったUSG側は、雨雄のASGU各艦隊の旗艦を潰す事によって大きく形勢が逆転し、少しずつUSGの方がASGUを追い詰め始めた。
ある時期を境にASGUは撤退を始めたが、その頃には第三宇宙域に展開していたUSGの三艦隊が駆けつけてきていて、撤退しようとするASGU戦艦の退路に立ちはだかっていた。
USGは降伏を呼びかけたが、各艦隊の旗艦をほとんど失っていたASGUの艦隊は、ただの艦船の集まりでしか無くなっていた。
戦闘を途中で止めることすら忘れ最後まで抵抗し、ことごとく撃破されていった。
敵艦隊のうち、敗走して生き延びたのは20隻有余であった。
そしてここに「ペリタン星奇跡の大勝利」と呼ばれる戦いが、終わったのだった。