第10章 事故 その2
雨雄はリギュンに転送して二人を助けたものの、リギュン船内に二人の後を追って帰ってきたのだが、これからどうすれば良い物か悩んでいた。
前回のビルの上での時は、あつしと孝一をビルの上に引っ張り上げ、それを見ていた人々を忘れさせる事で、リアルタイムに事を解決出来た。
しかし今回は、短い時間ではあるが二人を現実時間から消えさせ、すでに数分たっているのである。
あつしと美奈代はと言うと、今まで二人が歩いていたと思ったら突然奇妙な部屋に瞬間移動したので、何が起きたのか訳も分からず目をぱちくりしていた。
そこに雨雄が帰ってきた、その雨雄の顔を見てあつしは
「あっ、あんたはあの時、ビルの下でぶつかった人ですよね」と、あつしが雨雄に向かって聞いてきた。
「へぇー、よく覚えていたなぁー」と、雨雄は感心したがあつしは更にこう続けた。
「確かあなたに合うのは、これで三度目ですよね」
「えっ」と、雨雄はきょとんとした。暫く自分の記憶をたどる様に目が泳いだ。
「ああ、そうか、最初にあなた達を見た時、あなたが私の方を見ていましたね」と、雨雄には珍しい丁寧な言葉で言った。
二人の会話を、今だきょとんとして聞いていた美奈代を見て、雨雄が気を利かせた。
「自己紹介しておきます。私は織田雨雄と言います。
今からおよそ1200年先で地球の西暦で言うと3200年で良いのかな、この地球からおよそ10万光年離れたイコムス星と言う星から、あなた方に会うためにやって来ました」と、
雨雄は胸を張り、はっきりとした言葉でこう言った。
その言葉を聞いたあつしが、「あのぅ、何かの冗談ですか」と、自信満々の雨雄に向かってあつしが、そのプライドを傷つけるかのような問いかけをした。
あつしは真剣にそう聞いたのだが、雨雄はまじめに自己紹介したのに、冗談かと言われ少し「むっ」と、した。
あまりにも話が現実とはかけ離れていて、 まだ簡単に私は「宇宙人です」と、言ってくれた方が二人にとってまだ現実味があっただろう。
「なんだよ、信じないのかよ、それじゃあなた方が突然来た、この部屋はどこだと思ってんだよ。
ここはタイムトラベル出来る宇宙船の中なんだぜ」と、
大きく腕を広げリギュンのコックピットを見てみろと言わんばかりのしぐさをして見せた。
二人の反応は「・・・」であった。
あつし達二人にとっては、あまりにも簡素に出来ているコックピットでは、未来的には思えなかったのだ。
それもそのはずで、進行方向には大きなメインモニターこそあるけれど、その前にはコンソールがあり、そのまた前にはシートはあるが、
コンソールにはタッチパネルの様なものがあるだけで、いわゆる操縦桿みたいな物すらないのである。
しかし、そのモニターをちらりと見て、他に目を向けようとしたあつしの目がモニターの方に釘付けになった。
そのモニターに映し出されていたのは先程まで居た自分が歩いていた道路であったが、そこにはもう一人の自分と美奈代が倒れていて、その脇に駆け寄ってくる孝一と圭子が映し出されていたのである。
そう、ここに居るはずの自分たちがそこに映し出されていたのである。
「そんな、・・・」と、絶句したあつしを見て、美奈代もなんだろうとモニターの方を見た。
美奈代もその画面を見て「えっ!」と言って、口に手を当てて凝視してしまった。
ん?幽体離脱?いやいやこの物語はあくまでもSFです。