第11章 防戦 その1
「おい、いったいここは何処なんだよ」と、雨雄はビオーヴェに向かって問い掛けた。
その時モニターが閃光によってホワイトアウトしてしまい、外の様子がモニターでは分からなくなったが、もともと雨雄にはモニターが必要でなかった。
しかし、同乗していたあつしと美奈代は、何が起きたのかさっぱり分からなかった。
リギュンはあつしと美奈代を20世紀の地球で乗せ、32世紀のイコムス星に向かうためのタイムトラベルを抜けた所だった。
今回、空間移動する為のワーム空間移動中に時間移動、つまりタイムトラベルもしようと雨雄が言い出した。
そもそも、ワーム空間では通常空間と違い、時間の概念が今だ定義されていないので、この空間でタイムトラベルはしないよう時空局では呼びかけていた。
だが雨雄は空間移動しながら時間移動した方が効率的じゃないかと、無理押しした結果、何時の何処なのか分からない空間に出てしまったのだった。
「なんだぁ」雨雄はモニターではなく、リギュンのセンサーで船外の様子を探ってみると、「おい、上に何か居るぞ」と、雨雄が言った。
リギュンの上、上と言っても宇宙空間ではどちらが上で、どちらが下と言った定義が無いわけで、この場合上と言うのは、雨雄たちがリギュンの中で立っている方向での、頭の方の事になる。
そこにUSGの貨客船が有り、今は航行を停止していて、乗客や乗員らしき人たちが乗った非常脱出用の貨客用のユニットが、その船から四方八方に向かい離れていく所であった。
その船の船腹には「ACOONY」と、書かれているのだが、今リギュンは横を向いてその船と平行に並んでいたので、前方を映し出していないリギュンのモニターには、その文字が映し出されていなかった。
この船こそ30年前、雨雄の母が行方不明になり、また雨雄自信も攻撃を受け、あわやと言う所で晴雄に助け出されたと言う船であった。
雨雄たちは、雨雄が出発した時点より、30年前に戻っていていたのだ。
しかし、雨雄はそんな事など露ほどもまだ知らなかったのである。
その事に気が付き自分の運命を知るのは二日後の事になった。
「やばいぞ、ASGUの駆逐艦級の船が、そのまた上に居て、こっちの存在に気が付きやがった」と、雨雄が言った。
「戦闘回避行動を取りますか」と、ビオーヴェが提案したが、
「いや、暫く様子を見てみよう。今の状況では相手も上の貨客船をかわしてからでないと攻撃出来ない筈だからな。
それより、まだ船に残っている者は居ないか調べてみろ」と言い、雨雄も独自にアコーニィ号船内に生命反応がないか走査してみた。
「一名、女の人がいます。生命レベルが非常に不安定です」ビオーヴェが言った。
しかし本当はその横にも生まれて間もない子供が心肺停止に状態で横たわっていた。
おそらくその母親らしき女の人が倒れた衝撃で心肺が停止したのだろう。
だが雨雄たちはまず生命反応から人の捜索をしていたので、その子に気が付かなかった。
その女性こそ雨雄の実の母ルインダであり、横に転がっている子こそ雨雄自身だったが、現在の時間すら掴めていない雨雄にとって知る術は無かった。
いや、実はDNAの検査をスキャンすれば簡単に分かった事だったのだが、まさか自分に関係する人物であろうとは疑ってもいない雨雄だった。
「そうだな、通路に倒れているようだな、すぐに収容しよう」と、雨雄が言ったその時である。
今までこちらの様子を見ていたのか、動かずに様子を見ていたASGUの戦艦が、こちらに武器があって、ある程度戦艦にダメージを与えるような船だと判断したのか、武器システムを起動し始め、ゆっくりとリギュンを狙える位置に移動を始めた。
「くそ、動き出しやがった、貨客船を盾に回避するか」と、言ったのと同時に残っていた女の人を、雨雄はリギュンに転送をしていた。
インターコムのおかげで、雨雄が思っただけで船のシステムが思うように動くので、二つの事をほとんど同時に行えた。
はじめ相手はゆっくりと動いていたが、リギュンがアコーニィ号を盾に回り込むように動くのを見て敵艦は徐々にスピードを上げてきた。
「あつしさんと美奈代さん、お二人にお願いがあります」と、雨雄が二人に顔を向けながらこう続けた。
「今、一人の女性を救助しました。この船の医療室に転送させています。その部屋に行ってその女性の様子を見てきてくれはしませんか」と、頼んだ。
二人には、今何が起きているのかさっぱり要領が得ていなく、ただ先程から、モニターに写る外の星がゆっくりと動いているのを、見ていただけだった。
「今何が起きているのですか」と、あつしが聞くと、
「敵の戦艦に追われていて、その戦艦が攻撃していたと見られる、銀河連邦の民間船から一人の女性を救助した所です。
ちくしょうアンドロメダ連邦のやつら民間船を攻撃しやがって、卑怯先番な奴らだ」と、最後は独り言のように雨雄は毒づいた。
「しかし私たちには星しか見えないのですが、その戦艦や民間船はひょっとして目に見えない様に隠れているのでしょうか」と、あつしが尋ねると、
「ああ、それもそうだな今の船の位置からだと、2隻の船はモニターには写っていなくて見えないな、ちょっと船の向きを変えて、モニターに写るようにしてみるか」と、
雨雄が言うと、今までモニターに写っていた星が、ゆっくり動いていたが「すっ」と、早く動いた。
星が軌跡を残し、モニターいっぱいに白い線が現れたかと思った次の瞬間、モニターに、まるでさんまの骨のような格好をした、宇宙船「アコーニィ号」が映し出された。