第10章 事故 その3
モニターの中では、いや実際の地上では孝一が救急車を手配し、その救急車にあつしや美奈代が乗せられ、病院に向かうであろう様子が映し出されていた。
「おい、ビオーヴェお前何やらかしてんだよ」と、雨雄はビオーヴェがレプリケーターで、二人にそっくりのロボットでも作り、地上に降ろしたのかと思ったのだ。
「坊ちゃん、私は何もしませんよ」と、今まで部屋の隅で黙って三人の会話を聞いていたビオーヴェが部屋の中央の、三人の前まで進み出てきた。
そのビオーヴェの動きを見て、「おお!」と、あつしと美奈代が同時に声を上げた。
今では独立二本歩行できるロボットが開発され、社会に出ている。
しかし、ビオーヴェほど人間らしく真直ぐ立ち、スムーズに歩くロボットはまだ無かったのだ。
しかもビオーヴェの体の表面は金色に輝いているので、これもまた二人の目を引いた。
二人はここに来て初めて今、自分たちが現実離れした部屋に居る事を実感した。
「じゃあ、あれはどうなってんだ」と、雨雄はモニターを指差しながらビオーヴェに向かい詰め寄った。
だが、ここで雨雄は家にあるレプリケーターならいざ知らず、リギュンのレプリケーターでは、食べ物を作るのが精一杯である事に気が付いた。
「待てよ、もう1隻、船が居るぞ」と、外の情報をリギュンのセンサーが雨雄に伝えてきた。
もう一隻の船とは二日後のリギュンで、時間位相を同期させ、雨雄たちに姿が見えるようにしていたのだ。
その船から音声の連絡で、
『この時間はもう問題ない、君たちはご先祖様二人連れて、少し時空間の旅を体験させてあげてはいかかですかな』と、紛れも無く雨雄の声で通信が入ってきた。
「まあ確かに、二人がこの時空間に現れて、時間の流れが正常になったのだから問題は無いと思うが」と、つぶやくように雨雄が返事すると、
『まあ、俺を信じて時空間旅行を三人でしてみる事だな』と、今度はちょっと小ばかにしたような返答が返ってきた。
「ちくしょうめ、あの野郎何か隠してやがる」と、雨雄が毒づいたが、またしても
『なんだよ、自分が自分をけなしやがって、さっさと行きやがれ』と、向こうも毒づいてきた。
「まあまあ坊ちゃん、相手も坊ちゃんなんですから仕方が無いでしょう。」と、ちょっと意味不明な事を言って、更にこう続けた。
「もう、ご先祖さまお二人がここに居ても意味も無くなった事ですし、相手の言う事を聞いて、未来のイコムス星にでもお連れしては如何でしょうか。
私はあまりお勧めしませんがね、どうも相手の坊ちゃんはそうしろとおっしゃっているようですからね」と、ビオーヴェが割り込んできた。
「それじゃあ、行く事とするか」と、しぶしぶ雨雄が言って、別に座る必要も無いのだが、モニター前のシートに座り込んだ。
そしてみんなにこう言った。
「当機はまもなく未来に向かって離陸いたします。座席背もたれを元に戻し、シートベルトをお閉め下さい」
こう言うと、あつしや美奈代が立っていた所に床があ迫上がり、椅子の格好に形を変えていった。
雨雄は、その椅子に二人が座るのを見届けると、二人に、
「この頃の航空機は飛び立つ時こうアナウンスするんだろ」と、二人にウインクして見せ、リギュンの重力制動装置を船が加速した事を体で感じられるよう調整し、リギュンを大気圏外に向け発進させた。
船内のあつしと美奈代に軽いGがかかり、船が動き出した事を体で知る事が出来た。